小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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毎日新聞の分析+欧州イスラム社会の基礎知識


ロワ「中東と欧州ではイスラム教徒の置かれた状況は違う」

 「そのまま」で恐縮だが、23日付の毎日新聞で、欧州のイスラム教徒の話を、それぞれの国ごとにまとめた(スケッチした?)ものが掲載されていた。

ムハンマド風刺漫画:欧州のイスラム教徒、対立と動揺
 イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画掲載への抗議行動が中東・アジアで続く中、在欧イスラム教徒は宗教的な帰属意識と欧州市民としての立場のはざまで揺れている。昨年9月に国内紙が最初に風刺画を掲載、抗議行動の引き金を引いたデンマークでは、移民排斥を唱える極右政党が「暴動に火をつけた」とイスラム教宗教指導者を非難、反イスラム機運が高まっている。

 ◇市民と距離拡大--デンマーク

 極右政党デンマーク国民党の幹部エスパセン氏は「誤った情報を流して国益を損なった聖職者は国外追放すべきだ」と主張する。ラスムセン政権に閣外協力し、移民規制を進めてきた同党はイスラム教指導者が昨年末、風刺画に加え、ムハンマドをブタに見立てた写真を手にエジプト、レバノンを訪問したことを問題視。同党の反イスラム路線は一部国民の支持を集め、支持率は今月、昨年の総選挙時を約5ポイント上回る約18%を記録した。

 ラスムセン首相は「一部の過激派が火に油を注いだ」と指摘、国民党の主張に同調している。その一方で首相は、イスラム諸国からの移民で宗教色が薄く「デンマーク人としての自覚」を強調するグループとは協力する姿勢を取っており、「良いイスラム教徒」との対話を進めている。

 イスラム教指導者の中東訪問を企画したアブラバン師は「政府は責任転嫁している」と反論する。訪問時の資料ではデンマーク紙に掲載された12枚の風刺画と、ブタの写真は明確に区別されている。同師は「掲載紙や政府に抗議したが相手にされず、仕方なく中東の同胞に支援を求めた」と説明する。

 デンマークには宗教を重視しながら平和な市民生活を送るよう主張する中間派のイスラム教徒もいる。中間派の市民団体「批判的イスラム教徒」のカンカン代表のもとに今月、元移民の女性から「デンマークが気に入らないなら帰れ」と抗議の電話が入った。同代表は「彼女は移民への偏見を恐れて不安になったようだ」と話す。

 最近の世論調査では回答者の45%が以前よりもイスラム教への親近感が減ったと答えている。イスラム教に改宗した女性が近所から無視されるようになった例も報告されている。カンカン代表は「政府と宗教指導者が責任をなすりつけ合っている間に、市民とイスラム教徒の距離が広がった」と憂慮する。

 高福祉社会を目指してきたデンマーク。ニュース週刊誌「月曜の朝」のレッディントン記者は移民やイスラム教徒とのあつれきを「福祉社会の一面」ととらえる。高齢化に伴い高福祉社会を維持できるかどうかの不安が社会で高まり、移民への反感が芽生えているが、対処法がない。「今回の問題は福祉社会の実験途中に支払うコストともいえる」と同記者は分析する。【コペンハーゲンで斎藤義彦】

 ◇板ばさみで苦悩--フランス

 【パリ福井聡】フランスのイスラム教評議会は今月10日、ムハンマドの風刺画を掲載した仏紙を相手取り法的な措置を取ることを決めた。しかし、提訴の具体的な理由や法的根拠、どのメディアを対象にするかなどは未定だ。振り上げた拳の下ろしどころを探っている形で、自らの宗教・信仰を抱えつつ、仏社会で生きていかざるを得ない在仏イスラム教徒のジレンマを象徴している。

 フランスには人口の約1割に相当する600万人近くのイスラム教徒が住んでいるとされる。風刺画への抗議デモは頻発しているが、暴力的な反対行動は起きていない。在仏イスラム教徒の多くは中東・アジアで過激化するデモを前に、国境を超えたイスラム教徒としての連帯意識と、仏市民としての立場との間で揺れている。

 仏全国イスラム教徒連盟のソアイブ・ベンシェイクさんは「私たちが直面しているのは『イスラム』と『表現の自由』についての無知だ。私はイスラム同胞の過剰な反応に驚いている」と打ち明ける。欧州諸国はイスラムへの理解が足りず、イスラム教徒側には、欧州がキリスト教会との戦いを通じて勝ち取ってきた「表現の自由」への理解が欠けているとの意見だ。

