ダイアナ妃 新しい時代の始まり
国民のプリンセス、と言われたダイアナ元皇太子妃のパリの事故死から、8月31日は10年目。メディア報道と人々の反応を振り返ってみたい。
まず、31日にはダイアナさんをしのぶ追悼式がロンドンのバッキンガム宮殿近くの礼拝堂(近衛騎兵隊連隊舎内)で行なわれた。
出席者は、チャールズ皇太子、エリザベス女王、など親族30人に加え、ダイアナさんの面倒を見ていたスタッフ、クリフ・リチャード、エルトン・ジョン、リチャード・ブランソン、デビッド・フロストなど、芸能界やメディア界の人々や、メージャー元首相(離婚時の相談相手になったと言われる)、ブレア元首相や、ブラウン夫妻など。ダイアナさんの姉、弟のスペンサー伯爵、一緒に車に乗っていた恋人のエジプト人実業家ドディ・アルファイドさんの妹カミラさんも招待され、出席していた。
チャールズ皇太子の現在の妻、カミラ夫人は出席せず。ウイリアム王子とヘンリ(通称ハリー)王子に招待されていたが、結局、欠席を決意したという。国民の関心がダイアナさんでなく自分に向くのを避けたい、ということだった。元々出席する冪かどうか迷っていたようだが、ダイアナさんの友人の一人が、タブロイド紙の1つに、「カミラさんは出席するべきではない」と書き、これがきっかけとなったようだ。
結局、一般国民がこの式典に直接参加することはできないことになり(10年前の葬式では、100万人以上が参加したとされており、葬式会場の外には巨大スクリーンがあって、外にいる多くの人も参加気分を味わえたようだ)、不満の声が出ていた。
ちなみに、ダイアナさんとチャールズ皇太子の結婚は81年で、離婚は96年。カミラ夫人との再婚は2005年となっている。
式典の形式や招待客のリストは2人の王子が周囲のアドバイスの下で、決めたという。ダイアナさんが好きだった曲(ラフマニノフ、モーツワルトなど)を二人で選んだ。リスト作りや音楽の選曲では、アイポッドで曲を聴いたり、テキストメッセージを送りあって、話し合って決めたという。
テレビでは朝11時ごろからBBCが中継。民放ITVもやや時間をずらして生中継を開始した。
ゲストが礼拝堂に入った後、親族が入るのを、2人の王子が礼拝所の出口に立って、出迎えた。「王子が計画し、王子が招待した」というイメージが明確に出た。特に印象的だったのは父のチャールズ皇太子が入ってきたところだ。キスをしあい、やや緊張しながらの会話の様子が画面に出た。会話はマイクで拾われなかったので、画像だけだが、何ともほほえましい感じがした。途中で、ヘンリー王子がスピーチを書いたメモを持っているかどうかを父が聞き、ヘンリー王子がいろいろなポケットを探した後に、上着の内側のポケットに入っているのを見つけホッとする表情を見せる場面もあった。
この場面の前に、チャールズ皇太子が車から降りて、入り口に立った時、外で待っている国民の一人が、「偽善者!」と叫んだ。ダイアナさんと結婚していた時からカミラ夫人と愛人関係にあったことを指したのだろうか?しかし、皇太子と王子が待っている中に、最後にエリザベス女王が入ってくると、拍手と喚声が上がった。女王への尊敬の念は強いなあと改めて思った。
式典の中で印象深かったのは、ロンドン司教が、「ダイアナさんの過去の記憶に対する様々な議論を、この式典の場を最後にして、やめようではないか、ダイアナさんを安らかに眠らせよう」、と訴えたところだった。ダイアナさんの死には陰謀説が根強い。フランス警察当局の調査で事故死、英国の捜査チームによる調査でも事故死となったが、現在でも、死因を究明するための公開審問がロンドンの高等法院で行なわれているのだ。ちなみに、民放チャンネル4の調査(8月31日放送分)では、国民の25%がダイアナ妃は事故死でなく、殺されたと思っているそうである。
式典の話に戻ると、最大の注目点は、ヘンリー王子のスピーチだった。母が亡くなった時は12歳。今22歳だ。自分で書いたスピーチ原稿の紙に時々目を落としながらのスピーチだった。「兄弟2人の人生は母の死の前後で分かれる。母は無限の愛情を2人の子供に注いでくれた。ダイアナ妃といえば、人々は、母が手がけた、公のための仕事を思い出すだろう。僕たち2人にとっては、世界で最高の母親だった。素顔は愛情深く、ジョークを言って大笑いする女性だった。僕たちの守り手であり、友人だった。母は父同様に、僕たちに安定した子供時代を提供することに力を入れた。母の死は言葉で表せないほどショックで悲しかった。しかし、これから非常に重要なのは、楽しいことを愛し、寛大で、本物だった女性として母を記憶に残すことだ。僕たちは母のことを毎日思い出すし、思い出して二人で一緒に笑う。母は僕たちを、そして多くの人を幸せにしてくれた。(人を幸せにした)女性として記憶してくれるように、と願っている」。
ウイリアム王子は目をつむったままでずっと聞いていた。泣いているようにも見えた。
礼拝堂の外には柵があって、数百人のファンが集まっていた。テレビ局にインタビューされ、ファンたちはダイアナさんがいかに王室の人間らしくなく、気さくで、暖かみがあり、人の心を思いやる人間だったか、笑顔が素晴らしかったか、チャリティー活動に力を入れていた人物だったかを、感慨深げに語っていた。この日はハロッズ百貨店(亡くなったダイアナさんの恋人の父親が所有する)も含めて、英国内の数箇所でセレモニーが開かれた。
この10年間、ダイアナ報道は絶えることなく続いてきた。国民の王室への関心は非常に高い。
また、ダイアナさんと恋人ドディ・アルファイドさんの乗っていた車は、パリで、パパラッチに追いかけられ、トンネルの中で自動車事故になるわけだが、メディアの過熱報道への反省という面からメディア報道のよしあしを考える、ダイアナさんとメディアの関係を考える、というテレビ番組がここ二-三か月の間にいくつか作られた。
9月1日の新聞は、殆どが一面のトップでダイアナさんの式典を扱った。報道の中心になったのは(1)ウイリアムとヘンリー王子の2人がいかに今回の式典を上手に開催したか、(2)この日で、ダイアナさんのことを際限なく書き立てるのは終わりにしよう、という「区切り」と見るロンドン司教の言葉を引用したものだった。
2人の王子が仕切った式典で、英王室の新しい時代の幕開けを見たように思った。
(ビデオなどは以下のBBCサイトから見れるはずです。http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/6971415.stm )