欧州不信を助長する英マスコミ報道-1
EU報道には70%が不信感
欧州推進派シンクタンクの代表ブレンダン・ドネリー氏に、イギリスのマスコミのEU「偏向」報道の原因などを、2回に渡って聞いて見た。
しかし、実際はどうなのか?
調べた限りでは、私の答えは「やっぱり偏向している」だった。全般的に否定的な文脈で語られているものが多いのだ。
イギリスでEU関心度が低い、ネガティブな感情が高い、ということは、結構重要な意味を持つ。
まず、EUの25加盟国全部が批准しないと発効しないEU憲法を、イギリスでは2006年、国民投票にかけることになっているが、、国民が「ノー」という確率が高いと見られている。これで、さらなる統合を進めるEUの発展を、一旦ストップさせることになる。
EUの将来がどうなってもいい、という考えもあるだろう。
しかし、さらに重要なことは、EU報道が偏向しているとして、バランスの取れた情報を国民が得ていないとしたら、国民投票で正しい判断ができなくなってしまう。
民主主義社会で(というと話はでかくなるが)、投票は国民が意思決定に参加できる重要な機会だし、そのために必要な情報を出すというのが、マスコミの役割の1つなら、本来の役目を果たしていない、ということにもなる。
第一、しゃくではないか。マスコミ報道が偏っているのために、惑わされてしまうなんて。
・・・というわけで、実例とEU全体ではどうなのか?を、調べてみた結果を、新聞通信調査会というところが出している「新聞通信調査会報」にまとめて見た。(「英EU報道は変わっていくか?」2004年8月号。 http://www.chosakai.gr.jp/index2.html )
以下は、その時の原稿に加筆したものである。
「英EU報道は変わっていくか? 欧州不信を助長する英メディア」
-EU報道には70%が不信感
EUの世論調査機関ユーロバロメーターが2004年2月から3月にかけて、5月の東方拡大以前のEUの15カ国の国民に、EUをどう見るかを聞いた。
英国民のEUに対する評価、信頼度は非常に低かった。
新聞のEU報道に対し、EU諸国の平均では、意見が二分し、46%が「信頼する」、47%が「信頼しない」と答えたのに対し、英国民の73%は「信頼しない」だった。
報道が客観的かどうか?と聞かれ、EU平均では41%が客観的だ、としているのに対し、英国ではこれが34%。報道が否定的過ぎると答えたのは27%で、これ自体は高くないように聞こえるが、EU平均では13%だったので、2倍以上だった。
さらに、EU加盟は自国にとって良いことか、悪いことか、と聞かれ、英国では「良い」(29%)。「悪い」(29%)。「どちらでもない」(29%)と意見が三分。
ところが、EU平均では「良い」(48%)が最も大きく、次に、「どちらでもない」(29%)、「悪い」(17%)が続いた。
ユーロバロメーターは、調査結果をどうみたか?
「英国民のEUに関する関心度は拡大前の15か国中で最低」とした。
「関心が低く、知識も少なく、『自分は知らない、関係ない』という意識がある」。
「EUに対する反感がある英国では、EUの評価はゼロからではなく、マイナス地点から始まっている」と結論づけている。
実際にイギリスに住んでみて、こうした結論を実感する毎日だ。
ー高まる反EU感情
2004年6月の欧州議会選挙。政治家主導のEU統合強化の流れに、各国の国民が拒否声明を出した、と言われ、統合推進策をとる各政権は議席数減少に見舞われた。
イギリスでも、EU脱退を明確に出した極右派の英国独立党が躍進した。最近まで、EUに文句を言う人はいても、「脱退」という提案は非現実的とされ、殆ど支持者がいなかったのだが。
独立党の躍進は、実際に脱退を支持するというよりも、憲法制定にまで統合が進んだEUに対する、ノー票だったと見られている。
もともと欧州統合には拒否感のあるイギリス国民の中で反EU感情が高まったのは、5月のEU拡大がきっかけだった。(他国が「新たなEUの歴史が始まった」と嬉々としているのとは、反対方向の動きだが・・・。)このとき、大きな役割を果たしたのがメディアだった。
拡大の数ヶ月前から、タブロイド紙を中心にした新聞各紙はEU拡大によって恐ろしい結果が起きるとする趣旨の記事を連日掲載し続けた。
「HIV感染者が新規加盟国から押し寄せる」「社会保険制度を移民たちが悪用する」「狭い英国は移民であふれかえる」・・・憶測をベースにした記事に関して、様々なコメンテーターがコメントを出したり、原稿を書いたりする、ラジオやテレビで討論が行われるなどの連鎖反応がおきた。
こうなってくると、オリジナルの記事が事実を正確に伝えていたかどうか、はどこかに吹き飛んでしまう。国民の頭には、「大挙する移民」というイメージが、あっという間にしっかりと刻み込まれてしまった。
移民問題担当大臣が、東欧諸国からの労働者に対するビザ発行スキャンダルの責任をとって辞任したが、連日の扇情的な移民問題の報道がなかったら、辞任コールが急激に高まることはなかっただろう。
「自分たちの生活が、外国人、外国の制度に脅かされるのは我慢がならない」--こうしたイギリス人の国民感情が、様々な形で発露してゆく過程でもあった。
「英国は、どこにも属さなくてもやっていける」-過去30年間、EU脱退を訴えている超党派グループ「独立する英国民のためのキャンペーン」(CIB)の考えは、程度の差こそあれ、英国民の多くに共通している。
現在、イギリスはユーロ圏に属していない。ユーロ圏の経済不況とは対照的なイギリス経済の好況で、EUに現在以上に深く関わることに対して抵抗感を持つ人々は、「自分たちはやっぱり正しかった」という思いを強くした。
「これ以上EUに深く関わらないことこそが、イギリスに最大の恩恵をもたらす」とする「タイムズ」のコラムニスト、デビッド・スミス氏の記事「英国は勝利者ー誰も欧州などいらない」(2004年6月20付け)は、「真実をついた記事」として、注目を集めたのだった。
(次回「ユーロ神話」とは?)