英兵の体験談の売りがとうとう「禁止」に
かなり批判ゴウゴウになってしまった、イランに拘束されて先日英国に帰国した15人の英兵たちの「体験談のメディア販売を国防省が許可」の件。
とうとう、9日、国防省はとりあえず、「禁止」とした。そして、どういうルールでどんな時に売って良いのかを見直すことになったのだ。今回の15人に関しては既に売っている人も数人いるので、「今後は」ということだろうか。
この件で週末の新聞やテレビラジオに注目してみたが、いろいろな論点が出てきた。読者の投稿欄を含め、少なくともメディア報道に関しては、90%が「何てひどいことに!」と怒っている声が多いように見受けられた。
論点を拾ってみると
―イラクで亡くなった英兵を持つ親が「やりきれない」「怒り」。
―自分自身も拘束された経験を持つが、拷問にあい、それでも数ヶ月は「告白」をしなかった。今回の15人は何故あっさりと嘘を言ったのか?
―イラン側からもらったおみやげのバッグを、しっかり抱えて英空港に戻ってきたのは、何故なのか?(喜んでもらっている場合じゃないだろう!と。)
―既に軍隊の人や政府高官、政治家などが打ち明け話や自伝をどんどん出している。英兵だけをバッシングするのは欺瞞だ!(これももっともだが・・・。)
など。
コメントを下さった方がご指摘してくださったように、アンディー・マクナブという元SASの人がいて、この人もどんどん書いてきた一人。(ただ、この人は辞めてから書いたと私は記憶しているけれども。)ラジオのインタビューで、「国防省の許可はいい決断。どうせストップしようとしても出てしまうのだから、先に許可を出したのだ」、「そのほうが内容をコントールできる」(!!)
9日、BBCのツデーというラジオ番組で、15人の一人と元「サン」紙の編集長がインタビューされていた。編集長は「自分だったらOKしなかった(既に15人のうちの女性が体験談をサンに売っている)」、として、「こんなことがOKになったら、軍の機密をドンドン出すことになる」、「私がすごくいやだなと思うのは、首相官邸広報のデビッド・ヒル氏が、大手メディアの編集室に声をかけ、『15人の記事を出したいのだったら、協力するよ』と申し出ていたことだ」と暴露!(これは怖いことである。)
とにかく、何が悪いか何が悪くないかの「スタンダードがなくなった」というのは、9日付ガーディアンのピーター・プレストン氏。(元ガーディアン編集長)
8日のサンデータイムズで、アンドリュー・ロバーツ(歴史家、作家)という人が書いていたのが印象に残る。それは、もし15人の体験談を売ることに「いいんじゃないの?すごい体験だったし、お金をもうけてもかまわないだろう」と自然に思える人は、「新しい英国人New Brit」、今回の件で怒る人は「古い英国人Old Brit」と指摘していた。まさにそうなのかもしれない、と思った。
というのは、15人の中で先日の記者会見に出た数人やその後のインタビューでも、体験談で巨額の報酬を得ることに対し、何かけろっとしているのだ。「自分の体験の真実を語りたかった」「お金は関係ない」「15人の中でお金を得る人がいてもいいと思う」と。といっても、本当にお金が関係ないなら、「お金はいらないから、でも、真実を出したい」とは言わないのだ。全く違う考え方なのだ。
9日付メディア・ガーディアンで、ピーター・ウイルビー氏が、メディアが会見場での英兵側(つまり国防省の)話をうのみにしすぎる、と指摘。これは具体的には、どの海域にいたか、の点だ。英側の公式見解は「イラクの水域」。しかし、ウイルビー氏が元英外務省のクレイグ・マレー氏の分析を引用し、「実は、イランかイラクかに関し、合意が出来ていない場所だった」という。マレー氏は、1989年から1992年、外務省の海事課の課長だったのだ。マレー氏は元ウズベキスタンの大使だったが、人権問題にからんで首にされた。ウイルビー氏は、「少なくともマレー氏の見解をメディア側が精査してもいいのでは」という。
また、同じくウイルビー氏で、15人が英国に戻ったとき、ブレア首相は同時にイラクで英兵たちが亡くなったことに触れ、イラン政府が関わりがあるかのような含みの発言をした。ところが、ガーディアンに英軍筋が明らかにしたところ、あくまでこれは疑惑であって、「確固たる証拠がない」というのだ。というわけで、「メディアよ、もっとしっかりした仕事をしてくれ」と注文している。
それと、今気づいたが、私が15人と国防省に欺瞞の匂いを感じるのは、15人が帰国会見をしたとき、書いたものを読み上げた15人の中の一人が、「これからはしばらくそっとしておいてほしい。プライバシーを考慮して欲しい」と言ったのである。ところが、実際は、同時にかその前、あるいは直後に、メディア側との体験談掲載交渉があったことになる。
9日午後8時からは、15人の中のたった一人の女性の「独占インタビュー」がITVというチャンネルで放映された。早速見たけれども、やはり、彼女も「新英国人」なのだった・・・。時々、全体の話し方として、言葉が結構途切れ途切れなのだけれども、急にある程度まとまりのある文章が入ってくる。これがいかにも書き言葉っぽく、「上司に言われた」文章を言っている風なのだった。悪意・陰謀があってそうしている、という意味ではなく、「こういう風にいいなさい」と言われた文章を言っているような。中学生の文章の中に急に大学生の文章が入るような・・・。
15人の中で、20歳の男性がいた。彼からは「母=マザー」と呼ばれていた、拘束されてから、この男性を「抱きしめてあげた」という箇所があり、ああ、やっぱり新英国人と思わざるを得なかった。この「抱きしめる」=ハグというのは、野党保守党党首キャメロン氏もよく言っていたのであるが・・・。(論理が飛ぶようで恐縮であるが。)独房に入れられてから、「仲間と離れてさみしくてしょうがなかった」、「床に寝た」という説明で泣きそうになっていたのを見ると、私はうーん・・・と思ってしまった。
最後には、また前線に戻りたい、という。これは他の英兵たちも同様だ。しかし、戦略的に言って、英海軍は拘束されたような人物をまた前線に送りたいと思うだろうか?不思議だったが、「素晴らしい仕事をした」と海軍高官などが誉めるから、「だから戻りたい」となるのだろう。
15人は、「将棋のこまにされた」「プロパガンダに使われた」と、怒るべきではないのだろうか?
去年、ロシアの元スパイがロンドンのど真ん中で毒殺状態になった。これを英情報機関の大失態という見方をしているのを読んだことがあった。何せ、ロンドンのど真ん中なのだ。今回の15人の拘束も、英海軍の失態ではないのだろうか?英海軍・国防省が「君たち、よくやった!」とその業績をねぎらったときから、「体験談を売ってもよし」といったときから、狂い出したように思う。どうみても今回の15人の拘束は英側にとって失敗・失態のはずなのに。これを認めないから、いろいろ狂ってくるのではないのだろうか?
一方のイランは、ロイター電によると、アハマディネジャド大統領が、ウラン濃縮活動が商業段階に入ったことを明らかにしたという。
大統領は中部ナタンツのウラン濃縮施設での会合で「本日、イランが商業規模で核燃料を生産する国々の仲間入りを果たしたことを誇りをもって発表する」と述べたという。あくまでも、強気だ。