小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

BBC アブグレイブ刑務所写真の告発者 

イラクのアブグレイブ刑務所で起きた、イラク人拘束者に対する米軍の虐待事件を記憶している方は多いと思う。

 昨日、BBCのラジオ4「ザ・チョイス」という番組で、虐待事件を明るみに出した米兵(現在は民間人)の、英国でのはじめてのインタビューが放送された。
 http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/6930197.stm

 ジョー・ダービーという男性がその告発者。番組を聞いてみると、告発後の人生が相当につらいものであったことが分かる。

 どのようにして写真に出くわしたかと聞かれ、イラクで従軍中のある日、後に逮捕される別の米兵からいろいろな写真が入ったCDを渡されたという。最初は観光写真のようなものがあったけれど、後で有名になった、人間ピラミッド(イラク兵を裸にし、ピラミッドを作らせて、米兵がカメラに向かって笑っているなど)の写真やそのほかの虐待の写真があった。

 あまりの衝撃に、建物の外に出て、タバコを吸って頭を冷やさなければならなかったという。これをどうするか、2-3週間悩んだ。思い切って、マニラ封筒に入れたものを、しかるべき部署に渡す。「こんなものが置いてありました」と最初は言っていたようだが、そのうち、2-3時間詳しく聞かれて自分が見つけたということが明らかにされる。

 ダービー氏の部屋は当時ドアがなくて、ドアの代わりにレインコートをかけていただけで、写真の中にいた米兵にのどをかっきられるなど、殺されるかもしれないと思いながら数週間が経つ。そのうち、関係した米兵たちが連れ去られたので、一安心していたところ、食堂で仲間と食事をしていたときに、テレビでは写真をきっかけとした虐待事件の公聴会の様子が放映されており、ドナルド・ラムスフェルド氏が、「ジョン・ダービーに感謝する。おかげでこうしたことが明るみに出た」と、名指しされてしまった。(後でラムスフェルド氏から手紙が来て、「匿名にするようになっていたことを知らなかった」と書かれてあったそうだが、ダービー氏はこれを信じないと語っている。こういう時のスピーチは事前に周到に準備されたものであるし、当時軍のトップだった人物が知らないわけがないからだ。)

 ダービー氏はそっと食堂を抜け出したという。

 一方、ダービー氏の米国の地元では、妻がメディアに追い掛け回されていた。妻はまったく何が起きたのか知らなかったという。また、地元では、ダービー氏は何と「裏切り者」、「イラク人のために米兵を裏切った奴」とされて、憎しみの対象になってしまった。

 妻は町を離れ、米国防省に連絡を取り、保護を求めた。ダービー氏にも連絡がきて、氏は突如イラクから去ることになる。

 夫妻は新しい場所で居を構え、仕事も変えた。最初の半年間は政府の警備がつきっぱなしの生活だったという。

 現在でもふるさとには戻れないダービー氏だが、告発したことを後悔したことは一度もないという。すごいなと思った。

by polimediauk | 2007-08-08 18:15 | イラク