小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

イラク戦争開戦から4年


 イラクへの武力侵攻(イラク戦争)開始から、4年経ち、英メディアではこの4年を振り返る報道が始まっている。

 昨晩はBBC夜10時からのニュースで、いつもスタジオからレポートしている、ヒュー・エドワーズというプレゼンターの、イラク南部からのレポートがあった。約1週間イラクに滞在し、毎日レポートを送るという。英軍の従軍記者ということになり、英空軍基地から兵士たちとともにクエートまで飛ぶ。クエートからまた飛んでイラクに着く。この様子を短いが少し紹介した。ここまで見せていいのかな?とやや思ったが、なじみのある顔がイラクまでの旅をすることで、リアル感が出た。普段はエドワーズ氏はめがねをかけていないが、旅をするクリップではめがねをかけており、最後にイラクに着いた頃にはずいぶん疲れている感じがあって、英兵士たちもこんな風にしてイラクまで飛んでいるのだ、ということが良く分かるようになっていた。

 イラク南部バスラは、首都のバグダードに比較して治安の危険度はやや低いということになっているが、それでも危険なことは危険だ、と紹介。その日、英軍が没収した「危険物」を砂の上に並べていた。その1つは大きな石の塊で、実は中に爆弾が入っている。「毎日、攻撃がある」とエドワーズ氏。

 丁度4年前に米軍の爆撃を受けて、両親や家族の多くと自分自身も両腕をなくした少年アリ・アッバス君(今は英国に在住)のクリップを紹介。

 ITVというチャンネルの午後10時半からの番組を見ると、ITVのテリー・ロイド記者(米軍により射殺)の「犯人」が誰か、「段々分かってきた」というレポートがあった。

 ロイド記者は2003年3月22日、バスラ郊外の橋で取材中、イラク側と米軍との撃ち合いの場に巻き込まれた。背中を撃たれたロイド氏は、医療ケアを受けるために連れ去られる途中で、米軍に頭を撃たれて亡くなった。米軍の中でどの部隊が、あるいは誰が撃ったのか、米側はずっと沈黙を守っている。

 昨年10月、検視のための調査が行われ、検視官の結論は、これが「違法の殺人」だった、とした。8日間公聴会が開かれたが、米軍からは誰も出席がなかったという。(ガーディアン20日付け記事。)

 ITVが昨晩やったのは、責任があったとされる米部隊名をつきとめた、ということで、関連していたかもしれない部隊の数名の名前を、画面上に流した。「この中の誰かがロイド記者を撃ったのです」、と。ちょっとリンチのような気がした。

 レポーターは、テレビ局側が、「1998年のローマ条約」に、戦時にジャーナリストを意図的に殺した場合、これを国際的犯罪とする、という条項を入れるよう、キャンペーン活動を開始した、と告げた。

 一方、ガーディアンの12日付によると、イラクでの英メディアの取材で、「10分ルール」あるいは「20分ルール」と言葉を人は良く使うのだ、という。何かというと、あまりにも危険度が高いので、ジャーナリストたちはホテルに缶詰状態で、イラク人のジャーナリストたちを実際には使っている、と。それでも現地の声を入れたい時や映像が必要な場合、どうしても外に出ざるを得ない。車を飛ばしてイラクの市中に出かけ、車から飛び出して、通りにいるイラク人をつかまえ、2,3の質問をして、また車に戻るまでが「10分」あるは「20分」というのだ。

 BBCのベテラン中東記者ジョン・シンプソン氏やインディペンデント紙ロバート・フィスク氏も、「イラクがあまりにも危険すぎて、ちゃんとした取材ができないのが現状」と声をそろえる。

 1年半前、ガーディアンのロイ・キャロル記者が誘拐され、36時間拘束された。これ以降、ガーディアンは常駐記者をイラクにおいていないという。今英メディアで「支局」あるいは常駐記者を自前で置いているのはBBCとタイムズだけだという。

 「こうした状態で取材をしていることを、メディア側はもっとはっきり読者・視聴者に言うべきではないか」、「イラクは最高に重要なトピックだが、レポーターが殺されるのでは割に合わない」とガーディアンの外報デスク、ハリエット・シャーウッド氏が話している。

 昨日、開戦から4年経ったということで、英外務省はメディアに対し、「4年でどれほどイラクでさまざまなことが達成されたか」を詳細に記したリストを一斉に送った。外務省のウエブ上でも紹介されている。

http://www.fco.gov.uk/servlet/Front?pagename=OpenMarket/Xcelerate/ShowPage&c=Page&cid=1007029394374

 日本のオーマイニュース・ジャパンでは、一時人質になったがイラクへの支援を続けている、という女性のビデオクリップが出ていた。(まだ見ていないのだが、生の声が載るので、ウエブはおもしろいなあと思っている。)

http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000006084
by polimediauk | 2007-03-20 21:28 | イラク