英王室報道 チャールズ皇太子、ヘンリー王子
12日夜、私は残念ながら不在で見れなかったのだが、チャンネル4というテレビ局でチャールズ皇太子に関するドキュメンタリー番組が放映された。
「ディスパッチ」という番組枠で、皇太子が政治問題などに「ちょっかいを出しすぎる」、「自分の地位を利用して秘密裏にロビー活動をしている」、「国王になったら先が思いやられる」という発言をつないだものであったという。
これに対し、皇太子の広報室側が30ページに渡る「反論」を展開した。環境や有機農業に対する意見などを述べるのは公的地位にいるものとして当然であり、国王になれば、(特定の政治的示さないという)姿勢を取るのは明らか、などとした。王室広報がメディア報道に対して意見・反論を表明するのは珍しくないが、30ページにも渡る反論というは珍しい。ずい分力が入っている。
それでも、番組は実際に放映されており、王室だからといって番組の放映差し止めなどを命令するわけにはいかず、メディアと王室の間では常につなひきのような状況がこれまでにも生じている。
この前に王室報道がトピックになったのは、イラク派遣が決まったヘンリー王子の件だった。英国では通常「ハリー王子」と呼ぶのだが、週刊誌「プライベート・アイ」は表紙に王子の写真を入れて、「ハリー、ハリー(急げ、ハリー)、戦争が続いている間に」という見出しをつけた。名前のHarry とHurry(急げ)の意味を重ね合わせた。
この件で、「新聞協会報」(3月6日付)に原稿を出した。以下は加筆したもの。
ヘンリー王子従軍報道に自粛要請
抜け駆け懸念も捨てきれず
英国防省は、2月22日、チャールズ英皇太子の二男で陸軍所属のヘンリー王子を、陸軍士官としてイラクに派遣すると発表した。これに伴い、王室と国防省は連名で、王子の任務内容や居場所が特定できる報道は「兵士や民間人の生命に重大なリスクを与える」として、メディア各社に報道自粛依頼の書簡を送った。しかし、予定される今年5月から6月にかけての約6ヵ月ほどの任務期間中、抜け駆けでスクープ写真などが出る可能性も捨てきれないのが現状だ。
書簡は新聞、雑誌及び放送業者の編集長宛てとなっておりその内容は ①王子のイラクでの任務期間中、王子や所属部隊の役割を特定できる報道をしたり、推知させたりしない、②無許可で、王子に関する報道を目的として、記者やカメラマンを派遣しない③無許可で、フリーランスのジャーナリストやカメラマンからの原稿あるいは写真を使用しない、③イラク駐留中の王子に関する全ての記事に関し、国防省に事前に確認をとる4点。
厳しい要請ではあるものの、内戦状態に近いといわれるイラクに王位継承順位第三位の王子が派遣されれば治安リスクが高まるのは必須で、ほとんどのメディアは今のところ協力体制を表明している。デーリー・テレグラフ紙は、従軍決定を伝える記事の中で「自粛以来を順守」と明記した。
しかしこれで各メディアの報道に一斉にブレーキがかかったかというと、そうでもないようだ。
まず、2月28日までに、国民の高い需要に答え、王子の派遣までの経緯や主な任務、携行予定の武器、防弾チョッキの種類、装甲軽戦車の種類や装備など、大量の情報が報道された。かなりの量の情報が報道された。
派遣期間中を通じて、国防省からは一定の情報の提供が継続する見込みだ。プール取材の機会が設けられるかどうかを含め、どのような情報提供になるかは「今のところは未定」(国防省広報部)だが、自粛依頼の書簡でも「適度なアクセス」が明記されている。
また、王子のイラク派遣以前の段階で、英大手メディアは既に現地での取材体制を築き上げており、通常のイラク取材の一環の中で「たまたま」王子を撮影する瞬間を捕らえるメディアが出てくる可能性もある。
ガーディアンのマイケル・エバンス防衛担当記者も、「無責任なカメラマンたちが潜在的に重大な悪影響を起こしかねない」事態が起きるのではと懸念を表明している。(2月22日付)。
王室側からヘンリー王子を巡る報道に関し自粛依頼が出たのは今回が初めてではない。陸軍士官学校時代、「学校を卒業するまで」という期限付きで報道制限があった。
英王室は、王族が軍人として戦闘に参加することを長年の伝統としている。ヘンリー王子の前には、王子の叔父アンドリュー王子がフォークランド紛争下の1982年、海軍のヘリコプター操縦士として従軍した。当時も王子の所在に関する報道には一定の自粛が求められた。