ロンドンで新たな無料紙「戦争」が
電車の中で無料紙「メトロ」を拾えなかったとき、思わず手にとってしまう。特に無料であるため、何のプレッシャーもなく受け取れる。最新の情報が入っていて、10分から15分ほどで大体読めるので丁度良い。
メトロがあまりにも成功し、イブニング・スタンダードの売れ行きが落ちるばかりなので、スタンダード・ライトという無料紙(現在約8万部発行)が出たわけだが(読者が後でイブニングを買ってくれることを期待して)、さらに新たな無料紙が出ることになった。
まず、メディア王と言われる(簡単な言い方なのでつい使ってしまうが)ルパート・マードック氏が所有するニューズ・インターナショナル社が、9月18日から無料紙「ザロンドンペーパー thelondonpaper」を発行予定だ。
さらに、これに対抗して、ブニング・スタンダード、スタンダード・ライト、及びメトロを発行するアソシエーテッド・ニュースペーパー社が、同じく9月から、「ロンドン・ライト London Lite」という無料紙を出す。これにあわせて、イブニングは紙面を刷新し、ライトの方はなくしてしまう、という。
来月からは、ロンドンの新聞市場は随分混雑した様子を見せることになる。
通常の有料新聞に加え、無料紙としては、朝のメトロ、昼過ぎからのCITY AM(ビジネス専門の無料紙)、ロンドンライト、ザロンドンペーパー、これに有料のイブニングスタンダードがからむことになるからだ。
さらに、もっと無料紙が増える可能性もある。ロンドンの交通局や鉄道会社のネットワークレールは、それぞれ、午後に出す無料紙の許可を申請しているという。
ロンドン・ライトは、月曜から金曜の昼間、イブニング・スタンダードの販売者が、道行く人に手渡す形をとる。発行部数は35万から40万を予定。
17日付のガーディアンの記事によると、ロンドン・ライトの発行は、新聞広告が紙の新聞よりもオンラインサイトに移っている傾向があるので、十分に広告が取れないのではないか、また、アソシエーテッドニュースペーパー社がたくさんのタイトルを同時に出すためともぐい現象がおきる、とする悲観論と、それぞれ異なる読者層に向けて出すのであれば、成功するという楽観論がある。
イブニング・スタンダードのウエブサイト(Thisislondonco.uk)は一月に130万人が訪れるという。ロンドン・ライトの発行とともに、大幅に変更される予定。
新聞の発行部数を毎月発表しているABCによれば、イブニング・スタンダードの部数はかなり落ちている。7月は前年に比べ20%ほど落ち、30万部だった。損失は毎年約1000万ポンドといわれている。
マードック氏のザロンドンペーパーの方だが、こちらも約40万部発行予定。
ガーディアンの13日付の記事によると、既に700人のスタッフが雇用されているという。新聞は午後4時から7時ぐらいの間に配布される。48ページのダミー版を見た、メディア代理店キャラットのドミニク・ウイリアムズ氏によると、「娯楽や軽い記事が多く、現在の無料紙に比べてもっとシャープな感じ」だそうである。
メディアコラムニストのロイ・グリーンスレード氏は、自分のブログの中で、イブニングスタンダードの発行元アソシエーテッド・ニュースペーパーが何を考えているか、を分析している。
氏によれば、アソシエーテッドは、イブニングが最高に価値のある新聞だと考えており、将来的には、有料の全国紙タイムズやガーディアンなど、一部60ペンスから70ペンスを払ってでもイブニングを読みたいという読者はいるはずだ、と考えているという。
たとえ値上げによって読者を10%失ってもいい、と。
「朝はメトロ、午前中はロンドン・ライト、ウエブサイトは一日中、帰宅途中でイブニング」という構図を狙っているのではないか、としている。