小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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「エコノミスト」による日本の司法制度


 図書館で「エコノミスト」をめくっていたら、日本の痴漢裁判の(映画の)話が載っていて、驚いてしまった。何しろ、見出しが、「日本の正義(司法制度):自白しろ」とでも訳せるような記事だったからだ。

  この映画に関してはすでに会見が日本で開かれていて、ヤフーで以下を見つけた。

周防監督、海外メディアへ熱弁!「痴漢摘発する前に満員電車なくせ」

 最新映画「それでもボクはやってない」がヒット中の周防正行監督(50)と主演の加瀬亮(32)が1日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で海外メディア向けに会見を行った。同作で日本の裁判制度のあり方に深く切り込んだ周防監督は、「日本でこのようなことが行われているんだという怒りを伝えたかった」と力説。欧米各国の記者を前に約90分間熱弁を繰り広げた。

 「再審の決定を1度は下しておきながら、取り消す。裁判時の証拠・証言にある程度疑いがある場合は再審制度を適用するとした白鳥決定(昭和50年)以降、『疑わしきは被告人の利益に』と言ってきたではないか。この決定は本当に恥ずかしい!」

 三重県名張市内で昭和36年に女性5人が死亡した名張毒ぶどう事件。名古屋高裁が昨年12月26日に死刑が確定していた被告の再審を取り消した件に対し、周防監督は感情を隠さず声を荒らげた。

 監督の口から次々と飛び出す日本の裁判制度の実情に、驚きながらも真剣な表情でペンを取る外国人記者たち。「Shall we ダンス?」の世界的ヒットで知られるだけに、この日は英、米、仏、独、シンガポールの記者やAP、ロイターの通信社記者、同協会会員など約120人が参加。海外メディアからは「なぜ11年間も映画を撮らなかったのか」「なぜ裁判をテーマにしたのか」「裁判官からの反応はあったか」などの質問が矢継ぎ早に飛んだ。

 そんな外国人記者の反応を1つ1つ確かめながら周防監督は、「この映画は海外の人に見てほしかった。世界の人が、人が人を裁くということをどう考えているのかを知りたかった」と熱弁。

 さらに外国と日本の考え方の違いにも触れ、痴漢対策の1つとして実施中の女性専用車両について「満員電車が走っている時点でおかしい。外国だったら(痴漢にあった女性は)そんな満員電車をつくる電鉄会社を訴えていると思う。痴漢を摘発しようとする前に、痴漢が起こらない努力を僕はするべきだと思う」と力説した。

 演説は度々ヒートアップし、「また長くなっちゃったね~」と苦笑いする場面も。周防監督は「(平成21年に実施予定の)裁判員制度は司法改革のチャンスだ」と日本の裁判制度が変わることを強く願い、「海外の人に、日本の裁判をどう思うかを伺っていきたい」と真摯に訴えていた。[ 2月2日8時1分 更新 ]

 監督は、「海外の人に日本の裁判をどう思うかを伺っていきたい」と語ったそうだが、エコノミストの記事を読んだ海外在住の人は、「日本ってひどいね」と受け取ったのではないかと思った。私自身、エコノミストの記事を読んで怖くなった。(裁判関係に詳しい方からすると、無知をさらけ出すようだが。) なぜ「自白」してしまうのか、なんとなく想像できるような気がしたのだ。エコノミストの説明が、何となく「やっぱり」みたいな部分があった。

 警察や司法だけでなく、こういう「自白へのプレッシャー」はいたるところにあるような気がするのだ。周囲からのプレッシャー。異議を唱えにくい雰囲気が。

 エコノミストの記事を読んだ人は、大部分の人が「日本ってひどいな」「日本人ってちょっとなあ」と思うのではないかと思う。

  少し話がそれるが、一般的に、「海外の人に」とか言うとき、気をつけなければならないのは、「海外」や「外国」が必ずしも正しいというわけでもないことだ。欧州あるいは海外の他の国に日本にはないような正義があるかというと、必ずしもないかもしれない・・・という思いを最近している。

 以下は大体の訳である。(もっといい訳を見つけたら教えてください。)

「日本の正義:自白しろ、次に進める」
2月8日付けのエコノミスト記事。

 富山県のタクシーの運転手がレイプとレイプ未遂で逮捕され、自白し、短い裁判の後、有罪となり、3年の禁固刑となった。一方、もう一人の男性がレイプ容疑で逮捕され、自白し、先の男性が告白した罪で有罪になった。この男性も禁固刑となる。

