フリーペーパー その4
有料新聞が苦戦を続ける中、無料新聞のメトロが大躍進している状況をこれまで紹介してきた。
メトロは、コミュニティー・ニュースが中心となる情報誌としてのフリーペーパーでなく、あくまでも一般紙同様の紙面構成をとり、ニュース報道をメインにしている。
結果的に、どうしても有料既存紙と利害が衝突するのは避けられなかった。
・・・というのは、今から思えばであって、6年前にメトロがイギリスで発行を開始した頃は、一般有料紙は特にライバルとは思っていなかったようだ。現在でも、質的にメトロをライバルと思っている高級紙〔タイムズ、デイリーテレグラフなど)は、少ないか、ないかもしれない。
ー既存紙の発行部数を奪う
発行部数への影響はどうだったのだろうか?
イギリスの新聞業界全体の発行部数の落ちがフリーペーパーのメトロのせい、というのは、正しくないだろう。逆に今まで新聞を読まなかった人が、メトロを手にすることで、既存有料新聞を読み出すようになったという人もいる。しかし、一方では、朝の通勤時間に既存有料紙を買って読むより、どうせなら無料のメトロに手が伸びる・・・そんな読者がたくさんいるだろうことは、想像にかたくない。
最も大きな打撃を受けたのは、メトロを出しているアソシエーテッド・ニューズペーパーズ社が手がける、夕刊紙ロンドン・イブニング・スタンダードだった。
イブニングスタンダードは1部40ペンス(約80円)。12月の発行部数は37万部。前月より6・3減。前年同月よりは10%減。メトロ・ロンドンは49万部。前年同月比で9%の伸びだった。部数の動きが全く正反対になっているのである。
両紙ともに小型タブロイドサイズ。一方は無料で一方は有料。
紙面構成を比べると、イブニングスタンダードは、タブロイド紙(サン、デイリーミラーなど)にやや近い。例えば前の晩のテレビ番組のトピック、スターのゴシップなどが1面に来ることも多い。イギリス国民にとっては身近な話題でいいのだが、メトロは重要な国際ニュースを1面に出し、高級紙と同じトピックが、シンプルな文章で書かれている。
センセーショナルな表現を多発するタブロイド紙ほど挑発的にはなれず、かといって高級紙でもない、ということで、割をくっているのがイブニング・スタンダードなのかもしれない。
ー高級紙タブロイド化の起爆剤?
2003年秋、インディペンデントとタイムズがタブロイド判を発行するようになった背景に、メトロの躍進があるといわれている。その急速な伸びは、日本同様、若者の新聞離れが言われていたイギリスの新聞業界で、「若者も新聞を読みたがっている」ことを証明して見せた。
ーその後の動き
さらに新たな動きがある。
メトロにばかり市場を独占されてはかなわないと、新聞発行者たちが活動を開始。ロンドン市長をも巻き込んで、ロンドン・フリーペーパー戦争が起きつつある。もはやメトロの1人勝ちは維持できそうにない。