雑感 BBC他 + 英資金融資疑惑とメディア(1)
間があいてしまったが、書こうと思いながら時が過ぎ、後で入れるつもりなのが、慰安婦の件。
BBCのラジオ4で「ウーマンズ・アワー」という番組が先日あり、慰安婦のことが放送されていた。
http://www.bbc.co.uk/radio4/womanshour/03/2007_13_wed.shtml
いつまでもこのウエブアドレスで聞けるかどうかは分からないが、今現在は大丈夫。再度聞いてから、この件について書きたい。
最近の英メディア報道を振り返ると、社会面のトピックでは、浴室のバスタブの砂から手だけを出して死んでいた、英国人女性の記事がこちらでは結構大きい。
「ルーシー・ブラックマン」事件というのがあって、娘を亡くした父に大きな共感を持っている英国の読者はたくさんいるだろうと思う。それにしても、紹介されている写真を見ると、本当に美人の女性。姉妹も美しい。何故それほど面識のない男性のところへ、しかも自宅に戻るまでに後をつけられていたような男性の家にいったのか、疑問が残る。「何故、この女性がこんな行動を?」と、いくらかでも批判がましい見方はあまり英国の新聞には出ない。「親切に教えてあげようと思ったのに、殺された」という見方だ。殺されたのが英国人なのだから、同情心は一般にこの女性や遺族にいくのはどこの国でも同じだ。
それにしても、親切で教えてあげよう、として相手の家に行ったのだとしたら、そういう親切心が裏切られるのはつらい。この男性がもし犯人だとしたら、この男性そのものに問題があったのか、あるいは何らかの社会的傾向があるのかどうか?「日本はもはや安全とはいえないかも」という表記をテレグラフで目にした。
イランの件。英海軍の15人ほどがイラン側に拘束されている。日本ではどのように報道されているだろうか?英国全体が拘束された側にいるかというと、そうでもないようだ。「何故イラン・イラクの国境海域に英海軍がいたのか?」と疑問を書いていたのが、ガーディアンのコラムニスト・作家のマックス・ヘースチングス氏だった。
また3・30付けのテレグラフの政治風刺画で、ライオンが怒っている絵があった。その尻尾には、誰かがいたずらしたように、結び目がついていた。ライオンが「このいたずらをしたのは誰だ?」という感じで、犯人を捜している。その後ろに、林があって、木々の間から、イランの大統領がこっちをこわごわ見ている。ワナワナ、と震えている感じ。思わず、笑ってしまった。
イランは米英側から核開発に関して長い間プレッシャーをかけられてきた。どこかで押し返さないとまずい、と思ったのかもしれない。
テレグラフの編集の話は次回書こうと思うが、4月1日づけで、新聞通信調査会の会報に、英上院資金融資疑惑とその報道について書いた。
3月上旬、BBCに報道規制令が出て、ものすごく大きなニュースになったのだが(その経緯は既にこのブログでもその都度書いてきた)、今は一応おさまっている。
一番気になるのは、報道・メディアの話で大騒ぎになったけれども、結局のところ、誰も有罪にならない確率が高いようで、そうすると、一体大騒ぎは何だったのか、ということだ。メディアがあくまでも、何かを明るみにだすための、1つのツールだとしたら、ツールの件で議論が沸いているうちに、「何か」がどこかにいってしまったような感じがするのだ。5月ごろには、捜査の結果が出る、と聞いた。
前のブログの表記を読まれた方には重なる部分もあって恐縮だが、一つの記録としてまとめてみた。(この会報の他の方の記事は通常月末にPDFで読める。)
英上院融資疑惑と報道規制
「政治介入」との闘いに明暗感
上院議員への推薦にからむ英与党・労働党の巨額融資疑惑に、ロンドン警視庁の捜査の手が入ってから、ほぼ1年になる。ブレア首相も含めこれまでに百人以上が事情聴取を受け、首相側近ら4人が逮捕されたものの起訴には至っておらず、今後もその可能性は低いと見られている。3月上旬、英法務長官の要請で、裁判所がBBCが予定してい報道の差し止めを命じ、英メディア界に大きな衝撃が走った。起訴前の差し止め請求は極めて異例で、「政治介入」とする見方も出た。BBCの差し止め令から数日後、ガーディアン紙は新たな差し止め要求を振り切って同様の記事を掲載。同様の状況下でのメディア間の対応の違いが浮き彫りになった。
