小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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BIG BROTHER オランダの臓器提供番組の余波 


 オランダで「ビッグ・ドナー・ショー」(ドナーは臓器)という番組が金曜日放映され、波紋を呼んでいる。

 前にも書いたが英国や他の欧州の国々など70カ国で、いわゆる「ビッグ・ブラザー」と題された番組が放映されている。男女のグループが、外界から遮断され、一定期間、一定の場所で生活をし、これをカメラが24時間記録する、というパターンのテレビ・ドキュメンタリーだ。
 
 先週の金曜日、オランダ版が放映されたのだが、この中で3人の臓器移植希望者が番組に参加し、脳腫瘍で末期症状の女性から死後臓器を提供してもらおうと競い合う様子を描いた。政治家たちから「倫理に反する」、「悪趣味」として非難が続出。オランダ憲法によると、まだ放映されていない番組を政治の力で禁止することは事前検閲になるからできないそうで、放映中止にしたいがそうはできず、困った状態になっていた。

 このニュースは英国でももちろん大きく報道された。

 ところが、実際に放映されると、これが当初の予想とは全く違うことになっていた。番組の最後で、突如、番組のプリゼンターが介入。「脳腫瘍で末期症状で、死後臓器提供をするはずの女性」は、病気でもなんでもなく、女優だったと宣言した。

 3人の、臓器提供を受けることを希望する患者たちは本物だった。そして、女性が女優であることも事前に知っていた。

 つまりは、最初から、臓器移植に関して国民の意識を高めることが狙いだったのだ。オランダでは、毎年200人が臓器移植ができずに死んでいくと言う。英国では400人ほどのようだ。(日本だと、どれくらいになるのだろう?)

 資料によると、オランダの臓器移植法は非常に厳しく、(にわかには信じられないが)患者の友人か家族でないと臓器を提供できないと言う。すごく厳しい。つまり、番組の最初の設定そのものが、正規のオランダの法律では不可能だったことになる(出演者たちは友人でも家族でもないのだから)。

 オランダは表現の自由の幅が広いと自分は認識しており、この「ビッグブラザー」という番組形態そのものがオランダで1999年に始まったというので、「きっと毒々しい、センセーショナルなことを、『表現の自由』という名の下にやっているのだろう」と想像していたら、これが全く違っていた。やり方は確かにセンセーショナルではあるけれど、「善意」の目的であったことに驚いている。

 この番組を放送したテレビ局がBNNといい(バートのニュース・ネットワークの意味)、放送局の創始者バート・デ・フラーフ氏が身体に合った臓器移植を得られず肝臓病で亡くなったことを追悼する意味もあった、というのがややほろりとさせる。

 番組クリップや様子を知りたい人はBBCウエブでも一部が見れる。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/6714287.stm




by polimediauk | 2007-06-04 03:38 | 放送業界