小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英王室報道 盗聴事件


 最近、英国の王室報道が問題になっている。

 26日には日曜に出る大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の王室報道記者クライブ・グッドマン氏に、チャールズ皇太子側近の携帯電話に残されていた音声メッセージを盗聴していたとして、4ヶ月の禁固刑が下った。罰金を払う、あるいは処罰として奉仕活動に従事する、などを本人側は想定したようだが、実際には厳しい判決が下った。

 また、実際に盗聴活動に携わっていた、探偵のグレン・マルケア氏にも6ヶ月の禁固刑。

 判決が下りた時点で、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の編集長アンディー・クールソン氏は辞任した。

 関連の記事を全部は見ていないのだが、モラル面の話よりも2つの論調が気になった。

 1つは、グッドマン氏は約10万ポンド(約2千万円)の資金を経費として使っており、これは相当大きいので編集長は知っていたとして、上司の責任を問うものだ。「上」は編集長どまりなのか、それとももっとずっと上まで行くのかどうか。何が起きているか知っていながらやらせたとしたら、処罰が下るのはグッドマン氏、マルケア氏だけで十分だろうか?プレスの報道苦情委員会が、元編集長のクールソン氏を呼び状況を聞く予定だ。

 もう1つは、「盗聴はどこでもやられている」というもの。様々なスクープ記事が(全てではないが)実は盗聴を通して実現しており、捜査当局などもこの手を使っている、と指摘する人がいる。つまり、今回禁固刑にまで行ったのは、グッドマン氏が一連の盗聴でスクープを出せなかったからで、出していたら、大きなニュースにならなかった、というもの。随分シニカルな見方だが、英新聞業界では、とにかく市場原理が何事をも決定する傾向がある。

 インディペンデント・オン・サンデー紙(28日付)は、「この新聞は個人の会話を盗聴するようなことは絶対にしない」と社説で書いている。

 27日のデイリーテレグラフ紙はどうやって盗聴したかの手口をかなり詳しく書いていた。同様の手口が取られない様に、携帯電話会社はシステムを変えたと言うが、果たして大丈夫か、と心配にもなった。盗聴がばれたのは、電話に残っていた音声メッセージの中で、初めて聞くメッセージなのに既に聞いたメッセージとして扱われていた(つまり記者や探偵が最初に聞いていたので)ことから発覚した、と書かれてあった。
by polimediauk | 2007-01-30 04:06 | 新聞業界