小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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トルコ雑感 ジャーナリスト銃殺、オルハン・パムク

 
市民10万人が集まったことの衝撃

  (体調を崩したのと少し調子が良くなると外に出かけている内に大分間が開いてしまい、大変恐縮です。)

 欧州に住んでいるとトルコのことが気になり、昨年末トルコに行ったせいもあって、知識は少ないのにますます気になっている。

 と思っていたら、アルメニア人の虐殺に関して書いたジャーナリストが銃殺された。

 読売新聞から拾ってみたい。

記事に民族主義者ら反発?トルコで編集者銃撃され死亡
 【カイロ=長谷川由紀】トルコからの報道によると、同国の最大都市イスタンブール中心部で19日、アルメニア系トルコ人ジャーナリスト、フラント・ディンク氏(53)が頭などを撃たれ、死亡した。
 ディンク氏は、トルコでタブー視されている、20世紀初めにオスマン帝国で起きた「アルメニア人虐殺」に関する記事や言動で知られ、民族主義者らから反発を買っていた。
 ディンク氏はトルコ語とアルメニア語の2か国語週刊紙「アゴス」の編集長。アゴスの事務所がある建物を出たところを、若い男に銃撃されたという。
 トルコ政府は「虐殺」を否定しており、同国では虐殺を認める発言や文章の発表は、国家を誹謗(ひぼう)した罪に問われる。ディンク氏は何度か起訴され、昨年、有罪判決を受けた。
  トルコが加盟を目指す欧州連合(EU)は、アルメニア人虐殺問題を含め、トルコ側に言論統制緩和を求めている。エルドアン首相は「民主主義と言論の自由に対する銃撃だ」と犯行を非難したが、事件は政権にとって痛手となりそうだ。(1月20日)


記者殺害、逮捕の少年「民族主義組織が依頼」…トルコ
 【カイロ=岡本道郎】イスタンブールからの情報によると、アルメニア系トルコ人のジャーナリスト、フラント・ディンク氏が同市で殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された無職少年(17)は、21日までのトルコ捜査当局の調べに対し、知り合いの民族主義組織の首領にディンク氏殺害を依頼され、この男から渡された銃で殺害したと供述していることがわかった。
 22日付トルコ有力紙ヒュリエトが報じた。
  この首領は、少年と同じ黒海沿岸トラブゾン出身のヤシン・ハヤル容疑者で、すでに拘束されている。同容疑者は、少年に銃と旅費を渡して殺害を依頼した事実を認め、「少年は任務を果たし、トルコの名誉を守った」などと供述しているという。
  同容疑者は、2004年にトラブゾン市内の米ハンバーガー店マクドナルドに爆弾テロを仕掛け、約10か月服役した後、地元で10代の若者らを集め民族主義組織を結成。トルコ政府が否定する20世紀初頭の「アルメニア人虐殺」についての言動を繰り返していたディンク氏を敵視し、「政府が(同氏に)何もできないのなら、我々が排除する」と手下に語っていたという。
 逮捕された少年はまた、「自分は足が速いから(実行犯に)選ばれた。後悔していない」などと供述しているという。(1月22日)


トルコのジャーナリスト殺害、葬儀に市民10万人
【カイロ=岡本道郎】イスタンブールで無職少年に殺害されたアルメニア系トルコ人ジャーナリスト、フラント・ディンク氏の葬儀が23日、同市で行われ、市民10万人以上が非業の死を悼んだ。
 20世紀初頭のオスマン帝国によるアルメニア人大量殺害が「虐殺」だったと主張しながら、同時に、トルコ国民としてトルコを愛し、トルコとアルメニアの懸け橋としての役割を担ってきたディンク氏暗殺は、欧州連合(EU)加盟を目指すトルコに大きな衝撃を与えており、その死の意味をめぐる論議がしばらく続きそうだ。
 「銃弾はトルコに向けて撃たれたのだ」――有力紙サバーハのファティフ・アルタイル編集主幹は22日付社説でこう訴えた。同主幹は、ディンク氏がアルメニア人「虐殺」の事実を追究する一方で、この問題をトルコのEU加盟の可否に結びつけようとする欧州諸国を「非倫理的」と批判してきた事実に言及。同氏はアルメニア系トルコ人の「理性の人」だったとして、同氏の殺害を「トルコの敵の仕業」と糾弾した。
 「少数派アルメニア人記者の民族主義者による暗殺」という事実は、トルコのEU加盟に反対する欧州諸国が常用する「欧州とは異質の国」という悪いイメージを植え付ける格好の材料を与えることになった。国粋主義に傾倒した17歳の少年による犯行という事実も、トルコ社会が潜在的に持つ「非トルコ的なもの」への敵意が暴発してしまった意味で深刻だ。
 それだけに、トルコ国民が事件から受けた衝撃は大きい。23日の葬儀に集まった人々の多くは生粋のトルコ人だった。「我々はみんなアルメニア人だ」とのプラカードを持ち、ディンク氏とアルメニア人への最大限の連帯を表明。トルコ政府も、外交関係のないアルメニアのキラコシアン外務次官を葬儀に招待した。
 トルコのチチェク法相は23日、トルコを侮辱した者は懲役6月~3年とする刑法301条の改定論議に着手する方針を明らかにした。事件を機に、トルコ、アルメニア両民族が和解の機運をつかめるかどうか、EU加盟交渉の行方にも影響するだけに注目される。(1月23日)


 葬儀に集まった人々のほとんどが生粋のトルコ人で、「我々はみんなアルメニア人だ」と書いたプラカードを持った・・・というエピソードにほろっとした。

 イスタンブールは私が見たところトルコの中でも最も国際的な都市で、結構「クール」な人も多かった。

「私たちは西欧人と全く変わらないんだ」「表現の自由は西欧と同じぐらいあるんだよ」「イスラム教徒って言ったって、みんな自由なんだから。拝みたい人は拝みたければいいし、そうしたくない人は心で思っていればいいんだよ。アルコールだって飲むか飲まないかはその人の自由なんだ」と言っていた、イスタンブールに住む人たちは今どうしているか。

 殺されたジャーナリストの葬儀に10万人が集まったと言うのはどうやって数えたかは分からないが、これは相当大きい。かなりの衝撃だったことになる。実際に行かなくても心はそっちに行っている人もかなりいるだろうから。よっぽど衝撃だったのだ。

 BBCによると、トルコの新聞は各紙この殺害を非難したという。

 ここ2週間ほど、コンピューターに向かうのがつらかったので、横になりながらトルコの作家オルハン・パムクの「雪」と「私の名は紅(あか)」(和訳)を読んでいた。トルコのことが知りたくて読んでいたのだが、今回の銃殺はまるで「雪」の一場面のようだった。クーデターが起きて、いろいろな人が銃殺され、民族主義者やイスラム教原理主義者がそれぞれ対立する。(小説の好きな方は、書店でめくってみてください。「私の名は・・・」の方を特におすすめしますが・・・。)

  ジャーナリスト殺害の容疑者はーー10代の若者らを集め民族主義組織を結成していたという。トルコ政府が否定する20世紀初頭の「アルメニア人虐殺」についての言動を繰り返していたディンク氏を敵視し、「政府が(同氏に)何もできないのなら、我々が排除する」と手下に語っていたーーという箇所が上の記事の中にあったが、こういう感情、こういう動きがトルコでは非常にリアルに存在しているのが、2冊の小説を読んだ限りでは、そして私の短い旅行から得た印象ではやはりそうなのだ、と思ったりもした。

 これが何か良い動きにつながるといいのだが。





 








 
by polimediauk | 2007-01-24 08:53 | トルコ