 昨秋起きた移民若年層の暴動を教訓に仏政府は「表現の自由」堅持の姿勢を打ち出す一方、「宗教心も尊重されるべきだ」とイスラム教徒への配慮を示してきた。仏イスラム教評議会のブバクール議長らは「風刺画は宗教心を傷付け、怒りをあおるもの」と非難しているが、事態を静観している在仏イスラム教徒も少なくない。フランス人記者が04年にイラクでイスラム武装集団に拉致された際、在仏イスラム教徒はバグダッド入りして解放を呼びかけた。仏国際調査研究センターのルイ・マルタン教授は「イスラム教徒でありつつ、西欧の価値観を持つのは難しい。だが、欧州のイスラム教徒がそれを実現できれば、アラブ諸国のイスラム教徒にとっても(欧州との)和解に向けての模範となるはずだ」と期待を寄せている。

 ◇信仰心と民族差別、直視せよ--ラリ・カリリ・ロンドン大東洋アフリカ学院講師(中東政治)

 風刺画の発端には、「暴力」や「テロ」というステレオタイプのイスラム教徒像を流して、反移民の保守派にアピールするデンマークの右翼勢力の存在がある。デンマークのイスラム教徒は「表現の自由」でなく民族差別と受け止め、国外のイスラム世界に問題を持ち込んだ。それがシリア、イラン、レバノン、パキスタンなどの民衆の反欧米感情と結びつき、デンマークのイスラム教徒の予想を超えて事態は国際問題化していった。

 文化的寛容をうたう英国ではメディアもイスラム教徒も対応は抑制されていた。移民の出身地である旧植民地との関係が大陸欧州とは異なる事情も関係している。フランスのアルジェリア統治は暴力的だった。

 ただ、英国のイスラム社会も過激派と穏健派の対立が続いている。新聞が風刺画を掲載しなかったのは、掲載したら過去に例のないような暴力に発展することを警戒したためでもあろう。

 今回の風刺画問題は欧米とイスラム社会に横たわる幅広い問題の一端にすぎない。欧州の右翼勢力、イスラム世界の過激派の双方が対立をあおってそれぞれ国内的な立場を強め、政治的な利益を得ている。イスラム教徒の信仰心と風刺画の背後にある民族差別を認識し、「表現の自由」を恣意(しい)的に利用しない態度が求められる。【聞き手・ロンドン小松浩】

 ◇イスラム教をめぐる最近の衝突・摩擦

 英国人作家サルマン・ラシディ氏が小説「悪魔の詩」でムハンマドの私生活を描き、イランの元最高指導者の故ホメイニ師が89年、死刑を宣告。小説を邦訳した筑波大学助教授が91年、刺殺される事件が起きた。

 02年にはムハンマドの肖像画を掲載した米誌ニューズウィークがイスラム諸国で発禁処分になったほか、04年にはオランダでイスラム教の「女性差別」を批判する作品を撮った映画監督が殺害されるなど、イスラム教の「信仰」と「表現の自由」をめぐる対立が頻発している。

 最近では米兵によるイラク人収容者虐待が発覚。05年にはキューバのグアンタナモ基地で米軍取調官がイスラム教の聖典コーランをトイレに流したと米誌が報道、イスラム諸国で激しい反米デモが起きた。フランスでは04年、イスラム教徒の女子児童・生徒に公立校内でのイスラムのスカーフ着用を禁ずる法律が制定され、論争となった。

毎日新聞 2006年2月23日 東京朝刊


 後2つ、読売新聞から入れておきたい。自分の防備録として

ムハンマド風刺漫画問題 エジプトとフランスの識者に聞く(2月15日)

