小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ベール問題がさらに発展

 イスラム教徒の女性たちの顔を隠すベールだが、これまでは「受け入れるべきかどうか」に関して、理論的な話ばかりだったが、ある中学校の英語の先生がベール着用を理由に勤務停止となり、新たな議論が始まっている。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/bradford/6050392.stm

 アイシャン・アズミンさんという23歳(24歳という報道もある)の先生が、英ヨークシャーのデューズベリーという町のヘッドフィールド中学校で教えていたという。この先生の教師としての正式なタイトルが報道によって違うのだが、例えば「バイリンガル教育の補助教員」となっている時もある。基本的には、英語を教えていた、ということのようだ。

 BBCなどの第一報では、英語の授業中、先生が何を言っているのかを生徒たちが理解しにくいという理由で、職を追われた、とあった。

 ヘッドフィールド中学校は、英国教会の学校。といっても、英国全体では、様々な宗教及び無宗教の親の子供たちの多くが、キリスト教系の学校に通っているのが実態だ。

 学校側は、教室の外(廊下、教員室など)ではベールをかぶってもいい、と言っていたそうだ。

 ここからが双方の言い分がやや違ってくるのだが、アズミン先生は、「教室内でベールをとることを拒否したため、勤務停止となった」(学校を管轄する、カークリーズ市役所の話)。

 先生は裁判所にこれを不当解雇として訴えを起こしており、2週間後にはその結果が出る。

 この学校には7歳から11歳までの529人の生徒が通学している。生徒たちの多くは様々な人種で、英語が母語でない生徒もいるという。

 学校の教育水準をチェックしたオフステッドという団体が、2月、報告書を出しており、生徒たちの多くが英語をどうやって話すかを学ぶ状態にあり、大きな改善が必要、と書かれていた。「子供たちの話す能力が低い」ので、勉強がはかどらない、と。

 市役所では、アズミン先生の停職処分は、「宗教とは無関係」という。「子供たちに最高水準の教育を提供したい。英語を話せない子供たちは、どうやって発音するのかを学ぶために口の動きを見る必要が出てくる」、「英語を教えるときにベールを脱ぐように先生にお願いしたが、拒否された」。

 アズミン先生は、BBCなどのインタビューに何度か応じている。

 BBC24でインタビューされた様子によると、かなりプレッシャーを受けている感じがあった。ベールをかぶるのは自分がイスラム教徒であり、コーランがそうするべきだと言っているから、という。

 また、ベールをかぶっていることで、「生徒が不満を言ったことは一度もない。生徒たちとの関係は最高だ。ベールをとってもいいが、男性教師の前では脱げない。」

 「子供たちは、私の体の動きや、目の表情、言葉の言い方を見てくれる。もしこれが問題なら、目が見えない子供はどうなのか?見えなくても、すばらしい教育を受けることができる。ベールが教育に影響を与えるとは全く思えない」。

 他のインタビューでは、「もし相手の顔を見えないことが問題なら、電話やメールはどうなのか?顔が見えなくても、良いコミュニケーションはできる」。

この学校に勤務する際の面接では、ベールを脱いでいたこともあきらかにした。

 やはり、本当のところが、良く分からないが、ふと、「本当にベール問題だけで、この先生は勤務停止になったのだろうか?」とも思う。何らかの形で学校のルールに合わせない人、という部分もあったのかどうか?

 生徒から不満が出ていない、とアズミン先生は言っているが、これは本当かもしれない。(嘘を言っている、という意味ではないが。)ただ、生徒が直接先生にベールに関しての文句を言うのかどうか?が分からない。

 常識的に考えると、語学の先生で顔にベールをしたままで教える、というのが、どうもやや無理があるように聞こえる。また、先生自身が、教室でベールを脱いでいたのかどうかを、はっきりさせていない。市役所側は脱ぐことを拒否した、という。先生は子供たちの前でベールを脱いでも構わない、とも言っているが、それでも、「教室内では脱いでいた」とははっきりといっていないので、つまりは、「つけたままだった」ということなのだろう。

 もしベールをつけたままで教えたかったなら、「何故イスラム教の学校に勤務しなかったのか?」という質問も、BBCのキャスターがしていた。この点も、多くの視聴者が気になるところだ。先生は深くは語らなかったが、イスラム教の学校ということだと、勤務先が限られるし、メインはキリスト教学校なので、こちらのほうを選んだ、というのは(彼女がそういっているわけではないが)、自然なのだろうと推測する。

 それにしても、この若い先生の答えに、無理があるように、英報道だけを追っていると聞こえてしまう。目の見えない生徒の話、電話やメールの話を理由としてあげているが、へりくつっぽい。

 ベールをつけても、英語・語学を良く教えることは可能だろうし、実際に英国のほかの場所、あるいは他の国で、これが実際に行われているだろうと思う。しかし、英国民の一般的考えからすれば、ベールをつけたままで語学を教える、ことには奇異な印象がわく。

 通常、語学を学習する場合、顔を布で覆わず、口元の動きなどがはっきり分かる先生に教わるのがより自然だと思うだろう。しかし、この理論で全てを割り切ることはできないのが、英国の「多文化」政策なのかもしれない。ベールをかぶるのが「自分の文化、信念、信仰、ライフスタイルであり、教わる側も文句は言っていない」と、もしある人が言ったら、引っ込まざるを得ないのだ。

 果たして、2週間後、どんな結果が出るのか?
by polimediauk | 2006-10-15 18:55 | 英国事情