北アイルランドで自治政府復活、テレグラフ
北アイルランドで自治政府が復活した。4年半ぶりに、北アイルランド議会が始まり、自治政府の第1、第2首相の座やそれぞれの閣僚の人事を決めていく様子が、「BBCパーラメント」というチャンネルで延々と実況中継された。
最終的には南のアイルランド共和国との統一を目指すシン・フェイン党のメンバーは、最初にゲール語(アイルランド語)で話し、それから英語で話している様子が映った。ゲール語を話すとき、紙を読んだり、やや自信なげにも見えた。それでも、英国の一部であることを強く望む、ライバル政党のDUP(民主統一党)のメンバーからしたら、いやだろう。
その前の段階では、副議長を誰にするかなどの議論の過程があったが、時々笑いが起きたりして、緊張感とうれしさとがミックスしたような雰囲気だった。長年のライバル・血みどろの内紛状態だった2つの勢力を代表する政党、つまりDUP(プロテスタント系)とシン・フェイン党(カトリック系)の代表が、第1首相と第2首相になった。
第2首相となったマーチン・マッギネス氏は、カトリック系の民兵組織IRA(アイルランド共和国)の「テロリスト」だったといわれる。武力闘争をしていた人物の一人だと。そういうシンフェイン党とは「絶対に手を握りたくない」というのがプロテスタント系勢力のスタンスだったけれども、昨年、北アイルランド担当大臣から、「自治政府再開のめどがたたないようなら、給料をストップ。自治政府そのものが永久停止になる」と言われ、紆余曲折があって、今日の再開となった。
マッギネス氏と第一首相のイアン・ペイズリー氏(DUP党首)は、既に今月初旬スコットランドを共に訪れ、北アイルランドへの投資計画などを協議するために、スコットランドにいたブラウン財務大臣と会談している。一方のシン・フェイン党の党首ジェリー・アダムズ氏は、北アイルランド警察との話し合いを開始。プロテスタント系が圧倒的に多い北アイルランド警察を、長い間(今年1月まで)、シン・フェイン党は認めてこなかった。
これからどんどん進んでいくのだろうけれど、気になるのが、暗い過去の様々な清算だ。例えば、北アイルランドの警察が、実際にプロテスタント系政治勢力や英政府(情報機関)と「つるんでいた」件。これは北アイルランドにある警察オンブズマンが去年明るみに出した事件だが、過去の清算をするには、過去に何があったかをはっきりさせ、違法行為をした人は相当の懲罰などを受ける、というステップが必要と思われるが、英情報機関がプロテスタント系勢力のチンピラたちから情報を取るために、違法行為があってもつかまえないという動きをとっていた可能性があるらしい。今までは、もっぱらIRAの「テロ行為」が悪い、あるいはプロテスタント系民兵組織の暴力行為が悪い、何とかしよう、ということに焦点が置かれていたが、英政府自身も様々な違法行為に関与していた可能性が高いと言われ、どこまで「清算」があるのかな、と思ったりする。きれいごとではないな、と。
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テレグラフの「ウエブ・ファースト」戦略に関し、5月1日付の新聞協会報に書いたものに付け足したものが以下に入れたい。この号は、米国の新聞業界の話も特集として載っている。もし入手できたら、新聞業界に関心のある方には参考になるだろう。米国の新聞のオンライン責任者がよく口にするのが「オンライン・ファースト」、「ビデオ」、「ネットワーキング」だそうだ。紙よりもウエブで最初にニュースを流し、ビデオをウエブに載せ、USA TODAYでは、オンラインコミュニティーに力を入れているそうだ。
また、オンラインに力を入れるのは、収入の8割が広告に頼っているためであるらしい。つまり、紙の新聞を買って得る収入は2割だけなのだ。英国ではどうかというと、私自身正確な数字がないのだが、広告:販売が半々、という記事を見たことがある。英国は定期購読の比率が低く、ある新聞の報道では、13%と書かれていた。殆どの人が、駅やニュース雑誌の販売店で、その日の紙面を見て買うようだ。私自身、定期購読よりも、その日の朝、買いに行く新聞の数の方が多い。
テレグラフ
スクープもウエブ優先
デーリー・テレグラフなどを発行するテレグラフ・メディア・グループが、ウエブ戦略実現のため、4580万ポンド(約109億円)をかけてロンドン・ビクトリアの新社屋に移転してから4月で半年経った。
テレグラフは、近年、所有者の交代、新経営陣による大幅な人員削減に加え、編集長やデスク陣にも重なる辞任や交代が続き、不安定な時期を経験した。心機一転のメディア戦略は、いち早くネットに力を入れてきたガーディアンなどの後追いでは?という懸念も一時出たが、巨額費用の投資は「いつでも、どこでも、あらゆる形式」で、読者にニュースを届ける体制作りを目指したもの。スクープをウエブ優先で伝えることにも、ためらいはない。その背景には読者の広告主の「ネットへの移住」がある。