 イスラム教預言者ムハンマド風刺漫画事件で米欧とイスラム圏にきしみが生じ、「文明間の対立」の様相を示す。カイロにあるスンニ派大本山、アズハル・モスク(礼拝所)のイード・アブデルハミド・ユセフ師(65)と、西欧の代表的識者のオリビエ・ロワ仏社会科学高等研究院教授(56)に見解を聞いた。
 ◆信仰に対する侮辱 カイロ アズハル・モスク ユセフ師 
 ――イスラム法上の見解は。
 「ムハンマドの容姿や倫理性は神が与えたもので、我々の想像の外にあり、だれも写せない。(ムハンマドに直接教えを受けた)『教友』、預言者イエスやモーゼ、そしてマリアの像も禁止。偶像崇拝は許されない」
 ――なぜ教徒は怒るのか。
 「ムハンマドをテロリストとして描いたからだ。ムハンマドは、信仰を侮辱する者から信仰を守れ、と言った。反発は自然発生的で、抑えようがない」
 ――欧州は侮辱の意図はなかったと弁明している。
 「彼らに侮辱する権利はない。イスラム全体を侮辱しようとした」
 ――掲載した欧州紙編集者らはイスラム教徒ではない。
 「非イスラム教徒はイスラム法に従う必要はない。我々は欧州の世俗の裁判所で関係者を裁くよう求めている」
 ――表現の自由と信仰の自由の関係は。
 「エジプトではアズハル・モスク関連機関の法学者が書籍やテレビドラマの脚本などを検閲する。ムハンマドの乳母の娘を主人公にした有名なエジプト映画があるが、彼女は『教友』ではないと判断し、俳優が演じることを認めた」
 ――西欧で転載が続くが。
 「イスラム教徒への憎悪からだ。人種差別もなく、女性の体を覆い隠すような、イスラム教の善き倫理を恐れるのだろう」
 ――再発防止策は。
 「イスラム教理解のための衛星テレビ局を新設したい。多言語で説明することが大切だ」(カイロ 柳沢亨之)
 ◆イスラムと共存、課題 仏社会科学高等研究院教授 ロワ氏 
 ――発端となったデンマーク紙をどう見るか。
 「この新聞は右翼系で、欧州でイスラム教徒が増えることを嫌う。漫画掲載にはイスラム系移民は欧州の流儀に従うよう要求する意図がある」
 ――西欧で転載が続く。
 「この1世紀、欧州は『表現の自由』を重視してきたが、宗教、人種やゲイなど特定集団を差別してはいけない、とする不文律ができた。掲載・転載は不文律からの逸脱だ」
 ――「文明の衝突」は。
 「『表現の自由』を訴える欧州と、『イスラムに対する侮辱』と反発するイスラム世界の衝突が深まる恐れはあるが、中東と欧州ではイスラム教徒の置かれた状況は違う」
 「イスラム世界でイスラム教徒の怒りを国家が政治利用している。シリアはレバノン政策、イランは核政策、アフガニスタンでは(北大西洋条約機構指揮下の)欧州部隊駐留問題に絡め、反欧州の立場を鮮明にした。一方、欧州ではイスラム教徒への差別が問題になっている」
 ――どう対応すべきか。
 「対話を継続すべきだ。欧州では、キリスト教などに比べて軽視されているイスラム教の地位向上も重要」
 ――教訓は何か。
 「欧州で伸長著しいイスラム教といかに共存を図るのか。イスラム系移民2、3世はイスラム伝統文化も知らず、『自分とは何か』が分からなくなり、過激主義に走る傾向が強まっている。昨夏のロンドン爆破テロ事件、昨秋の仏暴動に続く、今回の問題で、イスラム教徒の同化政策の再検討が急務になっている」(パリ 島崎雅夫)
 


 上の記事で、自分にとって特に印象深かったのが、ロワ教授のコメントだ。欧州のイスラム専門家の中の一人でかなり著名な人物だ。特に最後のコメント、「欧州で伸長著しいイスラム教といかに共存を図るのか。イスラム系移民2、3世はイスラム伝統文化も知らず、『自分とは何か』が分からなくなり、過激主義に走る傾向が強まっている。昨夏のロンドン爆破テロ事件、昨秋の仏暴動に続く、今回の問題で、イスラム教徒の同化政策の再検討が急務になっている」が深いように思った。

 今回の事件は間口を広げるとものすごく広いが、欧州に住む私は、欧州に少数派として住むイスラム教徒と、その周りの社会がどうやって共存・融合、幸せに暮らしていけるのか、を見ていきたいと思っている。

 では、欧州のイスラム社会とは?

