小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

「エコノミスト」新編集長の話



 (ブレア英首相がスピーチをして、「テロの戦争」、「2001・09・11から世界が変わった」と述べている。こういう言葉を使っている限り、「テロの戦争」は永遠に続くかもしれない。あまりにもブッシュ米大統領と同じ言葉を使っているので、がっかりだ・・・・。このような言葉づかいが返ってアルカイダなどのテロ集団(アルカイダが一つのまとまった組織かどうかは別としても)を宣伝していることになる、ということが幾度となく在英シンクタンクなどで指摘されてきたのだが。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/6254253.stm)

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 英週刊誌「エコノミスト」が新しい編集長になって約10ヶ月経った。前任者は日本に関する本などを出して著名なビル・エモット氏。今はどうなったのだろうと思っていたところ、12日、ロンドンの外国プレス協会で外国人報道陣と話す機会が設けられた。

 新編集長の名前はジョン・ミックルスウエイト(John Micklethwait)。ちょっと発音がしにくい。19世紀半ばに創刊されたエコノミストは、彼が16代目の編集長となる。
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 当初は2万部ほどの発行部数で、現在は約100-150万部。約60万部が米国で、16万が英国で売れている。他は他の欧州や世界の各地で。

 英国では(世界中各国でも)新聞の発行部数減少の傾向があるが、エコノミストの場合毎年約7-8%伸びていると言うから、うらやましいと思う出版人もいるだろう。購読費だけで経費をまかない、通常どこも赤字のネットサービスからも利益が出ているという。

 1月8日のインディペンデント紙の記事によると、サンデー・タイムズ紙の元編集長アンドリュー・ニール氏は、エコノミストのことを「最も成功している、世界的なブランド」と呼んだ。

ミックルスウエイト氏は44歳でオックスフォード大学のマガダレン・カレッジ出身。(確かエモット氏もこのカレッジだったと思う。)大学卒業後は2年間、チェース・マンハッタン銀行に勤めた。米国の政治に関する本も出している。「The Right Nation: How Conservatism Won」

 プレス協会に来たミックルスウエイト氏はさまざまな点に触れたが、ここ10ヶ月を振り返り、変わったところと変わらないところがある、という。

 変わったのは、勤務するスタッフの異動。約25人が去り、新しい人が入ってきた。新しい国際のセクションを作った。変わらないところは社会リベラル派という創刊からのスタンスで、奴隷制度、死刑などに反対の立場を取る。また、どこの団体にも影響されない独立メディアだという。

 最大の脅威は(これは前にタイムズ紙の編集長も言っていたのだが)ネットだという。編集長になるまでは、ハリケーンが来た!という感じでどうしようと思っていたが、今はウエブのレイアウトを工夫し、ブログも始め、「ネットに関して前よりはもっと楽観的になった」。

 前よりも楽観的な理由の1つは、20-30代の読者を見ていると、ネットで情報を取っているものの、だからと言って週刊誌を読まなくなっているわけではなく、エコノミストも販売を伸ばせると考えるようになったと言う。

 しゃれた文句がつくエコノミストの表紙の決めセリフや扱うトピックは最終的には自分で決めるという。

 たくさんの記事が出ているが、編集長あるいはデスクが「こういうのを書くように」と依頼するよりは、書き手のスタッフが書いたものを上にあげる、供給型だそうだ。毎週水曜と木曜日を中心に大量の記事を読み、印刷版に関しては出る前にすべて読むけれども、ネットで先に出るものなどは、出てから後で読む場合もある。

 毎週月曜日、70人いるジャーナリストの中で50人ほどが編集会議に出る。ミニ編集会議は金曜日にもある。

 中国の報道は増えているけれども、経済大国日本の報道の量を減らすことは考えていないという。

 エコノミストの記事には署名がなく、文章に統一感がある理由を聞かれ、「全員がそれぞれの記事の編集をするプロセスがあり、次第に統一感が出ている」、という。しかし、編集スタッフ同士では、誰がどれを書いたのかは分かるそうだ。

 外国特派員を減らすか増やすかと聞かれ、「増やした」と言う。かつては現地採用の外部スタッフが書いた記事を使っていたこともあるが、今は自社スタッフを特派員として置く方に力を入れているという。

 今回の聞き手は外国特派員などが主だったので、ここがちょっとしたハイライトになった。

 ミックルスウエイト氏は、特派員を置くことで、「個人的な体験を入れることができる」とする。氏は、ロンドンにいながら米国担当デスクだったことがあったという。すると、現地からいろいろな記事が送られてくるし、ウエブでさまざまな情報にアクセスできた。しかし、「通りの人の声が聞こえなかった」。

 例えば、氏はあるときニューヨークに行った。そこで、市内のバスがたくさん走っていて、どのバスも「イーベイやドット・コム企業の宣伝が車体に載っていた」。この光景を見て初めて、いかに米国でネット企業が身近になっているか、人気になっているかが実感として本当に分かったと言う。

 「そこにいることが大事なんだ」。

 私を含めたその場にいた人々にとって、これは格別な意味合いを持って響いたのではないかと思う。

 ロンドンにいることの利点を聞かれ、「本当におもしろい場所だと思う」。

 「世界を英国の視点からだけでなく、さまざまな視点で見ることができる。通りに出れば、さまざまな言語、例えばアラビア語やあるいはアジアの言語を人が話しているのを聞ける。英国人は他国から来た人と一緒にいることを楽しむ。寛容とオープンさがある」、という見方を述べた。

 
by polimediauk | 2007-01-13 01:36 | 新聞業界