小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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デンマーク風刺画 揺れるデンマーク-2


  ロンドン、グラスゴーテロ未遂事件があってから、英政府の言葉の使い方・レトリックが変わっているなと思っていたら、6日午後1時のニュースでも、「変わっている。今のところは、良いと思う」と話すムスリムの団体の人がインタビューに出ていた。

 何が変わったかというと、テロ事件(未遂)があったからといって、緊急に新しい法律を作るとか、パニック的な動きをしていないこと、「パニック的な動きはしない」と宣言していること。また、今回のテロ未遂を「犯罪行為」と呼び、「すべての人がこれをなくするよう協力しよう」というような表現を使っている。

 ブレア政権のときは、特に2005年の7・7ロンドンテロ以降、「イスラム教過激主義」が「敵」で、「テロの戦争」という言葉が良く使われていた。ムスリムたち全員が悪者扱いされた雰囲気があった。もはや、ブラウン首相になってからというもの、誰も政府関係者は「テロの戦争」ウオー・オン・テラーという言葉を使っていない。避けているのだろう。あまりにも「敵と味方」と単純に二分する言い方だし、一定の政治的意味合いが出てしまう。

 今回は移民融合コンサルタントのアルマジド氏のインタビューだが、2006年2月に初めて会った。風刺画を掲載したユランズ・ポステン紙に長年コラムを書いている人だった。2月の時点では、最後は明るく話してくれたが、それから半年後、暗い話になっていく。

「新たな対話の機会が開けた」
ベリタ2006年02月27日掲載
デンマーク風刺画 揺れるデンマーク-2_c0016826_0435752.jpg

  540万人のデンマーク国民のうち、イスラム教徒は20万人といわれる。 シリア出身のファーミー・アルマジド氏(59歳)は、移民のホスト社会への融合問題のコンサルタントで、イスラムの預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載したユランズ・ポステン紙のコラムニストの一人でもある。同氏は漫画の掲載を、「挑発だけを目的とした馬鹿げた行動」で、デンマークの対外イメージに大きな打撃を与えたと批判する一方、「最終的には、この騒ぎがムスリムと非ムスリムの国民の間の新たな対話のきっかけになる」と楽観視もしているという。
 
 デンマーク在住35年のアルマジド氏は、自分を「元ムスリム」、「イスラム教のバックグラウンドを持つ人物」と呼んでいる。テレビやラジオのコメンテーターとしても著名で、デンマークの融合問題担当大臣のアドバイザーの一人でもある。『イスラム教徒がやってきた』を初めとして多数の著作を持つ。コペンヘーゲン市内にある氏のオフィスで話を聞いた。 
 
▽ムスリム認識に変化の兆しも 
 
──事態をどう評価するか? 
 
 アルマジド氏:2つの側面がある。国際的な面と国内の話だ。まず国際的な観点から見ると、いかにもまずい状況だ。デンマーク製品のボイコットが続いているため、中東諸国でデンマークの食品会社がマーケットシェアを失いつつある。40年かけて築き上げてきたシェアが崩れるのはあっという間だ。オランダやフランスなどの競争相手を前に、元のシェアを取り戻すのは非常に難しいだろうし、時間もかかる。例えば、サウジアラビアではボイコットのおかげで約3000人が職を失う。 
 
 ひとつ注意すべきなのは、不買運動が最近起きたのではない点だ。昨年秋の掲載直後からアラビア語の新聞報道やネットでの情報を注意してみてきたが、中東諸国の人々が情報を交換し合ってデンマーク製品の不買運動が広がってきたことが分かる。政府が命じたのではなく、その前に国民レベルで不買運動が起きていた。 
 
──きっかけは?9月末の掲載直後からか? 
 
 アルマジド氏:(10月に)ラムスセン首相が、イスラム諸国からの大使との会見を断ったのがきっかけだ。外国の大使に「会いたくない」と言うのはまずいと思う。 
 
 また、1~2年ほど前から、デンマークは米国と一体化していると見られるようにもなっていた。イラクに派兵している点からも、米国側についている国、反アラブ、反ムスリムというイメージができていた。こうした中、風刺画事件が起きた。 
 
 国内の背景要因としては、この5年間で、反外国人、反ムスリムを表に出すデンマーク国民党が支持を増やしてきた。他の団体が国民党の党員の発言に対して抗議をすると、政府は、「表現の自由」だという。国民党をかばうのは、政権党だけでは国会の過半数を占めることができないからだ。 
 
 しかし、変化の兆しは現れている。 
 
 先日も、イスラム教の25の墓が襲撃を受けた。首相がテレビに出て、こうした行為を非難し、犯人を見つける、と宣言した。しかし、昨年、コペンハーゲンでは100のイスラム教徒の墓が攻撃を受けていたが、当時は誰も何も言わなかった。現在では、イスラム教徒たちをもっとまともに扱われなければならない、と政治家がいうようになっている。風刺画掲載の良い結果のひとつだと思う。 
 
 また、図書館でコーランを借りる人が増えて、在庫がなくなった、とラジオで聞いた。イスラム教について知りたがっている人が増えている証拠だ。 
 
──風刺画事件以前に、ムスリムに対する他の国民の視線はどうだったのか? 
 
