小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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ブレア特集 元経済顧問の見たブレア政権


 ブレア政権を経済面から見れば、好景気の維持という面で大成功と一先ずは言えるのだろう。最新の失業率は何と2・8%である。日本のかつてのバブル経済時の数字ではないか?

 ロンドンの外国プレス協会に5月やってきたのはブレア氏の元経済顧問だったデレク・スコット氏。彼の評価は経済面のみに限らず、政治のスタイルや欧州政策にも及んだ。

 私がびっくりしたことなどをあとがきで書いた。

政治的業績に影を落とすイラク戦争 ブレア首相退陣表明で元顧問に聞く
(ベリタ2007年05月11日掲載)
  
 ブレア英首相が5月10日、英中部セッジフィールドにある自分の選挙区で会見し、6月27日に辞任すると語った。10年続いた与党・労働党党首でもあるブレア政権がいよいよ幕を閉じることになった。ブッシュ米大統領のイラク戦争への全面支持で、結果的に政権の寿命を縮める形になったブレア氏だが、1997年の政権発足時から2003年までブレア首相の経済問題アドバイザーだったデレク・スコット氏に、ブレア政治の評価と後継首相と目されるブラウン財務相の政治手腕を聞いた。スコット氏は、ブレア氏とブラウン氏の長年の確執を詳細に記した「オフ・ホワイトホール」の著者としても知られる。 
 
――ブレア政権の評価を聞きたい。 
 
 「10年経つと、どの政府でも悪い点と良い点が混じるようになる。しかし、いったん首相が退任してからは、また違うように人々は見るようになる。ブレア氏は優秀な首相だっと思う。サッチャー元首相に次ぐ大物政治家と言えるだろう」 
 
 「政治的に大きな業績の1つは北アイルランドの和平達成だが、個人的な意見だろうけれども、かつての「テロリスト」が政権の一端を担う状況に違和感も感じている」 
 
 「短期的にブレア氏の業績にマイナスとなるのはイラク戦争。しかし、長期的には別の評価が出てくるのではないか。犠牲者はたくさん出たが、フセイン元大統領の独裁を崩壊させたという意味では良かった、と」 
 
―しかし、イラクには大量破壊兵器がなかったのに、ブレア氏は「ある」と主張し、国民の不信感はこれで一挙に高まったが。 
 
 「ブレア氏は国民を騙そうとしていたわけではないと思う。ブレア氏だけでなく多くの国の首相がフセイン大統領が大量破壊兵器を持っていたと理解していた」 
 
――国内政策での評価は。 
 
 「業績としてはまず経済の好調が挙げられる。公共部門の改革は思ったほどには進まなかったが、それでも保健医療面で特に改善が見られたと思う」 
 
 「経済好調の原因は、サッチャー時代の1980年代の国営企業の民営化、欧州為替相場メカニズムの脱退、英中央銀行を政府とは独立させたこと、国際的投資状況などのおかげだ。中央銀行の独立を除き、ブレア政権が特に何かをしたからではない」 
 
 「元々、好景気はブレア政権が土台を作ったものではないことを思い出してほしい。1992年ごろから景気は非常に良くなっていた。労働党が政権を取る5年前だ。10年経って、裕福な人はもっと裕福になった。貧困層が以前よりも貧困になったとは思わないが、最も打撃を受けたのは、貧困とまではいかないが、収入の低い家庭だ」 
 
 「公共政策が拡大したり、税金が上がったことで、より厳しい状況に置かれるようになった。英国だけではなく、どこの国でもいったん公共予算を拡大させたら、縮小したり、いったん止めるのは非常に難しくなる。新政権の大きな課題になるのが、この問題だ」 
 
―現在の労働党と保守党の経済政策は大きく違うと思うか。 
 
 「違わない。大きな変化は1970年-1980年のサッチャー時代に起きた。労働党・ブレア政権は最低賃金制度の導入など若干変えたが、基本的には変わっていない」 
 
―英国は、ユーロに将来的に参加するだろうか。 
 
 「参加するとは思わない。財務省がユーロ導入の影響に関して、『経済テスト』を課し、まだこのテストに合格しないから英国はユーロには参加しない、という結論を出している。現在ユーロ圏に入っている国の中でも、ユーロを使わない決定をする国が出てくる可能性もある」 
 
―ブレア氏が当初主張していたのが、市場を重視しつつも国家の補完による公正の確保という「第3の道」だった。従来の保守党対労働党の二元論とは異なるもう一つの新しい路線を目指そうとしていた。これを現在どう評価するか。 
 
 「フランスの政治家と話していると、よく、米国、英国は『アングロサクソン式資本主義』だという言い方が出てくる。市場経済至上主義という意味で使われている。しかし、真の意味の市場経済至上主義というのはどの国でもないと思う。英国にもない。ブレア政権下では最低賃金制度も導入したし、富の再配分政策も実行してきた。市場だけに任せるのではなく、何らかの救済制度を加えているのが現状だ」 
 
 「『第3の道』は政治戦略として、あるいは知的な議論の土台として使うのはかまわないと思うが、経済哲学あるいは政治哲学としては実際には存在しないと思う。労働党がこの概念を使ったのは、自分たちの場所を示すためだけだ。自分たちが極右でも極左でもない、中道だと言いたかったからだ。 
 
 「ブレア氏がこう言ったことがある。『労働党がこれまでやってきたことで、第3の道という概念で説明できないことはない』と。すべてが説明できる、と。今、労働党では(「第3の道」を提唱した)英社会学者アンソニー・ギデンズ教授の書いたものを使わないようになっている」 
 
