小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英国の情報公開法


 英国では、2005年から情報公開法(Freedom of Information Act)が導入され、英国民は公的団体が持つ公に関わる情報を無料で入手できることになった。

政府機能の透明化、説明責任の増大、国民の知る権利の拡大に役立つとして、与党・労働党が成立に力を入れてきたもので、年間約12万件の請求がされているという。メディア界も早速法律を盾に情報請求。首相官邸で飼われていた猫「ハンフリー」の行方から、英武器産業界の人権侵害を無視した商取引など、様々な報道が新聞紙面を飾ってきた。

 現在でも国家安全保障に関わる情報などには公開に制限がつくが、最近、公開可能な情報の範囲にさらに制限をつけようとする2つの流れが出てきた。

―「公務員の時間の無駄」

 1つはメディアの情報公開要求に制限をかけることが目的と言われている。ファルコナー大法官が、メディアは瑣末な事柄の情報を得たがり、「公務員の時間の無駄遣いをしている」と発言。あるメディアが官邸で使うトイレットペーパーの量の公開を請求した例を挙げ、「公務員にはこの情報を出すための準備をするよりも、もっと他にやるべきことがある」と述べた。

 現状では情報を探し出すための実経費として中央政府の場合は600ポンド(約14万4000円)以上、地方政府関連の場合は400ポンド以上(約9万6000円)かかると見なされた場合、公開請求を拒否できる。大法官は、公務員が捜査などに費やす時間も計算にいれるように法改正を提唱している。これで請求件数が約10%、費用にして570万ポンド(約13億円)が浮くという。

―議員は特別扱いでいいのか?

 もう一つの焦点が、議員に関わる情報の取り扱いだ。デビッド・マックリン保守党議員が提案した、議会を情報公開法の範囲外とする法案が、5月25日、賛成96票、反対25票で下院を通過。これが法律になれば、国家議員の経費内訳の詳細を情報公開法を使って公開請求することが不可能になる。マックリン保守議員は、法案は「議員と選挙区民との間の手紙の内容や電話での会話を対象外にすることを狙った。議員出費の公開は影響を受けない」と主張する。

 しかし、メディア界を始めとして法案の反対者は多く、元労働党大臣のマーク・フィッシャー議員は「この法案は国会議員が国民よりも上だということを示す。国民はあいた口がふさがらないだろう」と述べた。

 法案は現在上院で審議中。次期首相となるブラウン財務相は「法案には修正が必要」と述べ、議会を情報公開法の対象の例外とする法案の趣旨には賛同しながらも、国会議員の全出費の公開の義務付けを提唱する見込みだ。

 情報公開法を使って年間50のスクープ記事を出したというガーディアン紙は情報公開法に関わる費用約3550万ポンド(約85億円)は政府がマーケティングと宣伝に使う3億ポンド(約720億円)に比べてはるかに安い、と主張。もし費用が問題なのであれば、一定の金額を請求料金として取ることで解決できるとしている。

 様々な項目が請求外とされる情報公開法にさらに制限がつくことになるのかどうか?メディアは一斉に反対しているが・・・。

            ****

 英国で公的機関から情報を得る場合、少なくとも以下の3つの法律の適用範囲になる。

公共機関から情報を得るには・・・

適用法律:情報公開法
対象:中央省庁、地方公共団体、NHS、公立学校、大学、警察など
手順:―名前、住所、欲しい情報を記述した手紙(電子メールも化)を該当する公共機関に郵送、ファックスあるいはメール送信。電話は不可。
   ―最長で20日間、返答を待つ
   ―20日を過ぎても返答がない場合、該当団体か政府とは独立の情報長官に不満を書簡で報告
   ―返答が拒否された場合、2ヶ月以内に情報長官に不満を報告。長官から満足のゆく返答が得られない場合、情報裁判所に訴える
―料金:無料

