小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

映画「グアンタナモへの道」


映画「グアンタナモへの道」_c0016826_304880.jpg
 9日の夜、チャンネル4という民放チャンネルで、映画「グアンタナモへの道」(仮の邦訳)が上映された。

 先月、ベルリン国際映画祭で銀熊賞というのを取っている。監督賞と同様であるようだ。マイケル・ウインターボトム氏が共同監督した。

 映画を見た後、ダウンロードできるようになっていたので、やってみた。何故か英国居住者だけがダウンロードできる、と書かれてあったが。(映画をダウンロードしたのは初めてだった。20分ぐらいかかっただろうか。日本円で1000円くらい。)アマゾンをのぞいてみると、26日ごろから、DVDでも販売している。
 http://www.channel4.com/film/newsfeatures/microsites/G/guantanamo/index.html

 英国バーミンガムに住んでいた20歳頃の青年たちが、パキスタンからアフガニスタンにでかけ、タリバン戦士としてつかまってしまい、キューバにある米軍グアンタナモ基地で2年ほど拘束されてしまう、という物語だ。現在は、解放されて、英国に戻ってきている。

 今日の新聞各紙のテレビ評を見ると、全部が全部といっていいほど、同じことに関して疑問を呈している。

 つまり、「何故青年たちがパキスタン、アフガニスタンに行ったのか}(1人は結婚するはずだった、というのが理由だったけれど)、「監督は、青年たちの言うことを、うのみにしすぎる」というもの。

 映画としては、私はよくできていると思ったし、最後は非常に叙情的で、終わりよければ・・という感じだったけれど、「青年たちのいうことを鵜呑みにしすぎている」という批評が、気になった。

 つまり、2004年、グアンタナモの拘束者に関しては、既に芝居になっていて、それがとても好評だった。(「グアンタナモ:自由を守る誇り」--ビクトリア・ブリッタン氏他が書いたもの)。この芝居の上演時点では、英国人青年たちの何人かはまだグアンタナモにいたけれど、それでも、全員が「無実なのにつかまった」という前提で芝居が書かれていた。

 2004年の時点では、何の不満もなかったはずなのに、2006年の現在では、メディアの中に疑念が湧いてしまっているのだろうか?2005年7月のロンドンテロの影響か?

 ロンドンテロは、イスラム教徒の4人の青年たちが実行犯だったけれど、家族や知人らが、彼らのことを、「愛情あふれる、家族思いの青年たち」と評していた。

 この青年たちと、グアンタナモにいて、帰ってきた若者たち、ほとんどが英国で生まれ育ち、イスラム教徒であること、主にパキスタン系であることなどが共通点だが、一方は無実なのに拘束され、一方は誰も気づかないうちにテロを起こしていた。

 一体、誰を信じたらいいのか?という思いが、英社会の中にあるのだろうか?

 

 
by polimediauk | 2006-03-11 03:05 | 政治とメディア