小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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日本の英字新聞 読ませるための新聞デザインの工夫(2)


「新聞は読者があってこそ」

 何が英語の新聞デザインの決め手となるのか?

 英字紙「デイリーヨミウリ」を発行する、読売新聞英字新聞部の杉山智代乃氏に、それまでの経歴も含めて聞いてみた。

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 杉山氏はアメリカの大学卒業後、1990年前半から英字新聞「デイリーヨミウリ」で働き始めた。勤務後間もなくして、毎週の消費者情報の頁の担当に。トピックを見つけ、取材に行き、原稿を書き、紙面を作る、という作業に従事した。

 「もともと、特にデザインに関心があったわけではなかった」が、毎週の紙面づくりに熱中していた。「遊びができるから」だったという。ある時、ホワイトアウトの商品紹介を取り上げた。「商品だけ並べるとつまらないので、自分の手でペン型のホワイトアウトを持つ写真を撮ってもらった。それを原稿の上に出して、ホワイトアウトで間違ったところを消す、という構図になるようにした」。

 デザインのアイデアを思いつくこと、考えていることがおもしろかった、という。

 その後、アート面のエディター、新聞の顔となるフロント面、その時々の特集などを手がける中で、次第に中堅どころになってゆく。

 しかし、大きな仕事を手がけるうちに、もっと新聞のデザインについて知りたいと思うようになる。「学ぶ場所を日本では探せなかった」ため、焦燥感が出てきた。「グラフィックや工業デザインはあったが、新聞のデザインを学ぶようなところを捜せなかった」。孤立無援であるように感じたという。

 デザインの改良を通じてジャーナリズムの水準の向上を目指す米国の団体Society for News Design (www.snd.org )に個人で所属し、「クリティークの場」として、ワークショックなどに出席するようになった。米国を中心に50カ国からの2600人の会員がいる団体だ。1998年の話だ。

 ワークショップでは、参加者がそれぞれ紙面を見せ、お互いにアドバイスしあうことができた。杉山氏も自分が作った紙面のポートフォリオを持っていき、批評してもらったという。「おもしろいねという人もいたし、雑誌みたいという人もいた」。

 2001年春、デイリーヨミウリは大幅な紙面改革をすることになった。8月、提携先となった米シカゴ・トリビューン紙に出張の任が下り、2週間デザイン部で仕事をした。「作ってみなさいといわれ、ダミーの紙面コピーとデータをもらい、作ってみた」。アドバイスを受けながらの日程を終えると、トリビューン紙からはデザイン専門の担当者が来日。同様に2週間いながら、新紙面を画像制作スタッフと共に模索。

 10月からの紙面改革実行に備え、総勢90人ほどの編集スタッフに、新たな紙面デザインのポイントを伝えることになった。基本は (1)記事に上下関係をつけてメリハリを出すことと、(2)カラーパレットの導入だった。

 「紙面はメリハリがないとだめ。上がトップでその割りに見出し小さかったりしてはいけない。上には一番重要な記事が来る、下に従って、重要度が低くなる。それに見出しの大きさを変えていくー」。

 上下をはっきりさせることの意味は、「作る側はこういう記事を選び、こういう決定をした、うちはこれは大きいからこうした、ということを自信を持ってプレゼンしなさい、ということ。そうしないと、読者もついてこない。自信を持って記事を取り扱うように、と。」

 記事と記事を分ける線は、基本的になくした。「つけるつけないは新聞によって違う。ないと、すっきり感がでると思った」。

 色味に関しては、それまでは、「カラーを自分勝手に作っていた。カラーパレットとは、新聞で使う色味のこと。色の範囲は無限大でも、すべての色が新聞に合うわけではない。ベースとなる色がある」からだ。

 紙面を開きながら、「デイリーヨミウリは紫だが、ジャパン・タイムズはブルー。変えた色味を中心にして、どんな色がいいか、ブルーブラウン、黄色などを決めていく」作業が続いた。

 デザインのスタイルは、人によって違うという。「私はシンプル、クリアなものを目指している。」

 フォントも変えた。何十年も前からタイムズというフォントを使っており、古めかしい印象がぬぐえなかったからだ。

 「グラフィックデザインと新聞のデザインは違う」というのが杉山氏の持論。「新聞のデザインはあくまでも記事を読んでもらうためにある。デザイン・スキルを見せるためでなく、読ませるためのデザイン。作っている人が、(テクニックに走るのは)、読者を忘れている」。

 読みやすくするための工夫は、視線がどこをどうたどってどの紙面に行き着くか、つまりナビゲーションの工夫でもある。「紙面の名前が入っている『ナビゲーダー』部分を、何故大きくするのか、と聞かれたことがある。ぱっと目に入って、すぐ分かることが大事だと思ったから大きくした。紙面を開いて、すぐに目が、見出しや記事に行くようにすることが大事」。

  連載記事についていた、シリーズ名をあらわすロゴもシンプルなものにした。それまでついていたイラストは必要ない、と判断した。「言葉だけでいいと思った。原稿が重要なのだから」

  杉山氏個人が「きれいだなあ」と思う新聞は、ドイツのDie Welt, やDie Zeit だという。英国の新聞では、ガーディアンもきれいだと思う、という。

 しかし、だからといって、ガーディアンやドイツ紙のレイアウトを日本にそのまま持ってくることはできない、という。「例えばDie Zeitとデイリーヨミウリでは新聞の読者層が違う。DYの読者は日本人と外国人。タイプとしては読者層が絞りきれない」

 「新聞は、自己満足で作ってはいけない。読者があってこそ新聞は存在しているし、紙面は読者を反映している」と見ているという。例えばデイリーヨミウリの紙面デザインをDie Zeitのようにして、読者はついてくるのだろうか?「それは分からない。そこが難しい」。
by polimediauk | 2006-02-27 03:45 | 新聞業界