小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

写真の修正はどこまで可能か?

 イスラエルとレバノンの紛争の報道で、ある写真がきっかけとなって、ロイター通信があるカメラマンの写真を使わないことにした、という。
(ガーディアン8月13日号。現在、様々なコメントがついている。)
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,1843607,00.html

 ちょっと見にくいかもしれないが、下の写真(新聞紙面から撮ったもの)を見ていただきい。(この写真そのものはAPが出所、とあるが。)

写真の修正はどこまで可能か?_c0016826_23423020.jpg


 ロイター通信社に写真を出していたアドナン・ハッジAdnan Hajj氏がベイルート市内での爆撃の様子を写真に撮り(右がオリジナル)、左のように、建物から出る煙をやや強調したのである。

 ガーディアンの記事によると、「画像から埃をとるために」ハッジ氏が作業を進めたのだという。

 私は、二つ並べたものを見たとき、明らかに違いが分かるので、これはひどい、何と言うことをしたのだろう、と思ったのだが、考えてみると、一体、報道写真の場合、どこまで修正が許されるだろうか?

 デジタル作業が進展し、特別な技術を必要としなくても、簡単に撮った写真にかなりの手を加えることができるようになった。

 実際、自分が撮った写真を新聞用に使う場合、暗く撮れた写真や、ややぼやけた写真などは、フィルムに後ろから光を与える方法でやや明るくしたり、あるいは鮮明さを増すために、よりシャープにする、という作業はよくしていた。シロをクロにする、というところまではいかないが、見やすくする、より鮮明にする、という作業を全くしていない写真をそのまま使う、というケースは、実際には多くないかもしれない。

 さらに、イラク戦争の場合だが(前に書いたような気がするが)、ある爆撃後の悲惨な写真で、同じ写真をガーディアンと他の新聞が使ったときに、ある新聞はその場面の中にあった、転がっている子供の死体の色を、カラーでなく、つまり血液の赤が見えないようにグレーにしたり、あるいはその子供の死体そのものを、消してしまっていた。今から考えると、そこにある死体の1つをまるっきり消してしまう、というのも随分思い切った行為だ、という感じがする。

 もし自分だったら、その子供の死体を入れたくない場合、消す技術を持っていないという要素もあるが、まずはフレームの場所を変えるかもしれない。写真は目の前の光景の一部を切り取ったものだが、どこからどこまでを入れるかは撮った人あるいはその写真を使う編集者が決めることができる。入れたくないものが映っているとすれば、通常は、そのものが入らないようなフレームを考えるだろう。

 時をさかのぼると、先のガーディアンの記事に載っていたのだが、写真の構成そのものを作為的にやる、という行為があって、これをどうするか、という問題もある。

 それは南北戦争時の写真である。これも非常に見難いとは思うが、ご参考に。1863年のゲティスバーグの闘いでの様子で、アレクサンダー・ガードナーという人が撮ったものだ。(非常に見にくいのをご勘弁ください。)
写真の修正はどこまで可能か?_c0016826_23431034.jpg


 この中で、目を凝らしてみると、左に鉄砲が立てかけられているのが見えるが、これはいかにも兵士の一人の鉄砲のように見えるだろうが、実は写真を撮った人物が持っていた鉄砲を後で置いたものだそうである。また、横たわっている兵士の頭の下には、故意にリュックサックが置かれており、これは、兵士の顔が見えやすくするための作業だったという。

 写真撮影の専門家からすると当たり前のことで悩んでいるのかもしれないが、写真=現実そのもの、という過程が崩れた現在、様々なガイドラインも変わってくるのだろうか、と考えたりする。

 (追記:ヒズボラのトップ、ナスララ氏が、レバノンのテレビのインタビューに応じ、このような戦争状態がおき、犠牲者が多数出ることが分かっていたら、イスラエル人兵士を人質にとらなかった。もし1%でもそう思ったら、そうしなかった、と述べている。BBCのこの記事のタイトルは、「ナスララ、戦争の規模を残念に思う」だ。ものすごくメディア戦略にたけているな、と思わざるを得ない。国連のアナン氏がベイルートを訪れる前日のインタビュー。タイミングが絶妙だ。次の段階の戦争ーー言葉・メディアーーが始まっているのだろう。)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/5291420.stm
by polimediauk | 2006-08-27 23:52 | 新聞業界