小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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NHK番組改編訴訟問題 政治家の責任は?


 NHKの番組改編問題で、東京高裁が29日判決を出したことを知った。ネットで記事を読んだだけだが、全体を理解するには再度読み直しが必要だ。

 それでも、最初に疑問に思ったのは、NHKバッシングなのかな、と。政治家の責任はどうなるのだろう?「番組作りは公平・中立にして欲しい」というリクエストを出した政治家は?政府高官からそう言われたら、かなりプレッシャーを感じるのは普通だろう。安部首相の進退にも関係するのかどうか知りたくてヤフーなどを見ていたが、どうもそういう議論にはなっていないようだ。

 実際の番組を見ていないことをお断りしておきたい。

 BBCと英政府の関わりと重ね合わせてしまう事件だが、おそらく、これは100%仮定の話だが、もしこういうことが英国で起きていたら、番組の編集内容に関して政府の高官がBBCの番組編集者と会っていたこと自体が問題になるのでは、と思ったりした。つまり、BBCの編集権に介入しようとするとは何事か、と。メディアの編集権、表現の自由が金科玉条のごとく扱われる(必ずしもいいとは言えないのだが)雰囲気が強いので、時の政府に都合が悪い・良いかを考えてメディア側が編集を変更してはいけない、という暗黙の了解があると思う。もちろん日本もそうだとは思うが。

 もう1つ、表現の自由に関する懸念も気になる。一般的な話だが、制作者側の表現の自由、編集権の自由の点だ。

 最後に(というほどでもないが)、「真実」は何だったのだろう?と多くの人が思うだろう。NHK側が「政治家に言われて、故意にセンシティブな部分を取った」「あえてそのことを取材された側に言わなかった」などなど、本当のことは誰が知っているのだろう。いろいろ、タブーのトピックが多いようだ。タブーがあることは日本だけではなく、欧州でも例えばホロコーストの否定など、そういうトピックはあるが。

 日本にいらっしゃる方のほうが詳しくご存知とは思うが、BBCと英政府の関係にどうしても重なって見える事件だ。

番組改編訴訟、NHKの賠償責任も認める…東京高裁
 NHK教育テレビが放送した戦争特集番組を巡り、制作に協力した民間団体などが「放送直前、当初の説明とは違う趣旨に内容を変更された」として、NHKと下請け制作会社2社に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。

 南敏文裁判長は、「NHKは国会議員などの『番組作りは公平・中立であるように』との発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改編した」と認定し、民間団体側の期待と信頼を侵害したとして、NHKと制作会社2社に計200万円の賠償を命じる判決を言い渡した。NHKは即日上告した。

 一方、この番組に関して朝日新聞が2005年1月、「政治介入で内容が改変された」などと報道したことから、控訴審では政治的圧力の有無が争点となったが、判決は「(政治家が)番組に関して具体的な話や示唆をしたとまでは認められない」と介入を否定した。

 1審・東京地裁はNHKの賠償責任を認めず、下請け会社1社にだけ100万円の賠償を命じていた。

 問題となったのは、NHKが01年1月に放送した番組「問われる戦時性暴力」。判決によると、NHKの下請け会社は、民間団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が開催した「女性国際戦犯法廷」を取材する際、「法廷の様子をありのまま伝える番組になる」と説明して協力を受けた。

 しかしNHKは放送前に編集作業を繰り返し、「法廷」が国や昭和天皇を「有罪」とした個所などを省いて放送した。

 判決は、放送事業者の「編集の自由」について、「取材対象者から不当に制限されてはならない」とする一方、ドキュメンタリー番組や教養番組については「取材経過などから一定の制約を受ける場合もある」と指摘。その上で、「NHKは次々と番組を改編し、バウネットの期待とかけ離れた番組となったのに改編内容の説明も怠った」と、NHK側の責任を認めた。(2007年1月29日21時52分 読売新聞)


番組改編 NHKに2百万円賠償命令 「政治家発言」認定
1月30日10時20分配信 毎日新聞

 戦時下の性暴力に関するNHKの番組を巡り、取材協力した市民団体が「政治的圧力で事前説明と異なる内容で放映された」として、番組を改変(判決では改編)したNHKと制作会社2社に4000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は、NHK幹部が放映前に安倍晋三首相(当時は官房副長官)らに面談し「相手の発言を必要以上に重く受け止め、その意図をそんたくして改編した」と初めて認定し、NHKなど3社に200万円の支払いを命じた。NHKは即日上告した。

 1審・東京地裁判決(04年3月)は、取材を担当した制作会社ドキュメンタリー・ジャパンのみに100万円の賠償を命じ、NHKとNHKエンタープライズの責任は認めていなかった。

 問題とされたのは01年1月30日に教育テレビで放映された「ETV2001 問われる戦時性暴力」。「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)が00年12月に開いた「女性国際戦犯法廷」を取り上げたが、「ありのまま伝える」との事前説明と異なり旧日本軍の性暴力被害者の証言や判決がカットされたとして同ネットが訴えた。

 判決はまず、放送事業者の編集権は憲法上尊重されるとしながら、ニュース番組と異なり本件のようなドキュメンタリー番組などでは「特段の事情」がある場合、編集権より取材対象者の番組への期待と信頼が法的に保護されると1審と同様の判断を示した。今回は取材の経緯から「特段の事情がある」とし、その上で、番組改変は「期待と信頼を侵害した3社の共同不法行為」と認定。内容変更を原告側に伝えなかったことも「説明義務違反」と指摘した。

