テロを考えるー3 元CIAエージェントの話
ブラウン氏が首相になったら、どうなるのか?という話がちらほら出てきている。
5日、元CIAエージェントのロバート・ベアという人の話を聞く機会があった。

番組は、英国の最初の自爆テロ犯の話から始まる。2人の男性は、イスラエルに行って、自爆テロを起こそうとする。一人は失敗し、逃げるが、海で死体となって浮いているところが後で発見された。
番組は、2人が何故テロに走ったのかを丹念に追っていた。また、昨年のロンドンテロの自爆犯4人の生活の様子も、丁寧に追っていた。
ベア氏は、米映画「シリアナ」の主人公(ジョージ・クルーニーが演じた)のモデルなった人、と言われる。白っぽい、こなれた感じのジャケットを着ていた。しゃべり方、ものの見方が、いろいろな物事を長年に渡って見てきた、探偵のような感じがした。
番組の中でも、取材相手に、シンプルだが核心をつく質問を聞く。普通なら2,3回に分けて聞くようなことでも、一回で済む。しかし、全く攻撃的な質問の仕方をしない(英国ではジャーナリストは攻撃的な質問をよくするのだが)。全くの素人が、「ふと、疑問に思って聞いたみた」という聞き方をする。
番組の中で、中東に何十年もいたベア氏は、90年代半ば、久しぶりにロンドンに来て、新聞販売店などで、過激主義思想の発行物が普通に販売されているのを見て、驚いた、という。ロンドンテロが起きたとき、多くの人は衝撃を感じたが、氏が観察したところに寄れば、過激主義の印刷物、モスクでの教え、ネットなど、勧誘の手があらゆるところにあふれていたと感じたという。
話が進む中で、「外国人の目」だからなのかどうか、ロンドンテロの実行犯の一人が住んでいた場所の近辺の映像があって、いかに貧しい場所だったかが(全部がそういう場所ではないだろうが)、身に染みて分かった。戦前の日本みたいな感じの建物もあった。
実行犯の一人がよく行っていた本屋、その上の階にあったスペースの中のコンピューターには過激主義の情報が一杯あった。
調査が進むうちに、本当に、テロの「カルト」なのだ、ということが、説得力を持って迫ってきた。
番組の中に出てきた、イスラム教徒の学者が、「自分で自分をテロ犯としてリクルートする」傾向を指摘した。
爆発専門家の人は、「2日ぐらいで、スーパーなどで買った材料で、7・7テロの爆弾はできる」という。
7・7テロ犯のような人物がまた生まれつつあること・・・これは止められない動きだなあと思いながら見ていた。
番組が終わって、報道陣との一問一答になった。
―打つ手は無いのだろうか?
ベア氏:2,3あることはある。まず、政府の中東政策、イラク政策を何らかの方向で変えていくことだ。中東で正義が行われるようにすること。つまり、イスラエルーパレスチナ問題の解決に向けての努力だ。また、イラクが内戦状態になっていることは誰の目にも明らかだが、米英政府はこれを認めようとしない。現実を見ようとしていない。このテロのカルトには中央で指令を送っている人がいないことにも気づいて欲しい。
―英国の情報・捜査当局は、大失態をした、と思うか?ロンドンテロを防げなかったという点で?
ベア氏:というよりも、想像力に欠けている。どこにでも過激思想を広める印刷物、モスクでの説教などがあるのに、自国民の中でテロが起きると考えることができなかった。結びつけることができなかった。
8月のヒースロー空港で起きたかもしれないとされるテロ未遂も、空港は人の出入りがあるし、テロリストが今度やるとしたら、地下鉄の次には空港と考えるのは自然だろう。簡単に結びつくのに。
爆弾だって、すぐにできてしまう。ドラッグストアに行けば材料がそろう。ネットでも作り方がわかる。
―米国は何故オサマ・ビンラーディンを実物より怖い存在、大きな存在として扱うのか?テロの戦争、などと言うのか?
ベア氏:それは、どうしたらいいか、分からないからだ。だから、そういうことを言うしかない。だって、何ができるというのか?テロの戦争でイラクに武力攻撃というのだから。イラクは自分もずっとウオッチしていた国だが、米国側にはイラクに対してまともな情報が全く無かった。戦争を始めるほどの情報はなかったんだ。それでも戦争を始めた。それで、(イラクのアルカイダのNO1といわれた)ザルカウイを殺して、うれしがっている。ザルカイを殺しても、すぐに次ができるのに。
人々の頭の中にあるアイデアをミサイルで殺すことはできないのに。
―何故欧州の移民2世がテロに走るのか?
ベア氏:最初の世代はルーツが元の国にあった。第2世代はそれがない。融合することが大事と言われているが、何に融合すればいいというのか?
―米国では移民がなじんでいるというが、欧州の場合をどう見るか?
ベア氏:フランスもドイツも移民の問題を抱えている。米国ではイスラム教徒かどうかというよりも、人種のるつぼだから。
英国は違う。多くの層が社会の中に存在している。例えばどのクラスに属するのか、オックスフォードやケンブリッジに行ったかどうか、とか。英国で新たに来た人が本当に中に入っていくのは難しい感じがする。
米国は表面的な文化だ。教育や社会的背景、宗教よりも、物質主義で、お金を稼ぐことが重要だ。
フランスはもっと文化に自信を持っている。でも移民の融合は失敗していると思う。移民たちがあのパリ郊外のアパートに入って、出られない。あんなアパートは壊すべきだ。
これからは、どれだけ血が流れるか、だ。警察を使ってカルトを抑えようとしても、人々の頭の中に入っていくわけには行かないんだ。
今怖いのは、この間のレバノン紛争で、ヒズボラが勝ったことだ。これだけイスラエルにダメージを与えることができたのだから、自信をつけている。そのうち、レバノン政府を倒そうとするかもしれない。政府が崩壊するところまで行くかもしれない。
ロンドンでレバノンの人に会うと、どんな人でも、「ヒズボラはすごい」と言う。驚きだ。
―これからも同様のテロはロンドンにあるか?
ベア氏:あると思う。
米国でもそうだが、刑務所がテロ犯を育てる場所になっている。
1983年から、自爆テロ犯のプロフィールを研究始めた。頭がおかしい人たちではない。いろいろな理由で自爆テロを行うようになる。
自分の宗教の存続があやういと感じるとき、人は過激主義者になる。
―モスクにいる、穏健なイスラム教徒が何かできるのではないか?
ベア氏:確かにそうだが、青年達はモスクに行かない場合も多いし、他の人からのアドバイスは受けない。
―恐れが恐れを作ると思うか?空港テロ未遂を、英政府は「想像できないほどの大量殺りく」と言った。言葉がテロを作るのか?
ベア氏;それよりも、例えば、取調べの一環で、警察が、あるイスラム教徒の家のドアを蹴る。こんなことが、警察に対する不信、憎しみ、テロにつながる。
――
心に残ったのが、カルトに染まった若者たちの、「思想を取り締まることはできない」という部分だった。
テロ取締り法にはまさに「考えただけで」「謀議をしただけで」逮捕される項目もある。テロ行為を称賛してもいけないのだ。もちろん、「会話に出てきた」ぐらいでは捕まらないのだが。
もっと知りたい方に:
ベア氏の過去の経歴
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/panorama/2549937.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/4748181.stm
著書(和訳)
「CIAは何をしていた?」
「裏切りの同盟」