小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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「世界の報道の自由は後退している」UNESCOイベント


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(写真はロシアのデモス・センターのタチアナ・ロクシナさん、写真提供UNESCO)

 UNESCO「世界報道の自由の日」の集まりが、3日、ロンドンでいくつかあった。午前中開催されたのは、UESCO英国支部の主催の「世界の報道の自由は後退しているか?」というテーマのイベントだった。参加者はメディア関係者や一般市民、学生など。ロシアからのゲスト、英政治ブロガー、他メディアコメンテーターが、「後退している」、「後退していない」の2つの側に分かれてディベートを行なった。

 2006年は殺害されたジャーナリストの数がこれまでにないほど増加しており、「最も血なまぐさい年」とも言われているそうだ。

 パネリストの一人がロシアの人権関係のジャーナリストでデモス・センターhttp://www.demos-center.ru/projects/649C35 というシンクタンクの代表でもあるタチアナ・ロクシナさん。チェチェン問題を書いてきたジャーナリストで、昨年殺害されたアンナ・ポリトコフスカヤさんに言及した。「いかにジャーナリストが傷つきやすい状態で生きているかが分かった」。

 「ロシアでは、独立プレスというのは殆どない」、「ロシアの人が情報を得るのはテレビ。テレビは国家がコントロールしている」。

 おそろしい話となったが、質疑応答の時間になり、元BBCのモスクワ特派員スティーブン・ダルジエル氏が、「プーチン時代になって報道の自由が減ったというのはあたっていないのではないか。(その前の)エリツイン時代は共産主義だったのだ。あの時代の方が自由がなかった」と指摘。

 ロクシナさんは、むっとした表情で、「私たちはロシアで生きている(住んでいない人には分からない、とう意味だろうか)。プーチンはチェチェン問題を皮切りに、報道の自由を殺したのだ」と反論。

 作家で元BBCジャーナリストのニック・ジョーンズ氏もコメンテーターとして発言。彼も報道の自由が後退している、という意見。それは、(おそらくマードックを指してだが)、メディアが数少ない所有者に独占されつつある。だから、報道の自由が狭められている、と指摘した。

 討論の内容はロシアに比重がかかったものとなり、最後、参加者が挙手でこの日のテーマに賛同するかを聞かれた。60人ほどが手をあげた中で、50数人が「後退した」。私もこの中の一人だった。

 私自身が「後退した」理由の1つで、議論に出なかった要素に、「テロの戦争のレトリック」があるのではないかと思った。確か、一時、チェチェン問題に関し、プーチン大統領も「これはテロの戦争だから」という言い訳をしていたような記憶がある。「テロとの闘い」といってしまえば、何でも許されるような雰囲気がある。全てがとまってしまう。言い訳になるのだ。無実の人がテロ容疑で捕まって、後で無罪になっても、その汚名ははらされない。「テロとの闘い」で捕まったのだから、仕方ない、と。キューバにあるグアンタナモ基地収容所に拘束されている人も、普段なら正当な裁判を受けるべきだが、裁判まで行かない場合がほとんどで、ずっと拘束されたままだ。

 前にも書いたが、この中の一人にアルジャジーラのサミ・アルハジ記者がいる。5年間拘束されっぱなしだ。アルジャジーラ・アラビア語放送ではテレビで「サミをすくえ」というキャンペーンをやっているそうだが。もともとスーダン人で、アルジャジーラの仕事でアフガニスタンに行き、捕まった。戦闘地にいたわけではないのだが。

 UNESCO討論の会場には、「BBCのアラン・ジョンストン記者を救え」というポスターが貼ってあった。3月中旬、パレスチナ地区で誘拐されたのだ。

 しかし、他の参加者とも話していたのだが、「BBCはお金があるから、大々的にキャンペーンができる」、「無実だが捕まっているジャーナリストは世界中にたくさんいるのに・・」という思いがした。オーマイニュース英語を読んでいたら、パレスチナ人の人の話で、何と、パレスチナでは誰が誘拐したか、周知だという。犯人がほぼ分かっていても手が出ない状態。政府同士が情けないのか、政治的意思がないのか。


http://commentisfree.guardian.co.uk/tatiana_lokshina/profile.html
http://commentisfree.guardian.co.uk/category/world_press_freedom_day/
by polimediauk | 2007-05-06 00:03 | 欧州表現の自由