英法務長官が融資疑惑でBBCの放送差し止め
今晩9時頃、驚くべきニュースが入ってきた。
ブレア首相も関わっていたかもしれない、「上院資金融資疑惑」(労働党に融資をする代わりに、爵位などを違法に売った疑い)で、BBCがある情報の放送を予定していたところ、法務長官がロンドン警視庁が「捜査に支障がある」とする声を聞き入れた形で、放送差し止めを要求。王立裁判所で話し合いが行われていたが、2時間後、裁判所が差し止めを命じた。
BBCは、一体何が放送差し止めになったのか具体的には言えないことになったため、非常に分かりにくい説明でこのニュースを報道したが、「法務長官がBBCの報道を停止させた」という扱いになっている。
法務長官側は、差し止め要求の決定は、「政府とは独立して行った」、「公的利益のため」と表明。しかし、ゴールドスミス法務長官はブレア首相と非常に近いといわれており、これまでにも、イラク戦争開戦が違法か合法かの判断で、当初「違法」としてきたのを、途中から「合法」にした、と言われており、国民の間で長官の決定には常に疑惑の目が向けられる。
この疑惑はもともと1年前に始まったものだが、ブレア氏自身も2度事情聴衆を受け、側近の逮捕もあったが、それでも「誰も有罪にはならない」という声が既に出ている。捜査は大詰め・・といわれてからずい分日にちが経つが、それでも、差し止めになるほど、ということはよっぽど重要な情報をBBCが入手していたのか、本当に、本当の「大詰め」なのかどうか。
野党自由民主党のキャンベル党首は、BBCの夜の解説番組「ニューズナイト」で、「このような差し止め命令が出る、ということは、法務長官自身が誰かが起訴となる可能性を考慮したのではないか」と述べた。やはり、誰か有罪になるのだろうか?(悪いことをしたなら、やはり有罪になってほしいが。)
(以下、私が日本人向け週刊紙「英国ニューズダイジェスト」に書いた原稿から補足・抜粋)
「疑惑」の概要
上院資金融資疑惑が出てきたのは、ほぼ1年前。2005年の総選挙で労働党に巨額融資をした実業家12人全員が、首相から上院議員への推薦を受けていた。12人のうち4人が最終的には上院議員にはならなかったが、労働党が「金銭で貴族(=上院議員)の地位を売った・相手に買わせた」のではないか、とする疑念が出てきたのだ。貴族の称号を金銭などを通して授与するのは1925年爵位防止法で禁止されている。
また、政党は一定額の政治献金を受けた場合、これを公表する義務があるが、融資として資金提供を受けた場合はその義務がない。労働党がこの点を承知の上で実業家らに融資を持ちかけたのではないか、という疑いも出てきた。また政党は一定額の政治献金を受けた場合、これを公表する義務があるが、融資として資金提供を受けた場合は、関連法が修正された昨年9月11日以前はその義務がなかった。
さらに、ロンドン警視庁が捜査を開始すると、労働党関係者が捜査の遂行を妨害する動きも出てきたため警察当局は司法妨害の疑いも含め、捜査を続けることとなった。
―貴族議員任命方法の闇
現在までに、捜査の焦点は首相官邸周辺に絞られつつある。
貴族院(=上院)は庶民院(=下院)と共に英国議会を構成し、世襲貴族、一代貴族、法服貴族、聖職貴族がいる。この中で、一代貴族は上院の任命委員会が候補者を推薦するか、あるいは各政党党首が候補者を推薦する。いずれの場合も、最終決定件は首相にあり、各政党の候補者数さえも首相が決定する。首相あるいは労働党に資金調達を行えば、何らかの便宜を図ってもらえると人々が期待する構図がある。
今後の捜査の行方だが、疑惑に関わる中枢人物の逮捕あるいは事情聴取がこれまでに活発に進んできたものの、捜査開始後ほぼ1年経ち、誰一人も起訴されていないのが現状だ。今後も有罪となる人物が出てくるのかどうかは疑問とする、悲観論が広がっている。
その1つの理由は、献金あるいは融資をした結果として貴族の地位を買ったことを証明することが難しい点がある。ブレア首相は常々、今回の疑惑に関し、「政党側が業績のある人を候補者として推薦すること事態は違法ではない」としてきた。巨額の資金を出せる実業家などは社会的業績も高い場合がほとんどで、資金を出しために貴族になったのか、広い意味での業績を評価されて貴族になったのかを証明しにくいのだ。
そこで、ロンドン警視庁はこの一連の疑惑の証拠を隠滅・隠匿しようとした司法妨害罪で関係者を起訴することに力を注いでいると言われている。