小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

BBCのリース卿、英資金融資疑惑とメディア(2)


 昨晩、BBCの初代トップ、リース卿に関する番組が、BBC4というチャンネルで放映された。

 特にメモを取っていなかったのだが、リース卿というと、BBCの現在の基を作った人と言われる。「教育、娯楽、情報を与える」などBBCの目的を明確にし、政府からの編集上の独立権のために闘うなど、その業績には長い説明が必要になるが、昨晩の放送からやや驚いたこと、これまでに知らなかったことを拾ってみる。

 まず、16年ほどBBCのディレクター・ジェネラル(会長、と便宜的に訳す)だったということだが、BBCを辞任したとき、まだ46歳だった。娘によると、事実上は、「追い出された」そうだ。

 そして、若い時、「チャーリー」という数歳年下の男性と知り合い、リース卿にとっては、彼が生涯心から愛した人物だったと言う。伝記作家などが番組に出てくるのだが、プラトニックでなく、性的な意味も含めて、本当に恋人・愛人同士だった。

 娘の話によると、2人の子供とはあまり親しくなく、家にいないことも多かったため、冷たい父親だったという。結婚はしていたものの、他の女性に何年か熱を上げるなど、妻をかなりつらい目に合わせていたことが分かってきた。

 また、自殺願望が強く、46歳でBBCを離れてからは様々な団体の経営のトップになり、政治家として閣外大臣にもなるのだが、それでも自分の仕事振りにはいつも不安感を抱き、満足を得ることがなかったという。後に首相となるチャーチルとは長年犬猿の仲だった。

 番組のナレーター役は2004年、BBCを辞任した元会長のグレッグ・ダイク氏。「結局、BBCやビジネスの世界では非常に素晴らしい仕事をした尊敬できる人物だったが、家庭など私生活の面では、寂しい、自分を好きになれない、悲しい男性だった」と結論づけた。「自分の父であっては欲しくない人物。でも自分は好きだ」とダイク氏は語っていた。

 ある意味、非常にスキャンダラスな内容で、こうした内容が放映されることに驚きを感じた。

 以下は前回の融資疑惑の(2)である。
 

―BBCへの批判と政治介入

 BBCにとってはかなり厳しい報道規制が続いた10日間となったが、メディア法を専門とするマーク・スチーブンス弁護士は、「BBCは国民の知る権利を十分に満足させることができなかった」、「何故差し止め令の後、直ぐに控訴しなかったのか」(3月7日、BBCのテレビ番組内)と、BBCの対応を批判した。

 バイフォードBBC副会長は、これに対し、ただ手をこまねいていたわけではなく、「週明け5日からは裁判所にかけあうなど、様々な方法で全面解除に動いていた」と反論した(同日BBC別番組)。

 しかし、2003年イラク戦争開戦前夜の政府の情報操作疑惑で、正確ではないとされる報道をしたことがきっかけで、経営陣を刷新せざるを得なかった、「ハットン事件」の尾をBBCが未だに引いている、とする声も出た。

 一方、BBCへの差し止め令を申請したゴールドスミス法務長官の行動の中立性に疑問を呈する見方が強まっている。先のスチーブンス弁護士は、「これまでの私の30年の弁護士歴で、法務長官がこれほど頻繁に捜査の遂行に介入する例は見たことがない。今回の動きも、政治介入だ」とする見解を示した。

 法務長官は内閣の一員ではないが閣議には参加し、政府の法律顧問の役目を持つ一方で、司法制度が正当に機能するよう監視する、公的利益を守る、という役割も持つ。首相に任命される法務長官は、果たして政府とは独立した立場で司法監視を行えるのか、という疑問がしばしば話題に上るようになり、法務長官という職そのものを見直す時期に来ているとする議論が起きている。

 特に現在の法務長官に関しては、法の支配の原則を政府の意向に沿うように曲げたのではないか、とする懸念がこれまでに何度か表明されてきた。

 イラク戦争開戦時の法解釈(新たな国連決議がなければイラク侵攻は違法としていた自論を、決議なくても合法と急きょ転換)や、昨年末の英企業のサウジアラビアへの兵器売却を巡る汚職疑惑で、重大不正捜査庁による捜査の打ち切り決定(「国益を重視」とするブレア首相の文句と呼応する理由を繰り返す)がその具体例だ。

 長官自身は「差し止め令要請には政治的意図は全くない。報道の自由と公的利益をバランスにかけ、独立した法の守り手として決断した」、とする記事をデーリー・テレグラフに寄稿している(12日付)。

 リービー議員の方は、6日付けのガーディアンの記事の後、「報道は事実に基づいていない」、「メディアによる裁判が行われていることを遺憾に思う」、とする声明文を発表している。

 労働党への巨額融資や上院議員への推薦過程に、ブレア首相(事情聴取二回)が立場上深く関与していたのは否定できないとしても、果たして違法行為があったのか、もし何らかの違法行為があったとして、首相や側近が関与していたのかを解明する捜査の行方は国民の大きな関心事だ。5月頃までには一先ずの答えが出ると見られている。

 英メディアと捜査当局や法務長官との間での熾烈な戦いが起きた数日だったが、結局誰も起訴にならないという見方が強まる中、もしそうだとすれば一体この報道騒動は何のためだったのかとやや空しい印象も残る。

 一方、一連の流れを振り返ると、ガーディアンにスクープを取られた形となったBBCだが、12日明らかにされた裁判官の説明の中で、BBCの差し止めされたニュースが「相当に真実を突いていた」という箇所があり、、BBCの報道が確かなものであったことが逆に裏づけされた顛末ともなった。

by polimediauk | 2007-04-04 03:44 | 政治とメディア