小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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24時間ニュースの功罪

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ニュースがニュースを作る?

 イギリスのニュース報道は24時間体制で回る。もちろん、イギリスだけが特別でなく、アメリカはCNNが著名だし、日本でもケーブル局で24時間ニュースがあると聞いている。

 しかし、イギリスにはBBCがあるために、その商業部門BBCワールドを通じて、世界中に絶えずニュースを発信している。24時間ニュースはテレビではBBC ニュース24、スカイテレビなどがあり、ラジオも同様に1日中ニュースを放送している。

 英語放送であるということで(BBCワールドの場合は現地語も多いが)、視聴者が世界的に存在している。かつて、旧ソ連のゴルバチョフ大統領が休暇中にクーデターが起きたとき、様々なニュースをBBCを通じて得ていたというのは、よく知られたエピソードだ。

 便利でいいことだろうか?

 24時間ニュースの功罪がイギリスで指摘されだして久しいが、「常に何らかのニュースを報道しなければならない」という状況は、マスコミ自体がニュースを作る、というおかしな現象を生み出している。

 「今日は・今はたいしたニュースがありませんので、音楽でもお聴きください」とは、絶対にならない。

 最近も、こうした現象に遭遇した。

 1月15日、政権党労働党のシンクタンク、「フェビアン・ソサエティー」の今年初めての集まりがあった。

 5月上旬が総選挙の投票日と予定されているので、各政党はこれを想定した活動を開始しだしていた。

 まず、会議に行く前に、朝7時半頃、BBCのニュースサイトを見て、何がトップニュースかチェックした。土曜日というせいもあったろうが、トップは、労働党の選挙運動責任者であるアラン・ミルバーン氏が、この会議で行うスピーチの前触れ記事だった。

 つまり、既にBBC及び大手マスコミには、おそらく数日前から、ミルバーン氏のスピーチ原稿が配布されているのだ。

 実際に会議に出てみると、スピーチ内容はたいしたことはなく、確かに労働党政権が第3期目になったときに何をするか?を説明したものだったが、既にブレア首相が同様のことを述べていた。ブレア氏も、大蔵大臣のブラウン氏の出席もない。

 ミルバーン氏には会場からの質問が続いたが、聞いていて、質問者の方が頭が良く、鋭くも論理的なことを聞いており、ミルバーン氏のスピーチが十分に練られたものではないことが、ちらりと垣間見えた。

 また、朝会場に着くと、左派系ガーディアン紙がどさり、とつまれている。会議のスポンサーの1つはガーディアンであり、その日のスピーチと殆ど全く同じ内容の記事を、ミルバーン氏はガーディアンに寄稿しているのだった。

 ミルバーン氏の記事の隣には、フィオナ・ミラー氏による、現政権の子供ケアに関する記事。ミラー氏は教育問題専門のジャーナリストということになっているが、一番有名なのは、アリステア・キャンベル氏の奥さんという部分だ(といっても、結婚はしておらず、共同生活者)。キャンベル氏は、かつてブレア首相の右腕と言われたが、イラク戦争のスキャンダルで自主退職。もちろん、ミラー氏も、その日の会議のパネリストの1人だった。

 帰宅したのが午後6時過ぎ。

 夕方のニュースのトップは?

 ミルバーン氏の会議のスピーチだった。

 これだけでは終わらない。

 BBCの夜のテレビのニュース番組でもこれが繰り返されていった。

 政権と一緒になって、ニュースを作っているマスコミ・・・。こんな構図が浮かび上がってくる。

 私は特にひねた見方をする方ではなく、「陰謀説」も持っていない。

 しかし、マスコミが、自分たちの番組の隙間を埋めるためだけに、あるニュースを繰り返して流すというパターンがあまりにも多いのだ。本当に、あるトピックがニュースなのかどうか、重要なのかどうか、ただの宣伝なのか?その判断は、あいまいだ。たびたび同じニュースに触れる方は、「きっと何かしら重要なニュースに違いない」と思ってしまう、というパターンだ。

 ニュースがニュース報道のために存在し、マスコミが、マスコミ自身のために存在する・・・こんなことが起きているのが、イギリスだ。

〔写真はBBCニュースより。)
by polimediauk | 2005-01-24 06:15 | 放送業界