ブレア、ブレア、ブレア・・・ブラウン、ブラウン
―ブレア旋風
10日、ブレア首相が6月27日に退任すると発表した日、英メディアはこの話題で持ちきりとなった。
スカイニュースには元内務大臣のデビッド・ブランケット氏や元教育担当大臣などが出ている様子が見えた。イブニング・スタンダード紙によると、それぞれの出演料が日本円だと約400万、100万ほど。驚いた。スタンダード紙の特別号(ブレア特集)を開くと、今はEU委員になっているがもともとはブレア氏のコミュニケーションの参謀役だったピーター・マンデルソン氏の記事があった。改革の火を消すなというようなタイトルだ。次期首相候補のブラウン財務相へのメッセージともとれる。(マンデルソン氏はブレア派。)
夕方から夜のニュースもブレア氏退任のトピックがメインで、それぞれ特集を組んでいる。首相在任10年なのだから、振り返って何が達成されたのか、されなかったのか、人々は知りたいと思うだろうし、当然なのだろうが、それにしても、と思っていると、チャンネル4の7時のニュースで、保守党議員のボリス・ジョンソン氏が出ていた。氏は、「退任会見でお祭りのようになっているけれど、実はクーデターの結果、こうなった」と指摘。「騙されてはいけない」と。
確かに、ブレア首相はあと2,3年は首相の座に当初いるつもりだったので、それが急には早まったのは、直接的なきっかけとしては、昨年秋、労働党の議員の一部が「辞めるなら時期をすぐ発表するべきだ」と一種の反乱を起こした事件があった。これはブラウン財務相が黒幕だったと言われている。
そこでジョンソン議員によると、「ブレア氏は背中を押されて去ってゆく。出されたのだ」と指摘。「しかし、昼の会見はいかにもそれを隠し、自分の選択で去ってゆくかのイメージになっている」。
同じ番組にはブレア氏の片腕で、官邸のメディア戦略を担当していたアリステア・キャンベル氏も登場。いつもの通り、ブレア氏をほめる。
なんだか恐ろしくなってきた。本当にプロパガンダだ。「すばらしい首相」、「愛された首相」・・・そんなイメージを伝えようとブレア・シンパが続々とテレビに登場する。
冷静に考えると、今日は「退任の日を発表した」だけで、別に最後の日でもなんでもない。ここまで大々的にテレビ放映させるような、大仕掛けにする必要があったのか?
もちろんないと言っていいだろう。声明文を出すだけでいいではないか。ドラマチックにする必要はない。つまりは、ミーハーというか、ミー、ミー、ミー(自分、自分、自分)とうこと以外には理由はあるだろうか?
BBCの「ニューズナイト」を見ていたら、ここにもキャンベル氏が出ており、マンデルソン氏はナレーター役。元保守党党首のマイケル・ハワード氏も出ていて、キャンベル氏に向かって、「人々がブレア氏や政治に対する信頼感をなくしたのは、あなた(キャンベル)のメディア戦略のせいだ」と指摘。私は、「よくぞ言ってくれました」という気持ちで一杯になった。
マーサ・カーニーというキャスターのレポートの中でも(ニューズナイト内)、「労働党に3期続けて政権をとらせてくれた首相だったが、本当に何かを達成したのかというと、何もなかったのかもしれない」と終わっていた。
―11日もブレア、ブレア、次第にブラウン
11日の紙面もブレア退任会見一色。「サン」には、「Missing you already 」というタイトルが。まだ去っていないのに、「もうあなたを惜しんでいますよ」とでも訳せるだろうか?この文句は、元々米国(?)のマクドナルドで客に言う言葉と聞いた。
どこもかしこも紙面はブレア、ブレアで、いくらなんでも読者もこれでは疲れるだろう。
しかし、「実は退任予定日を述べただけ」、「まだ一ヶ月以上首相の座にいる」などなどが見事に隠されて、いかにも大きなことが起きた、いかにも英国民全体がブレア氏のことを考えている、慕っている・・というイメージができたように思った。とにかく、ブレア政権のメディア戦略の中心人物だったキャンベル氏とマンデルソン氏が出ずっぱりなのだから、相当の力が入っている。
昼頃、今度はブラウン財務相が正式出馬宣言し、演説。読売の報道(11日付、ヤフーニュスから)を見ると、
ブラウン氏はロンドンで行った演説で、ブレア政権のイラク政策について、「誤りがあった」として、近く中東地域を歴訪する考えを示した。内政の優先課題としては、議会の役割強化などを掲げ、側近政治と指摘されたブレア政権との違いを強調した。
ブラウン氏は演説で、ブレア政権が発足した1997年当時とは、「異なる課題に対応する」と強調。イラク政策では、政治的和解や経済的な発展に貢献する考えを示した。イランの核問題については、「今後30日以内に状況を再検討する」と述べ、米国と連携して対応する考えを明らかにした。内政面では、教育・医療の改革に加え、「より良い憲法が必要で、憲法上の改革について国民的な合意を得たい」と訴えた。
なかなかいい感じでスタートしたようだ。ヘアスタイルもちょっと変えたというか、カットに行った様で、BBCラジオ(昼)では、市民が「なかなかいい」、「新鮮」と好評。それでも、午後遅くになって、野党議員が「全然新鮮味がない」「ヘアスタイルを変えてもダメ」・・・などなどコテンパンにけなしていた。
シンドイことである。野党議員だから、ブラウン財務相をけなすことを期待されているから、こういう論調になるのだろう。24時間ニュースがあると、政治家としてはゆっくり考える暇もなく、どんどん発言していかないといけない。
こうした傾向はここ20年ぐらい、ずっと英国では批判されてきた。政治家やメディア評論家たちによって。政治をダメにする、まともな議論が出来なくなる、というのである。
ところで、今朝、欧州系シンクタンクで政治家でもあった人に話を聞いていたが、サッチャーやブラウン財務大臣と比較して、ブレア氏は「軽い」のではないか?といったところ、ブレア・ブラウンはあくまでも二人三脚であって、考える部分はブラウンでも、党を代表したり、党の考えや政策を表現するのがうまいのがブレア、という見方を指摘された。そういう意味でもブレア氏は「非常に優れた政治家」。「もしブラウンが党や国を代表することになったら、国民はいやというところまではいかないとしても、ブレアが代表してくれたほうが、よりハッピーと感じてきたのではないか。最終的に良い首相だったかと聞かれると、多くの人がイエスと答えている」。
明日の紙面はブラウン氏のスピーチがトップ記事であることは必須だ。