小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

風刺画のデンマーク-1 コペンハーゲンポストの記事


 (英兵がイラクの男性たちに対して、虐待をしていた映像・写真が報道されている。私はこういう映像が非常に苦手だ。理屈なく、胸がむかむかしてしまう。考えようとすると、思考停止になる。英紙らはこの件に関わった兵士の名前を知っていたが、国防省のリクエストにより、今のところ出さないことにした、と13日付紙面で書いていた。初出は12日の日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」だ。アブグレーブ刑務所での虐待の反響と同じところまで大きく広がるのかどうかは、分からない。13日の時点では、既に少なくとも1人の兵士が逮捕されたようだ。)

 今日の夜、ロンドンからデンマーク・コペンハーゲンに着いた。

 あの風刺画を掲載したデンマークとは一体どういうところなのか?

 一連の騒動の後で、デンマーク紙の編集長(例の文化部デスクの上の人)などが、「やや反省」「ここまで大きくなるとは思わなかった」と「もらしている」という報道が出始めた。世界のリーダーたちが、ムスリムの暴力(デンマークの旗を焼いたり、大使館を襲撃したり)を非難しながらも、一方では、「報道の自由には責任もともなう」と発言もしたりなどし、英国にいると、デンマーク紙の決断に、「やや熟考が足りなかったのでは?」という疑惑の声が最もらしく、響く。

 しかし、本当はどうなのだろう?

 ・・・といっても、ふらっと来て、全てが分かるはずもない。しかし、それでも、この目で見てみたい、と思った。「外国人の視線」ではあろうが、できる限り見ていきたいと思っている。

 コペンハーゲン空港は、荷物を受け取るところまで歩いていく通路に、既に、スカンジナビアらしい感じがあった。デザインには詳しくないので不正確な言い方になるが、白木のような材質とカラフルな色を組み合わせた待合室の椅子。子供が遊ぶための、これまたカラフルな道具が置いてある。トイレの外装も、とてもトイレとは見えず、ちょっとした現代美術館にいる感じだ。

 夜着いたせいか、空港内は結構閑散としていた。行った事があるフィンランドのヘルシンキ空港とも違うし、大きくて混雑しているアムステルダム・スキポール空港とも全く違う。こじんまり。デンマークの国土は、オランダと同じぐらいだが、人口は3分の1(約540万)だ。空いている感じ。

 英語の週刊新聞コペンハーゲンポストを手にしてみると、例えば、イラン大使が、今回の事件でデンマークから引き上げることになったのだが、帰る前の直前インタビューや、市民のデモの話など、風刺画関連の話題で、英国紙では載っていないような現地情報が入っている。ローカルすぎて、特派員は書かないのだろう。

 この中から2つ紹介したい。
 
 まず一つは、問題となった「ユルゲン・ポステン」紙のライバル紙になる「ポリティケン」紙の元編集長の人の話で、この人は、今回の風刺画問題に対する、反ムスリム感情を減らすために、ムスリムが礼拝するモスクを作ったら、と提案している。デンマークでは20万人のイスラム教徒がいるが、本格的なモスクはないようだ。(驚いた。)50ほどの、仮のモスクがあるだけのようだ。しかし、こんなことをしたら、「かえっておかしい」、と別の人が述べている。

 もう1つは、副首相の話で、ベンデ・ベンデツエン氏という読み方でいいのだろうか、この人が、ムハンマドの風刺画を見たときのイスラム教徒の衝撃は、「まるでキリストが勃起している姿を見たときと同じだ」と、述べている。この部分が見出しになっていて、目を引く。ユランズ・ポステン紙とのインタビューの中で語った内容だ。「ユランズポステン紙の行動は完全に合法だ。表現の自由に反対しようとは思わないが、しかし、沢山の人々を侮辱し傷つけるのなら、どうしてそうするのか?」

 氏は、ムハンマドの風刺画を、かつてデンマーク人のアーチスト、Jens Jorgen氏が描いた、キリストが勃起している作品とを比較した。「好きではなかった」。2年前には、ある商店がキリストが描かれたサンダルを販売して、宗教団体が抗議をしたので、販売をやめたことがあることも話して、デンマークで宗教がらみの事件が起きるのは今回が初めてではない、とした。

 そして、どこまで許されるか?という限度に挑戦しようとしない、アメリカを誉めた。「アメリカでも表現の自由は重要だ。同時に、他人に対する考慮を示す伝統がある」。

 ・・・。最後まで読んで、結局、「政治家の発言」(何らかの政治的文脈の中で自分をアピールするために発言)だったのかなあ・・と思ってしまった。というのも、アメリカのことに詳しいわけではないが、クリスマスの時に「メリークリスマス」と言わないようにするなど(本当だとしたら)、悪い意味のポリティカル・コレクトネスがあるような気がするからだ。イラク戦争開戦前の報道でも、反対する人の声が十分に出ていなかった、というのが通説になっているように思う。

 では、どこの国のメディアが一番いいのかというと・・・・?どこも試行錯誤なのだろうが。

 
by polimediauk | 2006-02-14 07:43 | 欧州表現の自由