 昨年11月24日、読売新聞がまとめていた。

基礎からわかるヨーロッパのイスラム系移民

 フランスの暴動やロンドンの同時爆破テロ事件など、今年はヨーロッパのイスラム系移民に注目が集まる事件が相次いだ。移民たちはどこから、どんな経緯でやってきたのか――。欧州の移民問題の基礎知識をまとめた。
 Q 欧州の移民数は? 
 各国ごとに人口統計の方法や「移民」の定義が異なり、正確な数の把握は難しい。フランスでは、国内で生まれ、5年以上滞在すれば、仏国籍が取得できる。1998年サッカーW杯優勝チームのように、白人が少数派ということもある。
 人口動態の権威、ジョン・ソルト・ロンドン大教授の試算によると、2003年時点で、西欧全体=欧州連合(EU)とノルウェー、スイス=では、約2350万人が外国人居住者だった。地域人口の5・5%にあたる。95年の約1900万人に比べ20%以上増えた。一方、不法移民は300万人前後と推計される。
 主要国政府統計によれば、ドイツの人口約8200万人のうち、「外国人」は約670万人。フランスは、人口約6200万人のうち「移民」が約430万人。英国は01年時点で、同国の人口5880万人のうち、白人は92%で、約8%に相当する約460万人がアジア系など「民族的少数派」だ。スペインでは、総人口約4200万人のうち「合法外国人」約185万人が滞在する。
 また、ヨーロッパにイスラム教徒はどれくらいいるのかというと、やはり国ごとに統計が異なるので集計は難しい。西欧の研究者らで作る独立組織「ユーロ・イスラム」によると、EU主要国だけで1000万人を超える。西欧全体では1500万~2000万人との推計もある。
 20世紀初頭のフランスには、イスラム教徒がほとんどいなかったが、現在では人口約400万~500万人にまで増え、今や第2の宗教である。また、英政府統計では、キリスト教72%に対し、イスラム教は3%で2番目だ。パキスタン、バングラデシュからの移民が増えたためだ。
 Q なぜ増えた? 
 第2次世界大戦後の西欧経済の復興で、労働力が大量に必要になった。西欧諸国は50年代~70年代前半に年平均で3・8%もの成長を遂げた。従来の移民供給先だった南欧からの移民では足りなくなり、欧州外から移民が必要になった。
 英仏は旧植民地など歴史的、地理的つながりがある地域から大量に移民を受け入れた。西独(当時)は、トルコや旧ユーゴと相次いで労働者雇用協定を結んで移民を受け入れた。61年の「ベルリンの壁」建設で旧東独からの労働力流入が止まると、両国からの移民は飛躍的に増えた。
 南欧各国も90年代前半までに、移民受け入れ国になった。スペインでは、96年以降は年率約20%の割合で移民が増えている。
 73年の石油ショックを契機に、西欧経済の成長は鈍化した。西欧各国政府は非欧州からの労働力を短期間だけ利用するつもりだったが、産業界は廉価な労働者の長期雇用を望んだ。一方、移民は豊かな西欧にとどまり、家族を呼び寄せた結果、イスラム系移民を中心に定住化が進んだ。
 ドイツに住むトルコ人に例を取ると、75%が10年以上住んでおり、61%が無期限滞在許可あるいは永住権を持つ。ドイツで生まれた2世、3世は、トルコ人の35%にのぼっている。
 Q どう制限? 
 西欧各国政府は90年代後半から、移民制限を強化し、欧州全体での政策協調に乗り出した。欧州統合の過程でEU域内の国境管理が次々と撤廃され、不法移民が簡単に域内を移動できるようになったからだ。特に、アフリカ大陸に近いスペインや東欧諸国には、「不法移民対策強化」が求められる。
 ただし、「『合法移民』の条件は何か」という本質的な問題で、EU全体の合意はない。不法移民に悩むスペインは05年2月、〈1〉半年以上滞在〈2〉半年間の雇用契約〈3〉無犯罪証明――などを満たせば合法移民と見なして労働許可証を与える、という大胆な政策を導入した。この結果、約50万人が合法滞在を認められたが、他国にとっては「スペインは甘すぎる」と映る。
 移民受け入れ国の中には、「家族呼び寄せ」の制限にまで踏み込んだところもある。英政府は今年、「英語の試験に合格した技術労働者に限って長期定住を許可する」方針を打ち出し、移民管理に動き出した。
 Q 「同化」促進? 「多文化」容認? 
 移民受け入れ後の政策には、「同化主義」と「多文化主義」という二つのアプローチがある。前者はフランスが代表例で、後者は英国、オランダだ。
 フランスには、「仏共和国の基本理念を守る誓いをした人々が仏国民であり、人種や宗教は問わない」という建前がある。そのためには仏語理解は無論、フランスの流儀に従わなければならない。政教分離はフランス革命以来の国是で、公教育に宗教を持ち込んではならない。先に学校でのイスラム系スカーフの着用を禁止したのもそのためだ。
