小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

風刺画 毎日新聞記事、「フォーサイト」の分析


 毎日新聞がデンマークからの現地報道を熱心に続けている。
<風刺画>漫画家の一人「もう描かない」

 【コペンハーゲン斎藤義彦】イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画がイスラム教徒から反発を受けている問題で、デンマーク紙ユランズ・ポステンに漫画を描いた12人のうち1人が毎日新聞の書面インタビューに答え、漫画の掲載自体は「正しかった」と弁護しながらも、宗教に触れる風刺画は「もう描くのをやめた」と断筆したことを明らかにした。
 ムハンマドを描いた漫画家は「あまりに危険で、警察に取材に応じないように言われている」と面会は拒否。代わりに電子メールを使った書面インタビューに応じた。
 デンマーク人の男性漫画家は掲載について「正しい決定だった。問題がオープンになったからだ」とし、結果として暴動が起こった点も「後悔していない」とし「この国は(イスラム諸国と)完全に異なる。ここを宗教が支配するのは望んでいない」と述べた。
 描いた理由について「描くのが許されない男がいるから、彼を描かなければならなかった」とタブーに挑戦する意図があったことを明らかにした。また、「表現の自由はすべての人にとって死活的だ。自由に話せないなら、本当の人生は送れない」と表現の自由を重視して描いた心境も語った。
 漫画の掲載紙の担当編集長が無期限の休暇に入った点について「彼は問題を正しく扱った」と編集長を擁護した。一方、問題の解決策は「話し合いしかない」とし、身の危険については「自分でも守るが、国連にも(外交的解決で)守ってほしい」とした。
 そして「今のところ、(宗教を風刺する)その種の漫画は描くのをやめた」と断筆していることを明らかにした。理由は明確には述べていないが、「年をとったから」などとしている。
 12人の漫画家は、現在、警察の警備を受け、マスコミも避けている。うち1人は独紙に対し「イスラム教のことも少ししか知らず浅はかだった」と述べている。
(毎日新聞) - 2月20日3時12分更新


 私が聞いた限りでは、かつ雑感だが、メディア関係者の中では、「掲載する権利を支持」が基本的に共有されていた。ただ、風刺画そのもののできは「良くない」「馬鹿な風刺画だった(テロリストとして描くなど)」。「自分だったら、掲載しない」という意見が多かった。

 掲載を実質的に決定したユランズポステン紙の文化部長フレミング・ローズ氏は「あえて挑発した」という見方も共有されているように思った。

 結果的には、「掲載された良かった」というものだ。議論のきっかけができる、と。問題が解決したわけではなく。

 ユランズポステンは保守、かつ現首相に近い、という見方も根強かった。掲載してみて、世界に波紋が広がり、「正直、驚いた」という声も多く聞いた。

 また、「報道の自由」「表現の自由」は擁護されるべきで、この点に関して疑問はないが、実際には、こうした権利を振りかざす・・・という雰囲気はあまりなく、フランスやドイツの一部のメディアとはまた違う状況があった。

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 日本にいらっしゃる方で、雑誌「フォーサイト」をごらんになる機会がある方は、3月号に池内恵さんが、「風刺画問題が炙り出した西欧とイスラームの『対立軸』」という記事を書かれているので、ご参考に。昨年11月の講演を録音したCDもついてくる。

 結論部分で、池内さんは、西欧とイスラームの本音が出た事件だった、と書いている。


 「西欧諸国はイスラーム教を尊重し、寛容であろうとしている。であるのに、イスラーム教徒は西欧諸国の規範を尊重せず、何故異なる価値観に対して寛容になれないのか」という疑念と失望感は、ここ15年ほどの経験から、西欧諸国の市民の間に、右派・左派を問わず共有されてきており、厳しい移民政策が支持される背景となっている。
 ムハンマド風刺画問題は、西欧とイスラーム諸国が、互いの真の姿を見つめる機会となった。西欧の側は、近代社会の基本的な理念と原則においてもはや譲る気はないという決意を明確にした。世界各地のイスラーム教徒の間では、イスラーム教の普遍性と絶対的真理に関する批判や揶揄は許容しない、という意思を改めて確認することになった。

by polimediauk | 2006-02-20 18:48 | 欧州表現の自由