―融資疑惑とは
問題の疑惑は、2005年の総選挙で労働党に巨額融資をした実業家十二人全員が、首相から上院議員への推薦を受けていたことが発端だった。全員が上院議員になったわけではないが、労働党が「金銭で貴族(=上院議員)の地位を売った・相手に買わせた」のではないか、とする疑念が出てきた。名誉職の売買は1925年叙勲法で禁止されている。有罪となれば最高で禁固2年あるいは上限が無制限の罰金の支払いを課せられる。
また、政党は一定額の政治献金を受けた場合、これを公表する義務があるが、融資として資金提供を受けた場合は、関連法が修正された昨年9月11日以前はその義務がなかった。労働党がこの点を承知の上で実業家らに融資を持ちかけたのではないか、という疑いも出てきた。
貴族院(=上院)は庶民院(=下院)と共に英国議会を構成し、世襲貴族、一代貴族、法服貴族、聖職貴族がいるが、この中で、一代貴族は上院の任命委員会が候補者を推薦するか、あるいは各政党党首が候補者を推薦する。いずれの場合も、最終決定権は首相にあり、各政党の候補者数さえも首相が決定する。首相あるいは与党労働党に資金を提供すれば、何らかの便宜を図ってもらえると人々が期待する構図がある。
現在のところ、捜査の行方には悲観論が広がっているが、その理由の1つは、献金あるいは融資をした結果として貴族の地位を買ったと証明することが難しい点だ。ブレア首相は常々、今回の疑惑に関し、「政党側が業績のある人を候補者として推薦すること事態は違法ではない」としてきた。巨額の資金を出せる実業家などは社会的業績も高い場合がほとんどで、資金を出しために貴族になったのか、広い意味での業績を評価されて貴族になったのかを証明しにくい。
警視庁は、この一連の疑惑の証拠を隠滅・隠匿しようとした司法妨害罪(違反者は原則として終身刑となるが、これまでの実際の刑は10年以下)で関係者を起訴することに力を注いでいると言われている。
―BBCへの報道差し止め令
3月2日、BBCは融資疑惑に関する大きなニュースを、午後10時からの旗艦ニュース番組で放映することを予定していた。重要度の高いニュースを報道する際の「慣行」として、事実確認と相手方からの反応を得るために、関係者全員に連絡を取った。この中の一つがロンドン警視庁だったが、捜査当局は報道が「捜査の障害になる」と判断し、司法審理が公正に行われることを監督する立場にあるゴールドスミス法務長官に対し、報道差し止め令の要請を依頼した。法務長官からの要請を裁判所が認め、差し止め令の発動となった。
英国では公正な裁判が妨げられる、あるいは法廷侮辱罪とみなされる報道を司法当局が差し止めることができる。法廷侮辱罪は厳密には容疑者の逮捕後をもって適用が可能になるが、起訴後あるいは裁判が開始されてから報道規制がかかると見なすのがメディア界では常識となっている。
起訴前の差し止め令の要請は皆無ではないが異例で、こうした要請が出るからには「起訴が近い」(野党議員)とする見方が出るほどだった。また、テロ関連事件で容疑者の人権擁護のために報道差し止めが出るのはかつてあったが、今回の疑惑捜査では初めてとなった。
裁判所が差し止め令の要請を認めたのは午後9時で、報道を予定していた番組の開始1時間前だった。BBCの政治記者は、「融資疑惑に関するある報道に差し止め令が出された」、「捜査に障害が出ると判断した警視庁からの要請で、法務長官が差し止め令の申請を裁判所に出し、裁判官が申請を認めた」点までは説明したものの、「一切の報道内容及び差し止め令の根拠の詳細は言えない」と話すだけで、視聴者からすると皆目見当のつかない、不可解な光景となった。
―各紙の反応
差し止め令決定が金曜日の夜にあたり、詳細が明らかにされていない状況だったため、各紙は翌日付紙面でBBCに差し止め令が出た事実、今後も捜査当局が差し止め令を要請する可能性などの報道をするにとどまった。BBCに対する差し止め令だったが、全メディアに対する差し止め令だと解釈する新聞もあった。
