小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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元内相がメディアを通じてブレア首相を批判


 元内務大臣チャールズ・クラーク氏(外国人犯罪者のデータ管理不備などを巡り、ブレア首相の内閣改造で辞職を迫られた。代わりに外相の職をオファーされたが、断ったといわれる)が、ブレア氏批判のインタビューを、英タイムズ紙、BBCのラジオ番組、夜のニュース解説番組ニューズナイトなどで、立て続けに行っている。http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/5119074.stm

 クラーク氏は辞職までブレア氏を支える有力政治家の一人と見られていた。

 1997年の政権取得以降(あるいはその前から)、現在の労働党がメディア戦略を駆使してきたことは知られているが、クラーク氏がメディアを通じて大々的にブレア氏批判を行っている様子を見ると、辞職したくなかったのに内相の職を手放さねばならなかったことのへの怒りがあるのだろうが、何となく、げんなりする。

 これまでにも多くの政治家によって批判されてきた傾向として、政治の議論が、議会を通してではなく、メディアを通して行われすぎるのではないか、という点があった。政策発表を記者会見や議会の場で行うのでなく、ラジオや新聞などで明らかにしないように、と政治家にはしばりがかかっているはずだが、もちろん、義憤、訴えたいことがあれば、メディアを使う自由はある。

 皮肉だなあと思うのは、労働党政治家たちはメディアをひんぱんに批判し、特に、「政府が・ブレア首相がイラクの大量破壊兵器に関して、事実を誇張した」とする報道をした、BBCのラジオ番組(2003年)がきっかけとなって、BBC対現政権の対立構造が一時如実になった。この番組に関わっていたキャスターの一人で、よく労働党政権が目の敵にするのが、ジョン・ハンフリーズ氏である。今回、クラーク氏がインタビューの相手に選んだのがハンフリーズ氏だ。

 つまり、メディアを批判しながらも、自分たちに都合の良いときは、すりよる、と。

 タイムズやBBCのライバル紙、ライバルチャンネルとの間のバトルもいろいろあった可能性もある。ただの想像だが。クラーク氏のインタビューをとりたい、という英メディアはおそらく、かなりいろいろ交渉を続けていた可能性は高い。

 結果的に、タイムズ、BBCなどを使うことで、クラーク氏は一種の、「クラーク氏の反乱」「ブレア氏のリーダーシップに疑問符」といった、ドラマを作ったことになる。BBCといっても様々な番組があるが、ハンフリーズ氏による一対一のインタビュー、著名ニュース解説番組「ニューズナイト」、英国の保守新聞タイムズを使うとなると、かなりおおがかり。大きな反ブレアキャンペーンだ。

 といって、これでブレア氏の政治生命に大きな打撃がある、というわけではない。この点がある意味では、げんなりする部分で、結局、政治ドラマの大きな一場面を作った、というだけに見える。

 政治劇が好きな人には、おもしろいのかもしれないが、果たしてここまでおおがかりにやる必要があるのか、どうか。英国民としては、首を切られたクラーク氏の思いを知ることは、ある意味では重要なのかもしれない。しかし、英メディアが声高に叫ぶことが意外とそれほど大きなニュース・動きではなかったことも多々起きている現状では、このクラーク氏のインタビューを追う報道が今後しばらく続くだろうが、紙面、放送時間の無駄のような気がしてならない。

 読むだけでも、見るだけでも疲れる、と、国民の多くはあきあきしているのではないか。

 ブレア氏が首相の座を去った後(2007年説、08年説、09年説がある)、少しはメディアの政治ドラマ作りがおさまるだろうか?
by polimediauk | 2006-06-27 16:46 | 政治とメディア