 英国とオランダは、17世紀に旧教徒と新教徒の間の血みどろの宗教戦争を経験し、その経験から政府は思想信条に踏み込まない伝統が確立した。両国では、数多くの宗派が、相互に干渉をせず、宗教教育は自由だ。イスラム系移民も放任されてきた。
 しかし、二つのアプローチの優劣はつけにくい。同化主義の国でも、多文化主義の国でも、移民で成功した例はある。仏暴動に際して強硬発言を繰り返したニコラ・サルコジ内相は、自身がハンガリー系移民2世で、今や次期大統領を狙う。フランスの流儀を守れば、能力に応じて国内のはしごを駆け上ることもできるという一例だ。その一方で、スカーフ禁止強制を導入した時に見られたように、イスラム社会は「フランス流押しつけ」に強く反発する。
 英国やオランダでも、イスラム教徒出身の国会議員や経済界の有力者がいる。
 ただし、どの国でもイスラム系移民が大量かつ同時期に入ってきたため、行政の目が行き届かない「ゲットー(隔離地域)」が出来てしまった。移民は同郷や同民族のつてを頼って移住するので、特定居住地に集中する。ベルリンの「リトル・イスタンブール」やパリのアラブ人地区など、欧州大都市やその郊外には、住民の圧倒的多数がイスラム系移民という地区が出来上がった。
 ドイツには「並行社会」という言葉がある。トルコ人社会にいるだけで日常生活が完結し、ドイツ人社会と接触する必要がないことを示している。ドイツでは肌の色が違う人々を今も侮蔑(ぶべつ)的に「ガストアルバイター(言葉の意味は、客人労働者)」と呼ぶ。フランスには、アラブ系住民をアラブのつづりを逆にして「ブール」と呼ぶ蔑称もある。同化は進んでいない。
 Q 暴動・テロ原因は? 
 暴動もテロも、担い手が移民2世や3世である点に問題がある。2世の世代になっても、教育や就職、所得で白人社会との格差は大きい。「2級市民」として扱われてきたことへの不満爆発が暴動の原因だ。
 フランスでは、平均失業率(10%弱)に対して、都市郊外の移民居住地区はその2倍で、なかには4倍に達する地域もある。職があっても単純労働が多く、年収1万ユーロ(約140万円)と仏平均の4割程度だ。
 ドイツでも平均失業率(11%)に比べ、ベルリン在住のトルコ人男性の間では失業率が40%超。都市部では、トルコ人の子供の4人に1人は義務教育さえ全うしないという統計もある。
 英国では、05年7月7日、ロンドンで同時爆破テロが起こった。自爆した実行犯4人のうち3人がパキスタン系移民2世で、1人がジャマイカ系移民2世だった。オランダでは04年、イスラム社会の女性差別を映画で糾弾した映画監督が、イスラム過激派のモロッコ系移民2世に暗殺された。犯人はオランダ語が巧みで、地区の青少年活動のリーダー役だった。
 英国もオランダも「宗教的寛容」を誇っていたが、イスラム系移民の多くは社会の底辺におり、白人社会から排除されたと感じている。両社会の反目は01年の米同時テロ以降、強まってきた。
 スペインでは、04年3月、マドリードで列車同時爆破テロが起こり、191人が死亡した。国際テロ組織「アル・カーイダ」の犯行と見られているが、担い手は国内に住むイスラム過激派だった。
 Q 「選別」の影響は? 
 西欧は日本同様に、少子高齢化が進んでおり、将来を見据えると、経済成長に移民は欠かせない。
 ドイツでは、IT技術者に対象を絞って移民を奨励し、英国も技能次第で受け入れる方針だ。ただし、「『必要な移民』には条件を和らげ、『不要な移民』の制限を厳しくする」という露骨な選別が進めば、難民受け入れや政治亡命の審査にも影響を与える可能性があり、EUの人権理念にも抵触する。
 政治的には、移民増への不満をあおる大衆迎合型極右・右翼政党の台頭が懸念される。フランスでは前回02年の大統領選で極右・国民戦線のルペン氏が、シラク大統領との決選投票まで勝ち進んだ。オランダ、デンマーク、オーストリア、ベルギーなどでも有力な政治勢力にのし上がった。
 これに対し、イスラム系移民2世、3世の反発は強まる傾向にある。ロンドンやマドリードのテロ事件のように、イスラム過激主義は、イスラム社会の若者の不満につけ込む形で浸透している。
 米ハーバード大のハンチントン教授は主にキリスト教文明とイスラム教文明が対立する、「文明の衝突」の時代に入ったと指摘した。西欧社会がイスラム系移民問題の対処を誤れば、「文明の衝突」が悲劇的な形で展開されるおそれがある。(読売新聞)

 

by polimediauk | 2006-02-24 23:03 | 欧州表現の自由