 アルマジド氏:デンマークの20万人のムスリムのうちで、2000~5000人ぐらいがかなりの保守派だ。原理主義者といってもいいだろう。しかし、80~90%はそうでない。働いているし、デンマークに貢献している。この点が、前は分かってもらいにくかった。 
 
 ある日、テレビに出演した後で、ある女性が電話をかけてきて、「今すぐ国に帰れ。デンマークの福祉制度の恩恵を受けるな」と言った。私は、住所を教えてくれたら私の税金の支払い証明書を送る、といった。多くの人は、「外国人だったら、何かごまかしをしているだろう、税金を払っていないのでは」と、自動的に考える傾向があった。 
 
 スエーデンの学会に出席したとき、デンマークでは外国人は「問題」として受け止められるが、スエーデンでは人材と見られると言われたが、風刺画のおかげで、デンマークでも外国人は人材でもある、という議論が出てきたと思う。一方で、極右国民党は、もし今選挙があれば、国会で8議席増やすことができるだろうと予測されている。左と右の陣営がどちらも強くなったと言える。 
 
▽言論の自由は何かを傷つけるためではない 
 
──ユランズ・ポステンのコラムニストとして、掲載前後の話を聞かせて欲しい。 
 
 アルマジド氏:掲載された日に電話をもらい、どう思うかを聞かれたので、非常に馬鹿げて見える、といった。私は、宗教も含めていかなるトピックに関しての議論にも参加するし、挑発することもある。しかし、挑発のための挑発はしない。ユランズ・ポステンは、ムハンマドがテロリストであるかのような風刺画を掲載した。それで、一体何をしようというのだろうか?見えてこない。 
 
──なぜ掲載したと思うか? 
 
 アルマジド氏:みんなに聞かれる。新聞自身もなぜ掲載したかを自分たち自身に聞いているところだろう。なぜこんな馬鹿なことをしたのか、と。 
 
 ジャーナリズムでは言論の自由がなければ生きていけない。最優先事項だ。そう思わないなら、ジャーナリズムを辞めるべきだ。しかし、この風刺画自体はこれと一体どんな関係があるのか? 言論の自由があるからといって、「デンマーク人は全員馬鹿だ」と私は言ったりはしない。きっと、「それで?」と問い返されるだけだ。 
 
 言論の自由、表現の自由は、何かを傷つけるためでなく、何かを築き上げるために存在していると思う。 
 
 社会の中には宗教が人生の中心とする人もいる。イスラム教に限らず、信仰が生活の大部分を占める人たちを、ユランズ・ポステンが笑いの対象にするのは馬鹿げていると思った。笑うことで、相手との対話を止めてしまう。 
 
 少し前に、キリストが描かれているビーチサンダルが販売されたことがあった。歩くたびにキリストの肖像を踏むことになった。抗議が起きて、製造していた会社はサンダルを引き上げた。 
 
 こうしたことを考えあわせると、ユランズ・ポステンが、宗教がらみの動きをすればどうなるかは承知していたはずだ。挑発のための挑発で、馬鹿げた行為だった。 
 
 ユランズ・ポステンには多くの優れた記者がいる。イスラム教に関する専門の記者もいる。しかし、彼は今回はまったく蚊帳の外に置かれ、掲載日に見て、驚き、私のところに電話をしてきた。ごく小さいグループだけで掲載を決めたのだろう。 
 
──「挑発のための挑発」だったというが、フランスやドイツの新聞はユランズ・ポステンの支持に回った。これをどう見るか? 
 
 アルマジド氏:テーマが変わったのだと思う。表現の自由に限度があるべきか? この質問にほとんどの人はノーというしかない。限度を設定するのは独裁者だけだ。 
 
 しかし今回の12枚の風刺画に限って言うと、表現の自由とは別の問題だと思っている。挑発目的の、相手との対話を望んでいない、馬鹿げた行為だった。 
 
──世界のほかの国では、抗議をしたイスラム教徒たちが、デンマーク大使館を襲撃したりなど、暴力行為に出た。死者もでたが。 
 
 アルマジド氏:いかなる形の暴力の行使にも反対する。テレビで大使館が襲撃されている様子を見て、泣きたくなった。BBCやアラビア語のテレビ局のインタビューで、暴力をやめるように、と何度も呼びかけた。 
 
▽移民融合策は失敗したが… 
 
──デンマークの移民融合策をどう評価するか? 
 
 アルマジド氏:失敗したと思う。1980~90年代、イラクやソマリアから政治的亡命者が来た。高等教育を受けた人たちで、まさにデンマークが必要していた人材だった。しかし、見下ろす態度で扱われたので、他の国に行ってしまった。 
 
 米国のシリコンバレーに行けば、スカーフをかぶった人やシーク教徒の人が働いている。デンマークでは、まずスカーフを脱がないと雇わない、という考え方をする。 
 
 デンマーク人は考えを変えないといけない。デンマークの外に世界があることを知るべきだ。デンマークで起きたことが世界中に影響を及ぼすこともあることを知るべきだ。現状は、デンマークが世界と考える人が多い。 
 
──将来は? 
 
 アルマジド氏:楽観している。楽観的過ぎるかもしれないが、物事の良い面を見たい。過去の誤りを変えることはできない。過去から何かを学ぶべきだ。ユランズ・ポステンが馬鹿げた風刺画を掲載した。しかし、いつまでも繰り返して言う必要はないだろう。1回でいい。これから、何ができるかを考えよう。
by polimediauk | 2007-07-07 00:48 | 欧州表現の自由