 改変の理由について判決は「NHK予算の国会審議に影響を与えないように、説明のため松尾武放送総局長(当時)らが安倍官房副長官(同)らと接触した際『公正中立な立場で報道すべきだ』と指摘された。発言を必要以上に重く受け止め、当たり障りのない番組にすることを考え、現場の方針を離れて編集された」と認定した。一方で「政治家が番組に関して具体的な話や示唆をしたとまでは認められない」と直接的な圧力は否定した。

 NHKは「編集の自由」を主張したが、判決は「改編は自由の乱用」と退けた。【高倉友彰】

 ▽NHKの話 判決は不当で極めて遺憾。直ちに上告手続きを取る。取材相手に期待権が生じるとしたが、番組編集の自由を極度に制約する。国会議員らの意図をそんたくして編集したと一方的に断じているが、公正な立場で編集した。
 ▽NHKエンタープライズの話 番組取材、編集、表現の自由を制約する判決で、到底認めることはできない。直ちに上告の手続きを取る。
 ▽ドキュメンタリー・ジャパンの話 判決は表現の自由の根幹を成す取材の自由を脅かすもので到底受け入れがたい。

 ■解説 裁判所が「期待権侵害と説明義務違反の両方認める」
 東京高裁判決は、(1)NHKは市民団体(バウネット)が抱いた番組内容に対する期待権を侵害した(2)NHKは、事前説明とは異なる番組となったにもかかわらず、その変更について放送前に説明しなかった--の2点において不法行為責任を認めた。事前に説明を受けていれば、市民団体側は、取材を受けないなどの判断ができたり、問題を他の報道機関に明かすことなどができたが、その機会を奪ったというわけだ。弁護団によると、期待権の侵害と説明義務違反の両方を裁判所が認めたのは初めてという。
 期待権について判決は「ニュース番組とは異なり、ドキュメンタリー番組、または教養番組では取材される者の重大関心事」だとして、報道とは区別する姿勢を示した。だが、判決は違いの理由を示さず、期待権が発生する条件についても「特段の事情がある場合」としただけで、具体的な基準を示さなかった。元共同通信編集主幹でジャーナリストの原寿雄さんは「説明責任を果たすべき立場にある政治家や官僚など公人に対する取材活動にもこの理屈が認められると、真実を追究するための取材に支障が出る恐れがある」と指摘する。報道機関への萎縮(いしゅく)効果も懸念される。
 取材の結果、当初の狙いとは異なる番組や記事になることはある。NHKによる期待権の侵害や説明義務違反は、本来、ジャーナリズムの倫理として論議する問題だ。【臺宏士】
 ■NHK番組改変訴訟の東京高裁判決の要旨は次の通り。
 《期待を抱く特段の事情》
 放送事業者の編集の自由は憲法上も尊重されるべき権利で、取材対象者が番組に何らかの期待を抱いたとしても、番組の編集、制作が不当に制限されてはならない。他方、どう編集されるかは、取材対象者が取材に応じるかどうかの意思決定の要因となり得る。この両面を考えると、取材者の言動により取材対象者がそのような期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、取材対象者の番組への期待と信頼が法的に保護されるべきである。
 被告の説明や取材、原告の協力にかんがみれば、番組は女性法廷の判決までの過程を、被害者の証言を含め客観的に概観できるドキュメンタリーか、それに準じる内容になるとの期待と信頼を、原告が抱くのもやむを得ない特段の事情が認められる。

 《期待、信頼の侵害と理由》
 放送された番組はドキュメンタリーとはかい離し、原告らの期待と信頼を侵害するというべきである。NHKは01年1月26日、普段立ち会いが予定されていない松尾武放送総局長、国会担当の野島直樹総合企画室担当局長が立ち会って試写を行い1回目の修正がされ、修正版について現場を外して2人と伊東律子番組制作局長、吉岡民夫教養番組部部長のみで協議し、その指示でほぼ完成した番組になった。さらに放送当日に松尾総局長から旧日本軍兵士と元慰安婦女性の証言部分の削除が指示され、最終的に番組を完成しており、本件番組は制作に携わる者の制作方針を離れて編集されていったことが認められる。
 その理由を検討すると、番組放送前に右翼団体から抗議されNHKが敏感になっていた折に、予算の国会承認を得るため各方面へ説明する時期と重なり、番組が予算編成に影響を与えないようにしたいとの思惑から、説明のため松尾総局長と野島局長が国会議員と接触した際、相手から番組作りは公平・中立であるようにとの発言がなされた。2人が相手の発言を必要以上に重く受け止め、その意図をそんたくして当たり障りのない番組にすることを考えて試写に臨み、その結果、改編が行われたと認められる。
 原告らは政治家が番組に対し直接指示をし介入したと主張するが、面談の際に一般論として述べた以上に政治家が番組に関し具体的な話や示唆をしたことまでは認めるに足りない。

 《説明義務違反と不法行為》
 番組制作者や取材者は特段の事情がある時に限り、内容や変更を取材対象者に説明する義務を負う。本件で原告は番組内容に期待と信頼を生じ、特段の事情がある。被告が説明義務を果たさなかった結果、原告は番組からの離脱や善処申し入れの手段を取れなくなり、法的利益を侵害された。
 NHKは番組改編を実際に決定して行い、放送したことから、原告の期待と信頼を侵害した不法行為責任を負い、説明義務を怠った責任も負う。NHKは制作担当者の方針を離れてまで国会議員の意向をそんたくして改編し、責任が重大であることは明らかである。

by polimediauk | 2007-01-30 20:04 | 日本関連