―労働党は特にメディア戦略を重視したと言われているが。 
 
 「労働党は18年間の野党時代にメディア戦略がうまくいかなかった。野党時代には政策を発表をしても誰も取り上げてくれず、これが弱みだった。メディアの注意をいかに引くか、いかに取り上げてもらえるかが、いかに支配するかが重要だった」 
 
 「その中心になったのが、官邸のメディア戦略を一手に引き受けていた(官邸メディア戦略局長)アリステア・キャンベル氏だった。24時間、メディアを支配しなければならない、とよく言っていた。しかし、そんなことは非現実的だ。時間の無駄だと私は思っていた」 
 
 「英政界の中では、メディアの支配が重要というパターンがもうできあがってしまった。現在野党の保守党党首キャメロン氏も、かつてのブレア、ブラウンのメディア戦略を表面的に真似している」 
 
 「次の政権では、最終的に評価されるのはメディアがどう報道するかではなく政策であることを忘れないようにしてほしい。ブラウン氏には自分らしさを維持して欲しい。メディアとは一定の距離を置いてほしい」 
 
 「この10年でメディア環境も大きく変わった。メディアの数が非常に増え、24時間報道体制になった。政治家が自由に発言することが難しくなった。何か問題とされる発言をすれば、何度も繰り返して報道される。ブレア政権のメディア戦略はある意味ではすばらしい成功だった。しかし、今人々がブレアに対して信頼感が失われたなどと言っていることを考えると、失敗したのだと思う」 
 
―失敗とはどういう意味か。 
 
 「労働党のメディア戦略はこれまでにないほど長けていたという評価がある一方で、10年経って、労働党に対する幻滅感、失望感があるようなら、メディアをうまく処理できていなかったことになる」 
 
 「新政権になってもメディアをコントロールしようという戦略はあまり変わらないだろう」 
 
―仕事仲間としてのブレア氏は、どんな感じだったか? 
 
 「ブレア氏は非常に気さくな、リラックスした人物なので、仕事はやりやすかった。野党時代から一緒に働いてたせいもあり、特に肩のこらない風に仕事ができた。問題は、あまりにも形式ばらないので、どうかという面もあった。例えば、政府の会合であれば、机に向かって、用意された書面を基にして議論をする、という形のほうが良かったと思う。何も書類がなく、集まってソファーに座りながら物事を決める、ということがちょくちょくあった。会議の後で一体何が決まったのか分からない、ということもあった。ブレア氏は直感を大事にし、形式ばらないやり方を好むタイプだったので仕方ないのだろう」 
 
―ブラウン氏はどのような人物か。 
 
 「自分が信頼する小さなグループの中では、リラックスしていて、あたたかく、冗談をよく言うそうだ。何でも言える雰囲気があるという。しかし、このグループの外になると、状況は違う。自分とは異なる意見を言う人がいれば、ブラウン氏はこれをあまり気持ちよく受け止めない。どの政治家にも、縄張り意識があると思う。自分の仲間内、派閥内で固まる。ブラウン氏はこれが特に強い。自分のグループ以外の人は敵とみなす」 
 
 「政治家としては非常に能力がありすばらしい人物。組織力もあり、自分への忠誠心を大事にする」 
 
―ブラウン首相では経済政策が変わるだろうか。 
 
 「直ぐには変わらないと思う。元々ブレア政権はブレア氏とブラウン氏との二人三脚だったので、そういう意味からはあまり変わらないと思う」 
 
―ブレア氏は官邸を中心に物事を進め、内閣での議論を軽視したといわれる。いわゆる大統領的な政権運営だったと言われるが、ブラウン政権はどうなるか。 
 
 「大統領的、中央集権的傾向は続くのではないだろうか。ただ、ブラウン氏は1つか2つの問題に集中し、片付けていくタイプ。首相となったら、いっぺんにたくさんのことをやらなければならないので、仕事のやり方を変える必要があるだろう」 
 
―労働党内のブレア派陣営が、ブラウン財務相が首相になるのを妨害するために、対立候補にしようとしたのが、デビッド・ミリバンド環境相(41歳)だった。本人は辞退したけれども、ミリバンド氏の将来をどう見るか。 
 
 「まだすごく若い。将来の首相候補になるかどうか。既に他にも何人か若い候補者がいるが。過去に候補者と言われたがそうはならなかった人も多い。ミリバンド氏は聡明だがまだ若い」 
 
―2010年には総選挙が予定されており、ブラウン氏が総選挙に勝てないという世論調査が多い。後2、3年でブラウン氏の後継者を探すことになるのではないか。 
 
 「それはまだ分からない。まずブラウン首相、そしてとにかく次の選挙に勝とう、というのが労働党内の現在の状況だと思う」 


(あとがき:私が一番驚いたのは、スコット氏の第3の道に関する発言だった。政治に詳しい人は既に気づいていたこととは思うのだが、「第3の道は経済哲学、政治哲学としては存在しない」という発言や、ニューレイバー=ブレア氏が、「中道」と言いたくて使っただけで、有名なギデンス教授の著作を今は使わないようにしている・・・という部分だった。後で紹介するシンクタンクの代表も、「これは共有された考え」で、「元ブレア氏の経済担当者が言った点が新しい」と言っていた。労働党のメディア戦略を「失敗」と見なしている点や、ブレア氏の「ソファー政府」にひどく居心地の悪い思いを抱いている点もおもしろいと思った。ユーロに関しては、スコット氏自身が英国のユーロ参加反対者なので、否定的な見解を抱いているようだ。もちろん現状では英国民の中でユーロ参加に反対する声が圧倒的な点もあるけれども。)
by polimediauk | 2007-06-19 17:14 | 政治とメディア