小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

続く紛争


ロンドンでは暑い日が続いている。

東京では37度ぐらいになったと聞いたが、日本も随分暑いことだろう。

レバノンーイスラエル、アフガニスタンなど、どうしたらいいのか、自分でも頭を整理するためにいろいろなところに出かけたり、人の話を聞いたりなどしている。今のところ、新聞もテレビもレバノン・イスラエル問題で持ちきりだ。

難しいのは「中立」というのがない点だ。つまり、ある視点について書くと、必ず、他方からは、相手方の肩を持った、と思われる。というのは、2,3日前のCNNで指摘されていたポイントだ。

在英レバノン人ジャーナリスト、在イスラエルのジャーナリスト、BBCの英国人のジャーナリストがレバノン・イスラエル問題の報道のあり方に関して話す、という番組「インターナショナル・コレスポンデント」だった。ケイト・アディーという女性が間に入って、スタジオで話を聞く、というもの。

レバノン人とイスラエル人のジャーナリストたちが、全く意見がかみ合わないので、議論どころではなかったが、もちろん議論が大きく分かれてもいいのだが、アディー氏が、「メディア報道のあり方をどう思うか?」「レバノン人として、あるいはイスラエル人としてそれぞれの見方はあると思うが、個人的な感情は別として、ジャーナリストとして一歩引いてみたとき、状況をどう分析するか?」と聞いたところ、「ジャーナリストとして一歩引いてみる」ことが2人とも、できないようだった。それほどまでに、熱いトピックなのだろう、と、問題の複雑さを感じさせた。

英メディアはイスラエル、レバノン両方からの現地取材を延々としているが、世論的には「レバノンの市民が殺されている」「犠牲になっている」という点にシンパシーを感じる、というものが主だ.

ライス米国務長官がローマに行った。いろいろ話しあいがあったようだ。

イラク戦争開戦前に、英米政府はいろいろな理由付けをしたのだが、あの時も、よく考えるとつじつまの合わない理由付けを、大音響でずっと聞かされていたと記憶している。大量破壊兵器の存在のほかに、「このままフセイン政権が続けば、何万人もが殺される」という理由付けもあった。

特別な情報があるわけではないが、日を追うごとに人々が負傷し、殺されている現実は、どこかおかしい、という気持ちがぬぐえない。恒常的な平和のために・・・といわれても、そうかなあ、と思う。自分も英メディアのシンパシーに共鳴しているのだと思う。

イスラエルの外務大臣が、「戦争状態なのだから」という言葉を使っている。戦争=war。この「戦争」という言葉に、ブッシュ大統領の「テロの戦争war on terror」の文脈と同じものを感じる。きな臭い言葉だなあ、と思う。自分たちで「戦争」と呼ぶと、殺害行為が違法でなくなるのだろうか?

戦争だから自分の国を守るために殺害行為が起きるし、戦争だから仕方ないのだ、という論理は北アイルランドのIRAなども使ってきたと思う。英国側は戦争でなく、テロだ、と見なすわけだが。

イスラエル、イスラエルの自衛権、ヒズボラの過去と現在、他の国の関与など、その他もろもろの要素を考える前に、レバノン人とイスラエル人人が殺害されている状況を変えることはできないのだろうか?

今すぐとめることはできないのだろうか?

IISSという英シンクタンクの安全保障の人に話を聞いていたら、「米国がシリアとイランをたたくためにイスラエルを使っているだけ。これが本当の話なのに、誰もいえないだけ。イスラエルは使われているだけなんだよ」。

レバノン政府がヒズボラに働きかけるようにはできないのか?攻撃をやめるように?「できない。やったら、殺される」。

アラブ諸国は?「足並みがそろっていないからできない」。

今この瞬間に起きている、両側への爆破攻撃を、誰も止めることができない。衝撃を感じている。

また、米国からイスラエルへの武器輸送で、スコットランドの空港が使われていることが、今日分かった。英政府への事前申請なし、だったというので、英外務大臣がライス国防長官に抗議をした、と伝えられている。
by polimediauk | 2006-07-27 10:04 | 新聞業界