小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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タイムズの記事 生体実験の告白


 英兵が亡くなったことに涙していたら、alfayoko2005さんからタイムズの記事を教えていただいた。

http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/asia/article1437667.ece

 記事を書いたのはリチャード・ロイド・パリーという人だ。私からすると、この記者は何となく変な人で、「日本ってこんなに奇妙な国」というアングルでいつも記事を書く。記事を読むと間違ったことを書いているわけでもないのだが、微妙な視点が常に「こんな奇妙な・・・」なのだ。

 私がいやだなあと思うのは、おそらく英国にも日本に対する(及び他の国に対する)偏見を持った人がたくさんいるだろうし、無知な人もたくさんいるだろうし、そういう人におもねっているような点だ。つまり、「ね、ね、日本って奇妙だよね」という感じ。つまり、読者を馬鹿にしていると思うのだ。タイムズを読むぐらいだと知的読者も多いだろうし、FTを読んでいる人だっているかもしれない。すると、かなり等身大の日本を知っている可能性が高い。(編集長だって、知日派なのだ。)それなのに、読者の知識度を低く見ている感じなのがいやだ。

 自分も含め、外国のことは中々わかりにくく、それだからこそ自分なりに謙虚に物事を見ていかなければならないと思う。「どうせこんなもんでしょ」という態度で、読む側のレベルを低く見て書いた記事を読むのはつらい。(説明が難しいが・・。)

 ・・などとちょっと偏見+お説教がましいことを書いてしまったた。先日も、同じ記者が「日本人がカラオケのやりすぎで喉を痛め困っている」という記事を出していた。これにも嘘はないとは思うが、それでも書き方が微妙に変だなあと思っていた。

 そう思いながらもこの記事を読んでみて、驚いた。「何故今なのか?」という問題は置いておくとしても、第2次世界大戦中フィリピンで日本兵として戦っていた人の話で、生体実験をしていたことを告白したというのだから。かなり衝撃的だ。この人は現在83歳。昔の話を記者に語ったらしい。本人が「生体実験をした」というのだから、否定できないだろう。

 鍵コメントの方のご指摘の中にもあったが、記事の流れ、持っていき方が確かに反日っぽいのはあると思う。日本人として、読んでいて不快だし、この記事の目的は「真実を語る」というより「日本ってこんなにひどい国」を示したい、という部分はあるだろうと思う。

 しかし、タイムズのこの記者が「日本ってこんなにひどい国」とするトーンでショッキングな記事を出したとしても、それほど私は頭にこない。1つには、この告白をした人が大嘘を言ったならともかく、真実だとして、いやなことでも事実は事実として受け止めるべき、という部分がある。もう一つは(こちらの理由が大きいが)、ウエブを見ると、この記事についた読者からのコメントが秀逸なのだ。コメントが記事を補足しているというか、コメントを含めて見ると、いろいろなことを読者に考えさせてくれる、良い記事になったような気がする。

 コメントを紹介したい。

 「で、今になって私たちは日本を同等に扱えっていうこと?」(デーブ、ロンドン)

 「新しいものは何もない。本当はニュースじゃないよね。こういうことを報道するなら、ちゃんとやれよ。多くの中国人や韓国人たちが、同盟国側の捕虜だった時、拷問されて殺害されたんだよ。これは通常は忘れられているけどね。戦後、多くの日本の軍医たちは(ドイツのロケット科学者のように)学んだことの代わりに起訴されなかったんだよね。ところで、日本の帝国海軍がより狂信的ではなかった(勇敢で愛国的だった)って、誰が言ったの?戦艦ヤマトは?勝つ見込みが全くなくても米海軍と戦った場合もあったよね」(ケビン・ラックス、上海)

 「(オーストラリア人の)デビッド・ヒックスはテロリストの疑いで5年間、『ブッシュのホリデーイン』キューバ(つまりグアンタナモ)に拘束されていたよ。誰かを殺したわけでも、傷つけたわけでもなく、反米国人だっただけで。この記事の中で告白した日本人は戦争犯罪人だけど、誰からも処罰を受けていない。人類に対する犯罪や戦争犯罪が何らかの意味を持つものだとしたら、こうした犯罪に関与した人は、絶対に罪を問われるべきだ。普通の人が、戦争犯罪は悪いことだ、上司からの命令でも従ってはいけないんだということが分かるようにさせて初めて、このようなことが起きなくなるんだと思う」。(マーク・カーター、オーストラリア・パース)
by polimediauk | 2007-02-27 09:14 | 日本関連