小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

ブレア特集 「次世代の競争は既に始まっている」(下)


ブラウン現財務相が、とうとう24日、労働党党首に選出された。27日には首相就任予定だ。以下のアドレスからスピーチも聞ける。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/6234048.stm

労働党系シンクタンク、フェビアン協会のスンダー・カトワラ事務局長のインタビューの続きだが、カトワラ氏自身が新世代(30-40歳代)のせいもあって、「次の動き」をじっくりと聞いた。

―ブレア政権の対欧州政策をどう評価するか。英国民の反欧州感情は10年前と比べて悪化しているが。 
 
カトワラ事務局長:確かに、ブレア首相の欧州戦略は失敗だった。これがブレア氏の最大の悔いの1つだ。就任初日、もし今後10年で何を成し遂げたいかを聞かれたら、欧州の関係を改善したいと言っていたのではないか。英国民の欧州に対する感情は常に不確かなものであると分析していた。英国が決して欧州の物事を決定しない現状のままではいけない、と思っていたのだ。 
 
 もし英国が1950年代にEUに入っていれば、現在までに欧州連合(EU)の立役者になっていただろう。しかし、参加したのは設立からずい分後だった。ブレア首相はこうした状況が間違いだと常に思ってきた。 
 
 しかし、今や欧州の将来が不確実なものになった。英国がEU憲法に関しての決定を先延ばしにしている間に、フランスとオランダが国民投票で憲法案を否決してしまった。また、欧州の中核部でも欧州の定義や将来に関する疑問が出てきた。 
 
 スカンジナビア諸国は、EUが十分にオープンで民主的だろうかと疑問を呈する。旧東欧諸国にも疑問が呈されている。EUの加盟国として、十分に民主的な改革がなされたのかどうか。どっちつかずの英国に対する疑惑の目もある。フランスとドイツが合意すれば、物事が決まる、という時代ではなくなった。 
 
 EUにも新世代のための新しい物語が必要だ。第2次世界大戦後、ドイツとフランスが2度と戦争をしないようにというのが成立の理由だということは何度も聞いた。しかし、英国がドイツと戦争をするなんて、今誰も思っていない。もっと別の存在意義が必要だ。例えば気候変動で協力できるのではないか。外交政策でも、例えば中東問題解決のための欧州の役割があるのではないか。 新しい欧州像が必要だ。 
 
―新政権は親欧州になるだろうか? 
 
事務局長:難しい問題だ。ブラウン氏は欧州に対して冷淡で、米国とも親しくなりすぎないようにという圧力がかかっている。おそらく、英国の国家の利益と英国の価値観を信じていると述べて、それから、治安の問題を説明し、安全保障の点から米国や他の国と協力しなければならない、と言うだろう。 
 
―ブラウン政権の顔ぶれはどうなるか? 
 
事務局長:新しい政権の誕生というイメージを出すため、新たな人材を使おうとするだろう。現在環境相のデビッド・ミリバンド氏を始めとして、30代後半から40代前半の人材を入れるだろう。才能ある、視点がユニークな人材が多い。例えばデビッド・ミリバンド氏の弟で、現政務次官のエド・ミリバンド氏、ジェームズ・パーネル議員、財務省のNo.2エド・ボールズ氏、ルース・ケリー地域・コミュニティー大臣など。 
 
―今年年頭、ブレア氏が次の党首候補として推していたのがデビッド・ミリバンド環境相だった。ところが、環境相はこれを断った。何故か? 
 
事務局長:世代間の違いがカギを握った。例えば50歳代のブレア派だったら党首戦に立候補して当選しなくても、失うものはない。しかし40歳代には将来がある。もし立候補したら、自分の世代がまたブラウン派、ブレア派に分かれる。 
 
 ブレア政権の発足前、ブレア氏とブラウン氏は2人の間で密約があったと言われている。最初はブレア氏が首相になり、次はブラウン氏にしよう、と。しかし、この密約は誰がトップになるかを巡って、長年続いたブレアーブラウンの対立となった。これを今後20年間続けたいと思うだろうか?若い世代は続けたがらない。将来は自分たちの手の中にあるし、ミリバンド氏は縄張り争いの伝統を継承したくないのだ。 
 
 ブレア、ブラウン世代とその次の世代には大きな違いがある。2人は、18年間、労働党が野党だった時代をフラストレーションを抱えて過ごした。1983年に議会に入り、14年間、頭を壁に打ちつけていた。労働党を変えたくてたまらなかった。こうした経験が政治家としての2人を作った。 
 
 また、絶対勝てると全力を費やした1992年、労働党が負けたときのトラウマがある。当時、労働党は13年間野党だった。英国にはひどく人気のない政府がある、それでも野党が選挙に負けたのだ。この敗退のトラウマをブレア世代の労働党議員は抱えている。  

 ところが、次の世代は権力の内側にいて育った。何故ニューレーバーができたのか、何故必要なのかを知っているが、個人的に、あるいは心情的にブレアやブラウンと同じではない。労働党が10年間与党としてやってきて、その業績を見て、もっと社会政策を進めた方策は実行できないのかどうかを考え続けてきた世代だ。いよいよ、前に出る機会となった。20年前、環境は政治トピックになっていなかった。誰がこれを理解し、政策を実行するのか?この世代に違いない。 
 
 これがキャメロン氏に対する挑戦だ。国際舞台を通じて経験を積んだ、ブラウン氏のチームほどの力と深さを備えているのかどうか。世代を超えて、「これが政策だ」と新しいアイデアを出すことができるのか。国民は決して過去の業績では投票をしないものだ。 
 
―総選挙の行方はどうなるか? 
 
事務局長:予想はできない。しかし接戦だろう。本当の選択を国民がする。キャメロン保守党党首は本当にうまく党を組織化している。メディア戦略が良いし、国民と接する戦略も良い。しかし弱みもある。それは、後で拘束されたくないので政策を明らかにしていない点だ。 
 
 もしブラウン氏が民主主義、外交、環境で正しい動きをし、経済や公共サービスなど政府の業績を強調できれば、選挙に勝てる。キャメロン氏はできるだけのことをするだろうが、勝つには、ブラウン氏がどこかで失敗する必要があると思う。これまでの保守党党首を見ていると、穏健な戦略で始まって、難しくなると、右に行く。 
 
 キャメロン氏もこのまちがいをおかすかどうか。右に行くのは間違いだと党員を納得させられるかどうか。キャメロン氏も自分と同世代(40代前半)の若手をどう使うかで将来が決まる。既に水面下でポスト・ブラウンに向けての真の競争が始まっている。 

【フェビアン協会と労働党】 
 
 協会メンバーの多くが1900年の労働党の結党に参加。党の綱領はその大部分を協会の創立綱領から取ったもの。会員数は約7,000で、ブレア英首相を含め歴代首相もメンバーだった。1992年、当時フィナンシャル・タイムズ紙の記者(現在は労働党議員)エド・ボールズ氏が、協会の出版物に英中央銀行の独立を提唱する記事を書いた。1997年、ブレア政権が発足すると、ブラウン財務相が真っ先に手がけたのが中央銀行の独立。金利決定権を政府から切り離したことはブレア政権の業績の1つで、好景気の維持に大きな役割を果たしたと言われている。 
(6月6日、ベリタ掲載分に加筆。www.nikkanberita.com)
by polimediauk | 2007-06-25 04:31 | 政治とメディア