安部首相の従軍慰安婦発言 英エコノミスト「恥を知れ」
遅くなったが、安倍首相の従軍慰安婦発言に関し、英メディアの報道を見てみたい。
まず大前提として、英メディアの論調の中では、「日本は過去=戦時中にやった残酷な行為を認めていない」、「慰安婦問題も含めた戦時中の事柄に正面から向き合っていない」という認識が広く共有されてきたように思う。これは今回の安倍発言に関する場合だけでなく、私が気づいた時からするともう数年(10年?)にもなる。
第2次世界大戦中、日本はアジアで「悪行」を行い、これを十分に清算していないので、中国を始めとするほかのアジア諸国が怒っている、「過去を清算をせよ」、「不正行為を認めて、それから次の段階に進むべき」、今後の良いアジア関係発展のためにも、日本が「過去を清算し、和解をすることが大切」という論調だ。
こうした論調や前提はほとんどの英メディアにある。基本的に、日本は第2次世界大戦でドイツと組んだ敵側にいたことを、英国は決して忘れていない、と言って良いと思う。(逆に言うと、世界の中で、この点を忘れている国は少ないかもしれない。)戦争中の日本軍の「悪行」「戦争捕虜の扱いの悪さ」を表に出した映画・ドキュメンタリーは時々テレビで放映もされる。
日本に関する英国の報道を見るときに、こうした要素がまず前提としてあることを、今一度確認しておきたい。
さて、日本と戦争がトピックになった時、果たして、英メディアは公正な報道をするだろうか?何をもって「公正」とするのかがまず問題になるが、それぞれの国はそれぞれの国の歴史観や文脈で物事を判断するので、慰安婦問題など戦争がらみのトピックの場合は特に、「英国では、こうなんだな」、として、私自身は英報道に接している。
しかし、戦争がらみのトピックに関して言えば、英国の考え・見方が欧州あるいは他のアジアの国々(特にどこと指すわけではないが)でも漠然と共有されている部分はあるかもしれない。つまり、「日本が、慰安婦問題を含めた戦時中の行為に関して、十分に謝罪していない、きちんと清算していない」とする見方だ。
このような日本の外での認識は、日本人が現時点でどう考えようと、ある程度広く共有されている、と私は見ている。英語でニュースを拾っていると、少なくともそういう思いがする。これを変えたければ、日本人自身が時には言論・表現の場で、あるいは政治の場で情報を発信していくしかないのではないか。
・・・ということで、「エコノミスト」3月8日号の記事を見てみたい。8日号には、2本この件に関して載っていた。2本、同じテーマ(安倍首相+慰安婦問題)で載るというのは珍しい。
読んでみると、安倍首相に関して、これでもか!というほど厳しい表現が続くことに驚いた。エコノミストは以前イタリアのベルルスコーニ元首相に関しても「辞任しろ」とでも言うような表現でがんがんやったことがあるので、安倍首相だから、と特別視しているわけではないと思うが。これ以上強く言えないのでは、と思うほどにきつい、強い文章になっており、書いている側の怒りが強く出ている。
(以下は大体の訳ですが、意味の通じる範囲で言葉を省略・言いかえているところがあるのをご了承願います。間違い他はどうぞご指摘・アドバイスください。)
(1)3月8日号 No Comfort for Abe
「安倍氏に慰安はなし」
日本の首相が、数千人の女性たちの組織化されたレイプに関して、恥ずかしい闘いをしている
(最初の段落は、6ヶ月前に小泉首相から安部首相になった経緯を説明)安倍氏は日本の市民が「美しい国」に新しい誇りを持つ、と語っている。
国民は誇りを持つべきなのだ。しかし、安倍氏からもっとよいことを期待していた人々にとって悲しいのは、安倍氏が日本の過去に関する虚偽の上に将来の誇りを築くことができる、と考えている点だ。
安倍氏が首相としてスタートした時には、十分に希望があるように見えた。中国や韓国に対しもっと微妙なアプローチを取ることで、小泉首相が靖国神社に強情に訪問したために起きた損害を大分取り消すことができた。先週になって、すべての善意を安部氏はめちゃくちゃにした。帝国日本の戦時の泥沼に自分の足を入れ、日本帝国軍によって運営されていた売春宿の制度に、20万人があるいは「慰安婦」たち(韓国、フィリピン、中国、台湾、インドネシア、ネパールや他の国)が集められたかどうかを疑問視したのだ。厳密に言うと、安倍氏は証拠はない、と言ったのだ。