 これはボルヘスの作品か、あるいはスターリン時代のロシアの話か?いいや、違う。最近の出来事だ。そして、日本の司法制度の中では珍しくないことだ。

 1月26日、日本の法務大臣は、タクシー運転手を間違えて逮捕したことについて謝罪し、調査を開始すると述べた。この容疑者にはアリバイがあったし、罪を犯したのではない証拠もあった。容疑を否定もしていた。しかし、外部との接触を閉ざされて3日目、自白書類に署名するように説得された。

  間違った逮捕や有罪があまりにも多いので、法務省の調査から何かが明らかになるとは期待する人はほとんどいない。しかし、警察の尋問のやり方や裁判所のはじめに有罪ありきの姿勢に注目が集まってきた。 日本の司法制度の熱心さ(注:何としても有罪にしようとする、という意味と受け取られる)の無実の犠牲者たちが、だんだんと、警察や裁判所での取り扱いを明らかにするようになったからだ。

 日本の周防監督が間違って逮捕された人に関する映画を作った。この映画は「それでもボクはやっていない」というタイトルで、実話に基づいている。ある若い男性が、混雑した電車の中で痴漢に間違われる。この男性は自白書類に署名することを断固として拒否する。家族や友人の支援のおかげで、2年間抗議を続けた後で、再審の機会を得て、現在は自由の身になった。

 米国と英国で日本より先に公開されたこの映画は、有罪だろうと無罪だろうと容疑者たちがいかに日本の警察に残酷な扱いを受けるか、いかに裁判官たちが検察官と協力するかを明らかにしている。監督は容疑者が無罪と証明されるまで有罪とみなされている状態を描く。

 民主主義国家の中でも、日本がユニークなのは、逮捕された人の95%が自白し、裁判所に連れてこられた容疑者の99%が有罪となる点だ。検察官は、無罪放免となるケースに関わることを恥と感じ、もしそうなれば自分のキャリアに傷がつくと恐れる。裁判官はこなした件数で昇進が早くなる。陪審員は日本には存在していないー「裁判員」システムを導入しようという話はあるが。明らかに、一般大衆は、特別な知識が必要とされるような裁判事件に関しては、信用されないと日本では見られている。裁判事件で判断を下すのは裁判官だけなのだ。

 日本の憲法の第38条にも関わらず(この条項は疑いをかけられた人には黙秘権がある、としている)、警察や検察官は、証拠を基に立件するよりも、むしろ自白を得ることに力を入れる。公式見解は、自白書類は、法を犯した人をリハビリするための、欠かせない最初のステップなのだ。日本の裁判官は、自白が後悔の念とともに出された場合、刑を軽くする傾向がある。 さらに重要なことには、検察官は、嫌疑をかけられた人が特に協力的だった時、軽い刑を求める権利がある。

 警察の自白書類の取り方が、人権運動家たちを悩ませる。警察は容疑者を弁護士の接見や外部とのコンタクトなしに48時間拘束できる。この後、検察に身柄を引き渡され、24時間拘束される。裁判官は、この後で、10日間の拘束を可能にし、その後さらに10日間の拘束延長を許すことができる。

 日本の憲法は、強制、拷問、脅し、あるいは長期の拘束の後で得られた自白は、証拠として認められない、としている。それでも、脅しや拷問さえも、拘置所では広く行われている、特に尋問官が尋問を録音する必要がないときは。拘留中の事故死はしばしばだ。 強く非難されたり、それ以上の悪いことが23日間も続くかもしれないと思うと、間違って逮捕された人の多くは運命だとあきらめ、自白書類に署名することが、すべてを終わりにする最も早い方法だと思ってしまうのだ。


 ・・・こういう書き方をされてしまうと、すごいと思ってしまうだろう。

 英国の政治や法制度も、悪いように書けば書けるのである、ということもとりあえず指摘しておきたいが・・・。例えば、イスラム教徒の人がひどい目にあっている。テロ計画に関する「重要な情報が得られた」ということで、何人もが逮捕され、取調べを受ける。自宅で拘束され、警察官に肩を撃たれた青年もいる。謝罪は現在のところ、ない。最終的に、証拠なしということで、その多くが釈放されている。イスラム教徒の人からすると、いつ何時、事情聴取でひっぱられていくのか、分からない状態となっている。びくついている人も相当いるのではないかと思う。

  いずれにしろ、この映画が公開されているとは気づかなかったが、ぜひ見てみたいものだ。
by polimediauk | 2007-02-16 22:12 | 日本関連