小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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ロンドン・テロから1年 その2

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 外出していて、自宅に戻る途中の駅の構内で、イブニング・スタンダード紙の販売スタンドにあったポスターが目に入った。夜遅かったので、もう売り子はいなくなっており、見出しの文句だけがストレートに入ってきた。

 「中東危機:ブレアが休暇を遅延」

 ・・・。これは本当で、今日から休暇に入る予定だったが、2,3日伸ばすことになったのだ。

 しかし、なんとも滑稽にも聞こえる見出しだ。まるで滑稽な記事満載の週刊誌「プライベートアイ」の見出しのような・・・。そして、これが事実であるのがつらいような気もする。電話で常に連絡がとれるとはいえ、休暇を取ろうとしていたのだ、昨日までは。しかし、いくらなんでも、あと1日、二日は待ってくれという周囲のプレッシャーが効いた様だ。飛行機に乗っている間の数時間、電話連絡が万が一取れない可能性もあるから、ということだ。

 発売中の雑誌「ニューステーツマン」で、編集長がブレアをこてんぱんに書いている。しかしなんだか古い感じだ。ブレア氏がブッシュ氏・米国に、この問題に関していかにべったりだったかを書いているが、それはいいから、今後どうするかを考えないと。米国にべったりでないとしたら、どんな選択肢があるのだろう?選択肢がない、という意味ではなくて、将来への何らかのヒントが読みたかった。

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 以下は、昨日の続きだが、ロンドンテロから1年後のその2.「新聞通信調査会報8月号」に掲載された分に若干言葉を補足している。


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―「私には関係ない」

 英国でロンドン・テロの原因を究明しようとする時、難しい点の1つは、テロを起こした若者たちとテロに関わらなかったその他のイスラム教徒たちとをどう位置づけるか、だ。

 「イスラム教徒」として1つのグループにくくられることを嫌うイスラム教徒の国民は多い。

 例えば、「インディペンデント」紙のコラムニストでイスラム教徒のヤスミン・アリバイブラウン氏は、常々、ロンドン・テロの実行犯のような過激思想を持つイスラム教徒と自分とは「一切関係ない」と言い続けている。

 元BBCのジャーナリストで現在アルジャジーラ英語放送にいるラゲー・オマール氏も自分自身がイスラム教徒だ。

 近著「ハーフ・オブ・ミー」の中で、オマール氏は、テロ事件の議論の中で、いかに非イスラム教徒の国民がイスラム教について無知であるかが分かった、と書いている。

 「イスラム教徒だけが問題を解決すれば社会の問題が消えると考えるのは間違っている」、「他の人にイスラム教徒がどうあるべきかを語られたくない」。

 ロンドン同時テロ以降、イスラム教徒(もしくはそのように見える人物)に対する警察の路上質問の頻度が増え、東ロンドンの兄弟のように警察から暴力的な捜査を受ける、といった事態が起きている。

 こうした状況に対し、少なくない人数のイスラム教徒の国民は不満を抱いている。不満の矛先は、英政府や当局に向けられる。

 元保守党政治家で今はコラムニストのマイケル・ポーテロ氏は別の見方をしている。

 サンデー・タイムズ紙の7月9日付コラムの中で、氏は、イスラム教徒たちは爆破犯の犠牲者であり、国家や警察権力の犠牲者ではないことを直視するべきだ、としている。

 イスラム教徒たちが疑惑の対象で見られるとしたら、そういう状況を作り上げているのは、「イスラム教の名の下で殺人を犯す爆破犯」なのであって、英政府や警察ではない。

 「全員で相手の価値観に対して不寛容な人々に対抗していこう」、と呼びかけている。

 氏の意見には私も同感なのだが、なかなか物事は思うようには進まないものだ。

―市民記者の行方

 昨年7月7日は、「市民記者」によるジャーナリズムが英国で一斉に開花した日ともなった。

 爆破テロが起きた地下鉄の構内の息苦しい様子を生々しく伝えたのが、携帯電話で撮った映像だった。BBCや各テレビ局は早速こうした映像を放映した。

 乗客ばかりではなく、テロが起きた地下鉄駅あるいはバスの近辺を通りかかった多くの人々が、傷ついた乗客の様子、救急隊の仕事振り、無残に破壊されたバスの姿などを、頻繁に携帯のカメラで撮り、メディアに送った。

 メディアに市民が無料あるいは有料で映像も含めた情報を提供することはこれまでにもあった。しかし、突発的な事件が起きた場合に、一般市民が競うようにして携帯から画像を送るという行為は7・7同時テロで大きな注目を集めた。

 特に国内最大の放送業者であるBBCがこうした情報の大きな受け手となり、ウエブサイトなどを通じて視聴者からの情報提供を歓迎した。

 メディア問題を継続して追っている「ガーディアン」紙などの既存メディアは、「市民ジャーナリズムの誕生」、「プロの記者もうかうかしていられない」など、市民記者たちをもてはやした。

 一年後の現在、雰囲気は随分変わったように見える。

 携帯を利用して画像情報を送るという形での市民記者の存在は当のガーディアンのネット担当コラムニスト、エミリー・ベル氏が7月3日付紙面で述べたように、「殆どまったく話題に上らなくなった」。

 とはいっても、主に携帯を通じて目撃情報・画像を送るという行為が廃れたわけではない。

 テロ当日、BBCは爆破テロに関する22,000通のメール、300の写真あるいは動画(そのうちの50枚は爆破発生から1時間以内)を受け取った。

 現在、大きな事件が無い場合でも、毎日1万通のメール、1週間に200枚の写真あるいは動画を受け取るという。

―市民の行動をカメラが追う

 最後に、テロ関連で特に印象深かった番組を紹介したい。

 7日夜、ガールフレンドをテロで亡くした男性グス・アリ氏が、実行犯の一人ハシブ・フセイン容疑者の家族が住む家を訪れる様子を、BBCが放映した。

 アリ氏は、何故テロが起きたのかを知りたくて、父親との面会を求め手紙を何度か書いたが、返事をもらえていなかった。ある日、何の予告もなく、容疑者の父マムードさんが今でも住む家を訪ねる。

 マムードさんの姿を見つけ、「あなたの息子が私のパートナーを殺したんです」、と話し出すアリ氏。

 最初はアリ氏と話すことを拒んだ父親は、「息子がやったとは思っていない。誰も証拠を見せてくれない」、事前に知っていたら「足を折ってでも、刑務所に入れてでも、やめさせた」、とアリ氏に語る。

 他の3人の容疑者のことも知っていたとして、「いい少年たちだった」と表現する父親。

 アリ氏が、「何故テロを起こしたと思うか」、と聞くと、マムードさんは「暗闇の中にいる。理解できない。答えを探している」、と答えた。

 アリ氏は、同情を感じ、マムードさんの手を握ってから、帰って来る。

 こういうことをした場合、日本ではどのような反応になるだろう?

 事前の承諾を取らずに、テレビカメラ片手に相手の自宅に押しかけるのは乱暴なやり方であろうし、プライバシーの侵害など問題のある手法だろうと思う。また、暴力沙汰となる可能性もあって冒険だろう。

 しかし、番組は悲しみから立ち直れない犠牲者の家族や怒りを感じる市民に対し、一定の癒し効果を与えたように見えた。(後の新聞でのインタビューで、アリ氏の怒りは消えていないようだったが。)
by polimediauk | 2006-08-05 08:16 | 英国事情