小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英女王とBBC その2


  BBCが英女王に関する番組(秋に放送予定)を巡って、謝罪をした話は、まだこちらで続いている。

 昨日、BBCの夜の番組「ニューズナイト」に、BBC1のコミッショニング・エディター・責任者が出た。コミッショニング・エディターというのは、そのチャンネルで放送される番組のラインアップを決め、いろいろな人に、番組製作を依頼する仕事をする。

 案の定というか、いやーな説明になっていた。つまり、「編集の間違いだった。外に出すようなものではなかった。間違ってメディアに見せた」など。「放送しなかったのだから、ま、いいじゃないか」という点も繰り返した。

 「放送しなかった、一般視聴者の目に触れなかったからいいじゃないか」、というのは、大嘘っぽい説明である。

 つまり、社内だけで視聴したというならいざ知らず、メディア向け、である。秋の放送を宣伝するためにメディアに見せたのである。メディアは視聴者のために見ているのであって、個人的に見ているわけではない。メディアに見せた時点で、すでにパブリックに見せた、ことになる。

 そこで、キャスターが「メディア向けのプライベートな視聴というのは、存在しないはずだが?」と切り返す。「そうだ!!」と私は思ってみていたが、思ったほどには鋭い質問がないような感じで、がっかりした。

 つまり、「外に出るべきでなかったクリップが何故外に出たのか・出したのか」、「誰がどういう意図で編集したのか」が、まず分からない。「外に出るべき代物でなかったら、何故作ったのか?」

 そして、サンデータイムズ紙の記者やその後の報道では、このエディターは、メディアに対し、「写真家と女王の間で言い争いがあり、女王があわてている場面がある」として、これを売り物にしたようなのである、秋のラインアップの中で。おもしろおかしく、かつ「これで視聴率が上がる」と思ったのだろうか。恥がないのだろうか?スキャンダルだったら、次の日の新聞にも大きな見出しが載るし、そうすると、やはり視聴率は上がるのは確かだろうけれども。

 つまり、ここからが推測になるが、やらせっぽい匂いが気になるのだ。

 「誰かが」、場面の流れを「故意に」変えて、作ったもの=もっとスキャンダラス、もっとドラマチック=新聞に大きな見出し=視聴率、上昇=自分の評価があがり、給料もあがる=「故意に」変えたことなど、誰も気にしないだろう=あくまで番組の一部を切り貼りしたものなんだから、後で何とでも編集できるし、何とでも説明できるし=まあ、どっちに転んでも、自分の責任は問われないし、うるさく言われたら、外部の製作会社が作った、BBCはそれを流しただけ、といえばいいさ・・・・。

 陰謀説ではないのだが、「スキャンダラスに見えても(事実とは例え違っていたとしても)、かまわないし、どっちかというと、そう見えることを望む」気持ちがアリアリだったのが、あまりにも見えすぎる・・・。何しろ、集まったメディアにこのクリップを見せた、この責任者が、このクリップを目玉として紹介していた、というのだから。確信犯といってもいいかもしれない。

 そこでいやなのは、言い訳がすごい部分だ。上の私の推測の中で、後半部分の「あくまで番組の一部を・・・・外部の製作会社が作ったといえば・・・」というのは、まさにそういう説明が今されているのだ!

・・・と思っていたら、例の、元ブレア首相のプレス担当だったアレステア・キャンベル氏が「ブレア・イヤーズ」という日記を出版し、これが話題になっていたが、何とBBCは3日間、連続で特別番組を作って放映した。3日ですぞ。尋常ではない。そして、月曜日に(か火曜日)の朝のラジオのニュース番組「ツデー」では、キャンベルと、キャスターのジョン・ハンフリーズを相手に、30分間、インタビュー。こんなに長いのも前代未聞といっていい。長すぎる。

 テレビのキャンベル物語は今日が最後だったが、これにも衝撃を受けた。というのも、キャンベル+元国防省顧問ケリー氏の自殺という物語を説明すると非常にながーくなってしまうので、割愛するが、短くすると、キャンベル氏は間接的にケリー氏を殺したような部分があるのだ。そして、BBC対キャンベル・官邸というメディア戦争があって、BBCはトップの2人が引責辞任までしている。いわば、BBCにとって、キャンベル氏は敵なのである。

 それでも、超破格の扱いで3夜連続で番組を放映し、かつ、今日の最後には、「ハットン調査委員会はキャンベル氏がイラクの脅威に関する報告書で、脅威を誇張させたことはなかった、とした」、「調査委員会は、BBCの元ラジオの記者の報道が正しくなかったと厳しく批判した」という文句が画面に出て、終わるのである。

 かつての敵に塩を送る、という行為ではなくて、つまりこれも視聴率なのである。

 しかし、BBC対キャンベル・官邸というメディア戦争があって、人一人死に、BBCのトップ2人も失ったのに、よくもまあ、と思う。特に最後の文章は、あたかも、BBCが「BBCの報道の負け。キャンベルの勝ち」とでも言っているようだった。BBCにはもう何のプライドもないのだろうか。自分のジャーナリズムにプライドはないのだろうか・・・。そんなことを考えた夜だった。

 

by polimediauk | 2007-07-14 06:31 | 放送業界