青いじゅうたんが敷き詰められた編集局の中心部にはハブと呼ばれる編集会議の場所が設けられ、ここから車輪のスポーク状に記者用の机が並ぶ。壁面の画面にはBBC、スカイニュースなどテレビやニュースサイトが大きく映し出されている。20万ポンドを投じたとされるテレビやラジオのスタジオも同じフロアに配置された。
この目的は、紙媒体、ウエブ、音声・映像といった媒体の区別なく、常時ニュースを提供することにある。記者は記事を書くだけでなく、マイクやビデオカメラの前に立ってリポートもする。編集長やデスク陣が集まるハブが、様々な媒体に情報を発信する情報を統括する場所となる。
―ITNが映像を編集
動画への取り組みの1例が経済番組「ビジネス・ショー」。記者が社内のスタジオで専門家などにインタビューした映像をITN編集する。記者が確認して昼休み時にはウエブで発信する。ITNがテレグラフ用に独自に作ったニュース映像も流される。現時点で、テレビ局並みの編集作業を自社で扱う予定はないという。
PDF版の「テレグラフPM」も平日夕、ウエブ上で2回発行される。午後4時頃には翌日の紙媒体で使うニュースの大部分がネットに載る。ルイス編集長は、「どんな形式でつたえるかに、こだわりはない」として「ウエブファースト」にも積極的な姿勢を示す。ガーディアンのように、ネットと紙媒体を2つの対立する存在としては考えていない」という。
グレード・BBC経営委員長がライバルとなるITVに移籍することを伝えた昨年11月のスクープは、まず携帯電話向け(英国で大人気の「ブルーベリー」)、オンラインサイトが続いた後、翌日付の活字版に掲載された。
携帯電話やオンラインに流したのは、他紙が遅版で追いつける時刻だった。しかし、「テレグラフのスクープだと分かるように報じてもらえばよい」(ルイス編集長)と判断した。
テレグラフ・グループが編集室の移転と新ウエブ体制実施にかけた費用は4580万ポンド(約109億円)ほど言われる。デーリー・テレグラフの発行部数はほぼ90万部を維持しており、高級紙の中でも未だにトップの座にある。
マクレナン最高経営責任者は、インディペンデント紙の取材の答え、ウエブ対応への積極的な投資の背景に、読者とともに広告主もネットに「移住」していることを挙げた。2006年の英国のオンライン広告費は20億ポンドを超えた。テレグラフの案内広告を見ても、活字版が年間4%減の一方、ネットは9%の伸びを示す。
テレグラフの競合相手はもはや他の英高級紙だけでなく「BBCやグーグル・ニュース」になっており、若者層がニュースをネットで見る比率が高くなっている傾向を考えると、「今動くしかないと思った」。
―マルチメディアの競合相手
新聞社のネットあるいはマルチメディア戦略に対し、否定的な声は英メディア業界内部にも存在する。インディペンデント紙のケルナー編集長は「ポッドキャスティングなんて、誰も聞いていない」、(ガーディアン紙3月19日付け)と一蹴している(!)。(実際そんなことはないが・・・。)しかし、デジタル革命に無関心というわけではなく、ネットの「パイオニア」とはならずに、他社の試みの後でじっくり歩を進めてゆきたいと語る。
テレグラフの紙と他媒体の区別をつけない方針は新聞社としては斬新な試みだ。一方、記者への負担が増えたことも手伝い、分析・解説記事に時間を割かない風潮が出てきたと指摘する声(テレグラフ筋)も一部に出ている。また、英国で最大のニュースサイトBBCと競う上で今後、内容の差別化が課題に1つになりそうだ。
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一読者として思うのだが、新聞業界がネットにお金をかけるようになって・・ということだけれども、情報の受け手からすると、紙でもネットでもビデオでも何でも構わない感じがする。ただ、やはりどうしてもネットで情報を取る比率はどんどん高まっているし、部屋に新聞や雑誌を貯めるスペースも無限にはないわけだから、何でもネットに入っているといいな、と思う。
個人的に気になっていることは、時間である。音声・動画クリップは聞く・見るのに一定の時間がかかる。見出しだけ読んで、というわけにもいかない。音声・動画クリップがダメというのではなく、一つのことに関して情報を集めるのでも、とにかく何でも時間がかかる。どれだけの情報に生きている間に接することができるのか?あっという間に情報(+知的刺激)が入手できないものかと夢想する。