耳が聞こえないのだろうか?何十年間にも渡る恥辱の後で、1990年代初期から、こうした女性たちの何人かが沈黙を破り始めてから直接の証言が積み上げられてきたのに。最近では、米国下院の公聴会で、日本政府からの完全な謝罪を求める決議を通過させるために努力が続けられており、犠牲者の一部が戦争時の性の奴隷がどんなものだったのかを痛々しく説明した。もしこれまで日本政府が証拠のファイルを閉じてしまったり破壊してこなかったら、もっと証言が出たのかもしれない。
(慰安婦の制度に疑問を呈するという)このような恥ずべき闘いを何故しようとするのだろう?注意深く行われた、戦時の侵略行為に対する(政府の)過去の謝罪にさえも憤慨している自民党内の保守系グループは、内閣の一員による1993年の声明を覆すための運動を行っている。この声明は、売春宿の設置に軍隊が関与していたことを認めていた。
売春宿の生存者たちが望んでいるのは、日本(政府)からの完全な謝罪だ。生存者達は、民間資金によるお金を受け取ることを拒否した。こうした人々の証言を疑問視することで(実質的に証言者たが嘘をついている人たちだとしたので)、安倍氏は過去の損害に現在の侮辱を加えた。しかし、損害はさらに広がる。日本の近隣諸国に対して、安倍氏は不信感を復活させている。そして、世界中の危険な場所で、組織化された犠牲者である「慰安婦」のように、戦時のトラウマに苦しんだ人々を支援するために働いている、素晴らしい日本人たちの努力をけなすことになる。
不快な過去に向き合うことを避けたがるのは日本だけではない。中国は安部氏の発言を厳しく非難したが、中国共産党は、例えば、1950年代、毛沢東が引き起こした飢饉で約3000万人が亡くなったことの責任を認めたことはない。しかし、戦後60年間、意識的に健忘症にかかるのは、近代的で民主的な日本に値しない。安倍氏よ、恥を知れ。
(2)3月8日号より
Scarely an Abe-rration
常軌を外れる行為では全くない(注「やっぱり」、の意味か)
首相の最近の、そして最も侮辱的な失言は、典型的過ぎる
・・・昨年9月、圧倒的な勝利で、安倍氏が自民党の党首そして日本の首相に選出された時、若々しい(52歳)、新しい政治世代の経験豊富な人物、小泉氏の改革路線を継ぐ人物とたてまつられたものだった・・・・しかし、これまでに、唯一目に付くのは安倍氏の下降だ。
3月1日、安倍氏は10月北京とソウルを訪問して成し遂げたものの多くを取り消してしまった。中国人と韓国人の多くの苦情の1つを公的に否定したからだ。この苦情とは、日本帝国軍が数万人の女性たち、多くは中国人や韓国人に対し、1930年代から1940年代にかけて売春を強制したというものだ。
婉曲的に表現される「慰安婦」の全てが奴隷だったわけではない、一部は既に売春婦だったし、他の女性たちは家族の手で奴隷として売られた。しかし、多くの人たちが、女性たちは誘拐され、奴隷とされ、レイプされたと言っている。女性たちの証言があり、軍部の記録にあった書類が見つかったことで、1993年、日本政府は責任を認めた。今になって、安倍氏は、強制が行われた「歴史的証拠」はないと言った。つまり、女性たちはうそつきだ、と言ったのだ。
これで安倍氏の本性が出た。日本の20世紀の歴史に関して、安倍氏は、リビジョニスト(修正主義者)的見方を長い間持ってきた、保守的な政治家なのだ。今回の発言は、政府の1993年の声明(国会では批准されていない)を覆すための法案を、自民党の保守主義者たちが無理に通そうとしている時に、出された。自民党の保守主義者たちは、米国の国会で性の奴隷問題で日本を非難するための動きがあることに反応していた。強い首相だったら、このようなセンシティブな問題に関してある姿勢を取ることに抵抗していただろう。しかし、安倍氏は、政党の中で基盤を築くことに一生懸命なのだ。
(この後は首相として安倍氏が生き延びられるかどうか、という話に進む。7月の参院選の結果によって、これが決まる、とある。最後が、)
・・(戻ってくることはないだろうが)今となってみると、小泉首相がいないのを寂しく思う。