一方、同様の報道を大衆紙メール・オン・サンデーやサンも予定しており、これに対しても法務長官が自粛の要請をしていたことが後で分かった。
週末から週明けにかけて、BBC経営陣は「差し止め令の重みを尊重しながらも、解除へ向けて法務長官側と裁判所を通じて交渉を続けていた」(バイフォード副会長、7日、BBCのラジオ番組内)が、他メディアがBBCが予定したニュースとは何だっただったのかを執拗に探し出す競争が始まっていた。
5日(月曜日)までに、問題とされた報道は首相官邸のターナー上級顧問(融資疑惑捜査で逮捕、保釈中)からパウエル首相首席補佐官に宛てた電子メールを中心にした話だったらしいこと、メールの内容は労働党の資金作りの中心人物リービー上院議員(逮捕、保釈中)に関するものだったことなどが伝えられるようになった。
同日、既に各紙が報道の1部を伝えていることなどから、裁判所はBBCに対する差し止め令の規制を緩和。これでBBCは、関連する首相側近の名前とメール(あるいは文書)に関する報道だったと明らかにすることを許された。
―ガーディアンのトップ記事
5日夜、ガーディアンは、リービー上院議員が、自分への訴追を避けるため、ターナー上級顧問に対し、警視庁に提出予定の文書の内容を修正するよう圧力をかけた疑いを示唆する記事の掲載を予定。もしこれが証明されれば、上院議員は司法妨害罪で起訴される可能性があった。
ガーディアンはBBCと同様に関係者に連絡し、この過程で法務長官は新たな差し止め令の要請のために動くことになった。
ガーディアンのラスブリジャー編集長自身がこの間の経緯を複数のメディアに語ったところによると、法務長官側から、予定していた記事が「BBCの報道と似ている」と指摘され、内容を修正して報道するか、修正がない場合は報道をしないことを求められたと言う。もし報道すれば、法廷侮辱罪が適用される可能性もある、とされた。
これに対し、編集長は、「掲載後に法廷侮辱罪などに問われるのは毎度のことだ。構わない」と返答。修正を拒否すると、BBCの報道にそうしたように差し止め令を出すと示唆されたので、「それでは、BBCへの差し止め令の根拠など、詳細が見たい」と要求した。法務長官側もBBC側もこれを拒否し、編集長は、「国家がメディアに報道の事前差し止めをするには、相当な理由を示すのが英国の伝統」として、掲載を主張した。
こうしたやり取りが続いている間に、新聞は既に印刷され、配達の過程にまで進んでいた。最終的に、裁判官は、記事が「十分な取材に基づいている」、「既に印刷が済んでいる」ことなどを理由に、今回は法務長官側の差し止め令の要請を退けた。
6日付ガーディアンはリービー上院議員が新たに捜査の焦点となっているという内容の記事をトップ掲載した。午前中、他のテレビ局が、「BBCが2日放送を予定していたのはこれだった」と報道する中、BBCは、先の差し止め令で問題となったニュースへの言及を厳しく制限されていたため、ガーディアン記事への言及を許されなかった。可能になったのは、6日昼の時点で差し止め令が解除されてからだった。
しかしその後の数日間に渡り、BBCは差し止め令の理由などの詳細を公表することを禁じられた。8日、裁判所は差し止め理由のほぼ全貌を公開したが、何故警視庁と法務長官が差し止め要請をしたのかを示す箇所は伏せられたままで、この箇所も含めて全てが公開可能になったのは、週明けの12日だった。
これによると、BBCが2日の時点で予定していたニュースは、「ターナー上級顧問は、リービー上院議員が融資疑惑に関連し自分に嘘をつかせようとしたことを懸念に思い、これをパウエル首席補佐官あての文書にしたためた」とするもの。警視庁と法務長官側が差し止めを要請したのは、裁判官によると、この報道に「かなりの真実が含まれていた」ためだった。警視庁は問題となったターナー氏の文書に関する捜査を進めており、BBCの報道で、関係者が文書の重要性に気づくことを防ごうとしたのだった。BBCの弁護士は、この文書を巡り「関係者が捜査妨害に動くことはない」と主張し、裁判官がこれを認めて、12日時点で全てが公開許可となった。(続く)