小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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イランの勝ち? 拘束英兵を巡るドラマ


 2週間ほど前から、英海兵隊員たち15人が、イランによって拘束されていたが、4日、イランのアハマディネジャド大統領が、記者会見で即時釈放を発表した。意外な展開で、事態は急速に動き出した。

 英政府もまさか釈放の発表があると思っていなかったようだ。

 大統領の記者会見は3日に予定されていたのだが、4日に延期され、英兵拘束問題に関しては大統領はこれまで見解を明らかにしていなかったので、彼が何を言うのかが注目されていた。

 ロンドンでは外国プレス協会に外国報道陣が集まり、こちらの時間の午後1時過ぎから始まった会見をテレビでみんなで見ていた。会見場に入ってくる大統領が結構小柄で、「小柄だねえ」などと言ってみていると、最初はイスラム教のコーランをある男性が唱えだした。大統領自身のスピーチもイスラム教に関わる話で、それから1時間ほどは西側の政策の批判が主。

 英兵を捕まえた軍人たちにメダルを与え、その後で、「釈放」を発表した。

 この時、後で分かるのだが、大統領府のほかの部屋では15人の英兵たちが、新しくあつらえたらしいスーツ姿で、この会見の様子を通訳つきで見ていた。

 釈放の知らせに、一瞬、シーンとなったが、その後は歓喜一杯になったという。

 大統領は一問一答で、BBCの記者から何故釈放することにしたのか、と聞かれ、「(イスラム教の)新年なので」、「預言者のために」、「英国民への贈り物として」、釈放することにした、などと答えている。

 その後、15人と別の部屋で個別に会い、それぞれと会話を交わした。英兵たちは感謝の言葉で一杯だった。この様子を、ずっとイランのテレビが映していた。

 英兵たちは喜び一杯で、英国にいる家族も大喜び。英兵たちは、明日朝一番の飛行機でロンドンに出発するという。

 一方、官邸前で会見したブレア首相は、表情が非常に硬かった。大統領などイラン政権への感謝はなし。イラン国民に感謝する、と述べていた。

 結局のところ、イランではイラン国民が「大統領ってすごい」ということになっているであろうし、英国でも家族の喜びの声がよく報道され、第一、英兵たち自身がイランのテレビカメラに向かって、にこにこして、「ありがとう」「よく扱ってもらえました」などと言っているので、政府以外では英国でも「良かったね」という結論に収束しつつある4日の夜だった。

 一連の動きを見ると、イランのメディア戦略というか、外交スキルというか、英国よりは今回に関しては上手で、イランの存在感を内外に示した格好となった。「ドラマ作り」のうまさにおいては、イランが勝った結果となったといってもいいだろう。

 もともと、この15人がイランの軍隊に拘束されたのは、ペルシャ湾のイラン・イラク国境水域に英海軍の船がいたからだ。イラン側は「イランの領域を侵犯した」というのが拘束理由。英国は今でも、ずっと、「イラク領域だった」と言っている。

 どっちだったのか?朝、王立国際問題研究所でのミーティングでも、午後のプレス協会のブリーフィングでもそうだったのだが、英国人に聞くと、「イラクであるのはあきらか」であり、イラン側に聞くと「イランだ」、「もしくはどちらか分からない。イランとイラクで合意したものを故フセイン大統領が破った」云々という。見方が国によって真っ二つに分かれるのだ。

 それにしても、気になるのは、英兵が拘束中に、おそらく何らかの脅しを受けてだろうが、テレビ画面に向かって「告白」させられており、この中で英兵たちは「イランの領域だった。間違いだった」と何人もが述べている点だ。
 
 英国に戻ったら、この点をどうするのだろう?自分の言ったことを後で否定するのだろうか?それとも本当にそう信じたのか?

 拘束された英兵たち、英兵の家族たちは、「イランを見直した」とでもいう感じで、イランへの感謝ばかりを口にしていた。元々拘束をしたイランを批判したくても、まだ息子・娘が戻ってきていないので、批判できないのだろうか?

 とにかく、イランが存在感を世界に認めさせたのは確かなようだ。大いなるプロパガンダの「ドラマ」だった。
by polimediauk | 2007-04-05 07:39 | 政治とメディア