小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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アルジャジーラとフランス24 その2


 もう一つの新チャンネル「フランス24」はシラク仏大統領の発案と言われている。アングロサクソン的「帝国主義」に対抗して、フランスの視点から世界情勢を報じる。2003年のイラク戦争開戦に至る過程で、フランスは戦争に反対の立場を取っていたが、こうした声が影響力を持って報道されていたら、状況が変わっていたのではないかとされる。

 フランス24は国営フランス・テレビと民放TF1が共同運営し、記者170年体制。放送は現在仏語と英語で行われ、来年半ば頃からアラビア語、3年後からはスペイン語放送も開始する予定。

 英インディペンデント紙(12月3日付け)にフランス24社長が語ったところによると、新チャンネルは政府の資金で設立されたが、「編集権は独立している。『シラクのテレビ』ではない」としている。また、テレビ局が採用する「フランスの価値観、視点」とは、「世界は多様であること、議論を愛すること、フランス式生き方を反映する番組作り」と述べている(同日付)。

 フランスの視点を伝えたい、という当初の目的にも関わらず、放送が全て仏語ではなく、2つのチャンネルの中で1つは全てが仏語、もう1つが75%英語で25%が仏語となっている。ニュースは英語、仏語それぞれのキャスターが同時に読み、視聴者はどちらかの言語のチャンネルを選ぶ。

 欧州、中東、アフリカ諸国、米ニューヨークとワシントンでは衛星放送かケーブルテレビで視聴可能。ネットではアルジャジーラ同様世界中で視聴可能だ。

 ネットにかなり力を入れており、アルジャジーラ英語のウエブと比較すると歴然とするが、フランス24のサイトは文化、生活様式にスポットを当てた画面を選択したり、ユーザーがサイトの作りを好みで変えることも可能だ。

 放送開始前には10数名の米国や欧州に住むブロガーをスタジオに招き、体験をそれぞれのブログに掲載する試みも行っている。

 放送初日、元CNNのキャスターが英語放送を担当したが、仏首相のインタビューで仏語から英語への通訳に不備が生じ、キャスターがスタッフに対してマイクを通して悪態をつくという一瞬の失態もあったが、ブロガーたちのチャンネル評はおおむね好評で、パリ市民向けネット媒体「パリス・リンク」の記者は、「これで出張中のホテルで見たくないCNNを見なくて済む」(12月6日付)と書いている。(実際のところ、海外出張をすると本当にこれは実感である。CNNが悪いというのでなく、どこにいってもCNNだと、いつまでも米国型消費主義から追いかけられているようで落ち着かない。)

 問題点として指摘されたのが、大手英米系ニュースチャンネルの他に、欧州をベースとする「ユーロニュース」(1993年開局)、「ロシア・ツデー」(2005年)、「DW-ワールド」(1992年)、そしてアルジャジーラの英語放送など、既に国際ニュース市場はライバルが存在するため、フランス24がどれだけシェアを伸ばし、広告主を集めることができるのかに対する懸念だ。

 ガーディアン(12月6日付け)は、経営困難となって「最後には仏国民がさらに税金を払う羽目に陥るのではないか」と仏政治家らが指摘している、と伝えている。

 また、アルジャジーラの英語放送にも共通する問題だが、英語圏の視聴者あるいは英語を理解する潜在視聴者をどこまでひきつけられるかという点も懸念だ。
   
 米ブルームバーグ(12月7日付、電子版)は、フランス24はBBCワールドと同様の視聴者数(約2500万人)を獲得することを狙っているが、「非常に競争の激しい市場に遅れてやってきた」ので、この目標を達成するのはむずかしいのではないか、という厳しい見通しを出している。

 両チャンネルとも、その設立目的は十分に意義があるにせよ、いかに視聴者数を伸ばすのか、広告主を多く集めるのかといった点で課題を抱えた格好となっているように思う。

 ・・・とやや悲観的な結論を出さざるを得ないのだが、「世界の市場の競争性が高い」という言い方だとぴんとこない人もいるかと思うが、つまり、本当にシンプルな疑問として、「限られた24時間の中で、どれだけアルジャジーラ英語やフランス24のために時間を割けるか?」ということだ。

 テレビを見るということは時間がとられることを意味する。はしょってみるわけにはいかない。また、地上波だったら「たまたま」ということもあろうけれども、ケーブルや衛星では、そのチャンネルに行き着くまでがちょっと大変である。そのチャンネルに行き着くまでに他のチャンネルの番組を見てしまうかもしれない。紙の新聞でさえも、全部読むのがまどろこしくてネットでニュースを見る人が増えているとしたら、自分の地域とは直接関係のない地域のニュースを、日常的に果たして人は見るものだろうか?

 ・・・という素朴な疑問に、私自身、答えが出ていない。

 しかしながら、こういう疑問と同時に、新しいチャンネルの出現に、わくわくした思いも抱いている。確かに、BBCやCNNだけではつまらない。

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 フランス24 (英語で見たい場合はEnglishを選ぶ)

 http://www.france24.com/

 アルジャジーラ英語

 http://english.aljazeera.net/NR/exeres/1EBB4C7F-7F2E-4257-A04C-56678862E31A.htm



 
by polimediauk | 2006-12-20 03:09 | 放送業界