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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

「世界報道自由デー」ロシアの状況


 (日本語では「世界報道自由デー」と呼ぶようだ。)

 3日の午後、ロンドンの外国プレス協会でロシアの報道状況に関して、2人の専門家が話をした。

 2人は午前中の「世界報道自由デー」の討論にも出ていたが、ロシアのシンク・タンク、デモス・センターのタチアナ・ロクシナさんと、ジャーナリストで「極限状態のジャーナリスト・センター」の所長オレグ・パニフィロフ氏。

 両者共にプーチン下のメディアがいかに自由がないか、いかにジャーナリストたちがひどい状況に置かれているかを詳細に報告。英国にいると、こういうネガティブな話しか聞こえてこないのだが、一体、こういう意見は少数派なのか、主流なのか?

 英国王立国際問題研究所のロシア班の人の話によると、「プーチンはコントロール・フリークのようなところがある」そうである。(余談だが、英メディアでは、インディペンデントが親ロシア、タイムズとテレグラフが反ロシア的記事が多いという。)「ロシア政府は、西欧がロシアをどう見るか?を大変気にする傾向がある」。昨年ぐらいから始まったばかりの英語のテレビ局で「ロシア・ツデー」というのがあるが、「ロシアには独立メディアがある、ということを示すためにできた」とこの人は見ていた。

 通訳を通して話したオレグ・パニフィロフ氏の話は:

「ロシアでは共産主義がかつては長く続いており、『報道の自由』、『表現の自由』という概念が長らくなかった。元共産圏だったポーランドもそうだった、と人は言うが、ポーランドが共産主義国家だったのはたかだか50年ほどに過ぎないのだ」

 「ジャーナリストへの規制が出来てきたのは1990年代。結構最近だ。言論の自由がない時代が長かった。学生にジャーナリズムを教える先生たちも、自分たちは古いスタイルのジャーナリズム、つまりは言論の自由がなかった時代の考えに基づいて教えている。学校ではジャーナリズムのテクニックを教わる、ジャーナリズムについて教わる、というよりも、文学を題材として学ぶ」  

 「政府はプロパガンダを教えたがっている」

 「ロシアにはジャーナリストを守る法律がある。例えば憲法21条だ。これは、検閲を禁じ、言論の自由を唱えている。しかし、これが現実に実行されていないのだ」

 「最も自由があったのはエリツイン大統領の時代だったと思う。プーチン大統領になってすべてが破壊された。ロシアには5つのテレビのチャンネルがあるが、これは全て政府が支配している。第一次チェチェン紛争(1994―1996年。ロシア連邦からの独立を目指すチェチェン独立派武装勢力と、それを阻止しようとするロシアとの間で発生した紛争)の時、ジャーナリストが何が起きているかを世界に報道した。第2次戦争の時(1999-)、政府は報道を止めようとした」

 「今、本当の情報を欲しい人はNGOから得る。しかし、97%の国民は情報をテレビにたよっている」

 「ジャーナリストは危険にさらされている。殺された人、攻撃された人。毎年20人のジャーナリストが殺されているが、直接仕事に関わりがある理由で亡くなったとはされない。また、毎年50人ほどのジャーナリストが刑事犯罪に問われる。過激主義、テロ関連、中傷などの罪だ」

タチアナ・ロクシナさん

 「今、ロシアでテレビのニュースを見ると、どのニュースもほとんど同じで、非常に衝撃を受ける。全体主義的国家になっている。国会もプーチンの政党が独占している。野党勢力が破壊されている。声を出せるのはNGOだけだ。NGOの活動も制約を受けるが」

 「チェチェンの状況に関してだが、政府の見解は、チェチェンの事態は正常で、最も安全な場所、としている。実際は、犯罪が多発する、無政府状態の場所だ。ロシアの法律外にある。1994年前に何が起きたかを話すことはタブーだ」

 ちなみに、朝日新聞記事(今年3月8日)によると、91年のソ連崩壊から現在までに、ロシアでは200人以上の記者が殺害されたり、不審死しているという。チェチェン紛争における当局の弾圧を批判してきたアンナ・ポリトコフスカヤ記者が、昨年10月に射殺されたが、殺されたジャーナリストたちの事件の多くが未解明のままだそうだ。今年3月2日、「ロシアの有力紙で政財界に読者が多いコメルサント紙」のイワン・サフロノフ記者が自宅階段の踊り場の窓から転落死した。検察当局は自殺と見て捜査中(もう結果が出ているかもしれない)だった。何者かに殺害の可能性も否定できないようだ。

 ・・・英語圏ではこのようにロシアのメディア状況が大変なことになっているという報道が多い。一体、実際ロシアに住んでいる人はどう思っているのだろうか?(もし「それほどひどくない」と思われる方がいたら、コメントなどお寄せください。)また、ロシアのメディア状況でもう1つ疑問なのは、いわゆる西欧型(?)言論の自由という考えだけでは、理解できないのではないか、という点だ。ではどうやって、何をものさしとしてみるのかというと、私も分からないのだが。ロシアはロシアであって、英国でも米国でもフランスでもないような。とにかく、「プーチン=怖い=言論の自由なし」という論調ばかりが目に付く。

 タチアナ・ロクシナさんの午前中のスピーチはガーディアンで読めるようになっている。ベリタに無料記事で掲載中。気づかなかったが、彼女も「9・11テロ以降の言論の不自由さ」をスピーチの中で指摘していた。国家がテロ攻撃を口実にしてメディア統制・攻撃をするようになっている、と。

ベリタ無料記事 

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200705070229351
by polimediauk | 2007-05-06 23:59 | 欧州表現の自由