デンマーク 5
「漫画はいけにえにされただけだ」
もうご存知の方も多いとは思うが、毎日新聞で風刺画事件のきっかけを作ったかもしれない児童文学作家のインタビュー記事が掲載された。
<風刺画>「表現の自由守り、圧力と戦うべき」 作家が訴え
【コペンハーゲン斎藤義彦】デンマーク紙がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載するきっかけを作った児童文学作家が毎日新聞の取材に応じ、「たとえ損害を受けても表現の自由を守り、圧力と戦うべきだ」と訴えた。
作家はカーレ・ブルートゲン氏(46)。昨夏、ムハンマドの生涯を描く本の挿絵の描き手を探したが、過激派の襲撃を恐れた漫画家が依頼を断ったり、匿名を条件に持ち出した。これを知ったデンマーク紙ユランズ・ポステンがムハンマドの漫画を集めて掲載することを決めた。
同氏は「表現の自由を『自己検閲』している現状を議論するのに良いアイデアだ」と漫画掲載を擁護。デンマーク大使館への放火など中東やアジアで抗議行動が過激化した点を「悲しい」と評した上で、「それでも掲載は正しかった。圧力とは戦わなければならない」と述べた。
「『表現の自由』を掲げようとも侮辱は許されない」との批判に対して、同氏は「社会に活力を与えるためには、たとえ侮辱といえども風刺は必要だ。侮辱を避ければ何も表現できなくなる」と反論、「芸術は常に挑発的だ。時間がたてば受け入れられる」と説明した。
イスラム圏での抗議行動の広がりを同氏は「イスラム諸国に『表現の自由』がないことに対する不満が原因だ。漫画はいけにえにされただけだ」と主張。「文化的な衝突に政府が介入しないのは正しい」とデンマーク政府の対応を支持し、漫画掲載を発案したユランズ・ポステン紙文化部門の編集長が無期限休職とされた措置を「間違っている」と批判した。
同氏は今年初め、ムハンマドの挿絵が付いた児童書「ムハンマドの生涯」を出版、既に4000部を売り上げた。
(毎日新聞) - 2月17日23時30分更新
デンマークに来て5日たち、明日、英国に戻る予定だ。
なるべく幅広い意見を聞こうと、いろいろな人に会ったが、2月1日の仏紙、ドイツ紙の風刺画転載から世界中のニュースになった今回の風刺画事件から約2週間と数日。人々の意見は多様で、未だデンマークは「渦中にある」といった状況のようだ。
いろいろな人が自分なりの予測をしているが、「毎日、新しいことが起きているので、それを追うだけで精一杯」(左派ポリティケン紙のジャーナリスト)、という部分も大きいようだ。
あるムスリムの国家議員が主導し、「民主的ムスリムネットワーク」というグループを2月4日、立ち上げた。これが急速に人気を集めており、連日メディアでも報道されている。今週の月曜日には、このネットワークの代表と首相が会うところまでいった。このネットワークの立ち上げをもって、何らかのポジティブな結果が起きているのではないか、と見る人もいる。否定的な見方をする人もいる。
デンマークに来て、実際に人に会ってみると、間違った情報とまではいかないが、伝えられていない細かいニュアンスがあることが分かった。
例えば、「表現の自由」だが、英国の(あるいはフランスやドイツの??)「表現の自由」の「許される範囲」は、デンマークの「範囲」とまた微妙に違う。
具体例が風刺画で、例えば、ある著名風刺画家が政治家を戯画化するなかで、ある一枚はカラーで、環境大臣が中央にいて、その周りにいる首相や外相などが、下半身を露出し、尿を環境大臣にひっかけていた。背景には、右派政党の党首が、お尻丸だしなっており、排便していた。
英国では、男性自身が描かれ、排尿・排便する様子が分かる「グラフィックな」風刺画は出ないと思う。
よしあし、ではなくて、表現方法が違うのだなあ・・と思った。
英国にいるときもそう思うが、同じ言葉でも、その言葉を支える概念の解釈が違うときはないだろうか?とよく自問することがある。お互いに同じ解釈で話している、と思っていても、こぼれ落ちるものがあるのでは?と。
フランスやドイツの新聞が「表現の自由」と言ったとき(風刺画に関連して)、どんな文脈で言ったのか?外国メディアの報道では十分に伝わっていない要素があるのではないか、と思っている。
・・と書いていたら、bluecamelさんのブログから、フランスの情報に詳しいブログがあることを知った。ものすごく、深い!
http://d.hatena.ne.jp/fenestrae/20060209#p1