小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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会場から締め出されたムスリムたち

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 「自分たちの声が代弁されていない」

土曜日(7日)、MCB・英国ムスリム・カウンシル(数百のモスクが参加、「英ムスリム評議会」)の会議がロンドン市内で開催された。テロと闘うにはどうするか?を話し合うための会議だ。

 普通、「会議・コンファレンス」というと、一般に公開されていると思うだろう。私もそう思って出かけたが、MCB以外の人は途中から締め出された。出席者は大きく分けてMCB関係者+メディアだったので、「メディアの方は途中から出てもらいます。終わりになったらまた呼びますから」と、会議のしょっぱな、言われてしまった。

 かなりテレビ・ラジオの記者が来ていたが、これにはがっかりだった。何となく、内向きである。内部向け会議だったら、メディアを呼ばなければいいのに、と思った。マイナスイメージになるのではないか、と危惧した。

 会場にはロンドン警視庁の高官も来ていた。後で帰るときに入り口(場所はイスラム文化センターだが、実際はモスクに付帯施設がついている感じだった)に、たくさん警察官がいた。警視庁の高官はそのまま会議に居残った。

 数人のイスラム学者やMCBの代表が、まず短いスピーチをした。ブレア政権と比べて、新政権が落ち着いた態度でテロ未遂事件を処理している、とMCBの事務局長は言い、政権側に感謝の意を表した。「アラーは人を殺してはいけないと言っている」、「テロ行為を非難する」、「英国全体でテロ問題の解決にあたらなければならない」、「MCBとしてどうするか、はっきりした対策を考えなければならない」などと、事務局長や彼に続いた学者らしき人々が述べた。「今回の事件だけでなく、テロの根元にある原因を何とかしなければならない」、「恐れをなくしたい」、「英国は私たちにとって母国だ。平和の国にしたい」、「過激主義をなくそう」。

 いつ「出て行け」といわれるのかと思いながら、スピーチを聞いていたら、外で何か起きているようで、叫び声や人を押し返すような音が響いてきた。ずっとおさまらなかった。

 スピーチが一段落して、「メディアは退出」と言われ、外に出ると、会場前の広場では、既に数人のイスラム教の長衣を着た人々がいて、先に出たメディアに取り巻かれ、大声で何かを訴えていた。

 早速近づいてみると、数人は、一人を除きほとんどが20歳代の男性たち。一番大きな声で話している人は、かなり高齢に見えた。中に入ろうとしたら、「名前が登録されていない」として、会議への出席を断られ、頭にきているのだった。他の男性たちも、入ろうとしたら、断られ、力ずくで入り口から押し出されたのだという。

 確かに会議には事前登録をするようになっており、私も受付で名前を確認された。しかし、その場での登録は不可とされる理由はないはずだった。

 中に入れなかったことに加え、MCBに対する怒りで一杯の男性たちだった。何故なのか?と聞くと、「MCBは政府と一体化している。警察が会議に出ている」、「テロ行為を非難というのも2重基準だ。前の事務局長は、英作家サルマン・ラシュディの『悪魔の詩』が出版されたとき、イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したということで、ラシュディの首を切るべきだ、とデモ行為をした人物だ。テロや過激主義をうんぬんする資格がない」、「MCBは英国のイスラム教徒を代表していない」。

 黒いイスラム教の編み帽子をかぶった男性、アブ・ズバル氏は、「今、英国で、イスラム教徒には言論の自由がない。イスラムフォビアがあるし、何でも否定的に見られる」。

 6月末のロンドンとグラスゴーでのテロ未遂事件はどう思うのかと聞かれ、「あれがイスラム教徒がやったものだとどうしてわかるのか?政府の宣伝だ。政府とメディアがイスラム教徒に対する悪いイメージを作り出しているだけだ」、「国民はブレイン・ウオッシュされているだけだ」。

 「テロ行為に関するテープを持っているだけで、逮捕される。言論の自由はない」。

 グレーの長衣を着たアブドラ氏(25歳)は、「最近イスラム教徒になったばかり」。「自分はテロよりも強盗にあうほうが怖い。こっちのほうがテロだと思う」。

 戦闘服のような柄のTシャツを着たアブファル氏(22歳)は、「そんな格好をして歩くと、人は怖がるのではないか?何故戦闘服を着ているの?」と聞くと、「イスラム教徒に対して、世界が戦争をしている。イスラム教徒は抑圧されている。だからこれを着ている。人が怖がるのは戦闘服を着ているからでなく、私がこんな長いあごひげを生やしているからだろう?」

 データアナリストという職業を持つアブファル氏に目指すものを聞くと、「シャリア法をベースにした、イスラム国家の設立だ」。英国をイスラム国家にしたいのかと重ねて聞くと、「そうだ」。どうやってそれを実現させようとするのか?と聞くと、「説得する」。

 白い長衣を着て、茶色のサンダルを履いたアブ・ムアズ氏が、インド人の学者らしい人物と討論をしていた。「あなたに質問状を送ったのに、まともに答えなかった」と学者に対して言っていた。「イスラム教徒を政府は抑圧している」というので、「どうすればいいのか?」と聞くと、「解決策は簡単だ。ロンドンにあるベルマーシュ刑務所に長期拘束しているイスラム教徒を解決することだ。イスラム教徒から奪った土地を返すことだ」。

 数冊の本を片手に静かに議論の成り行きを追っている男性がいた。アブドラさんと言い、「以前からイスラム教徒だったが、今は本当に実践しているイスラム教徒」。宗教熱心になってからは、タバコもやめたし、いいことばかりだという。「イスラム教はすばらしい宗教だから、すべての人に広めたい」、「イスラム国家になれば、レイプとか社会悪はなくなる」。

 イスラム教研究のための「ラマダン財団」の広報官が、会議を抜け出して外に出てきた。「会議の中で、何故公開にしなかったのか、公開にするべきだ、ここにいる若い男性たちを中に入れるべきだ、という意見が出ていた」という。「会場の中は、年寄りばかり。会場の外の男性たちは若い。年齢のギャップがある。私はこの男性たちの意見にはまったく同意しないが、それでも、会場に入れて、意見を言わせるべきだと思っている」。

  今日(8日)、政府のテロ問題高官が、イスラム過激主義をなくするには、「15年かかる」と述べていた。

 ・・・結局、今回、結論がない話になったが、今は「何故この人たちはこんなにも怒りを感じているのか」、「何故こんなにもイスラム教に惹かれるのだろう?」という疑問がうずまいている。

 
by polimediauk | 2007-07-09 06:23 | 英国事情