自分に関わる情報を得るには・・・・

適用法律:データ保護法
対象:中央省庁、地方公共団体、チャリティー団体、民間企業、警察、NHK,学校など公的及び民間団体が持つ、自分に関する情報
手順:-既に公開されている情報かどうかをチェックした上で、該当団体に、欲しい情報を記述した手紙を出す。手紙の書き手が本人であることを示す書類(銀行口座残高、パスポートのコピー、最近の写真など)を同封。
   -2週間以内に返答がない場合、再度手紙を書くか、該当団体に連絡して情報を請求。
   -40日以内に返答がない場合、情報長官に連絡。長官は該当団体に情報の公開を要求する。もしそれでも返答がない場合、裁判に訴える。
―料金:該当団体が手紙の受け取りを確認する手紙を送ってくるので、その中に記載されている金額(およそ10ポンド以下)を小切手などで送る

環境関連の情報請求は・・・・

対象法律:環境上規則令
対象:中央省庁、地方公共団体、NHS、公立学校、大学、警察、民間企業など
手順:―請求したい情報を所轄する団体などに、手紙、電話、電子メール、ファックスなど、各自が選択する方法で情報請求。
―20日以内に返答がない場合は、情報長官に情報公開を訴える。異なる点は情報請求対象に民間団体も入る点。
―情報請求料金:状況により無料あるいは手数料がかかる場合もある
―「環境情報」とは、大気、水、土壌、遺伝子組み換え、エネルギー、騒音、廃棄物、排出、環境に関わる政策及び計画、さらに人間の健康、食の安全など幅広い。
(Source: Guardian)

情報公開法の対象とならない項目

―既に一般公開されている、あるいは近く公開予定の情報
―紙状のファイルそのもの、ビデオやテープなどに保存された情報、
―公開が「公的利益」にならないもの、例えば公開されれば政府の政策生成に悪影響を及ぼす情報、国家の安全保障や外交関係に影響を及ぼす情報、情報機関が保存する情報、法廷記録の一部など
-エリザベス女王と王室のメンバーとの会話、手紙他
―特定の人々の身体上のあるいは精神の健康を犯す可能性のある情報
―商取引の機密に関わる情報等
―また、情報捜査費用が中央政府の場合は600ポンド(約14万4000円)以上、地方政府関連の場合は400ポンド(約9万6000円)以上と見なされた場合、情報公開を請求された側は、これを拒否できる

法律施行後、明らかになった情報の一部
―サッチャー元首相がいるかを使ってネス湖の恐竜を捕獲しようと計画
―ブレア首相の過去6年の化粧品代は2000ポンドに
―ブレア首相は税金を使って、エルトン・ジョンなどを始めとする有名人を週末を過ごすもう1つの公邸で行なわれたパーティーに招いていた
―英政府はドイツに拷問用刑務所を設けることを画策した
―イスラエルが核兵器を持つように支援したのは英国だった
―警視庁の現役警察官74人が刑法違反者
―NHSは若年女性の妊娠率を下げるため、10代の女性たちに避妊を止める薬品を注射していた
―DNA調査が進み、1998年以降、3034人の男性が誤って子供の父親だと認定されていたことが分かった
―人権無視の評判が高く、「テロの戦争」で米英側に賛同した国は、英国の巨額武器輸出の対象となっている
―クロイツフェルト・ヤコブで亡くなった3人のウエールズ人の発病の原因は1980年代の学校給食だった
(Source: Times)

情報公開法(FREEDOM OF INFORMATION ACT 2000):個人が公的機関から公に関わる情報を得る権利を定めたもので2005年発行。イングランド、ウエールズ、北アイルランドの中央政府省庁、地域共同体、NHS、警察、公立学校、大学など10万を越える団体などが対象。政府機関などの活動がよりオープンで透明性が高いものになることが主目的だが、同時に公的機関がいかに運営されているか、公費がどのように使われているかを国民が知る権利を拡大する。スコットランド地方にも同様の法律がある。国益に反する情報などを除き、年齢や国籍、居住地に関わらず、誰でもが情報の公開を請求できる。同様の法律はスエーデン、米国、オーストラリア、アイルランド、日本など多くの国が既に導入している。(「英国ニュースダイジェスト」最新号筆者記事に加筆。)
by polimediauk | 2007-06-09 00:55 | 英国事情