二極化するダイアナ元妃の評価
現在のところ、英国民はダイアナ元妃(以下、ダイアナさん)のことをどう思っているのかー?こういう質問を10周年追悼式典前後、受けた。答えは誰に聞くかによって変わるのではないかと思う。王室に聞けば、忘れたい存在(ただし2人の王子は別としても)だろうし、おおよそのところ、好印象はないはずだ。写真誌ハローの読者にとっては、今でも忘れられない存在だ。読者の84%が「ダイアナさんに代わるような象徴的存在は現在いない」(今年9月4日号)と答えている。ダイアナさんにまつわる様々なグッズを集め続ける人、地雷撤去やエイズ撲滅運動への貢献を高く評価する人もいる。
新聞では、高級紙は一般的にさめた見方が多く、大衆紙は「読者がダイアナさんを慕っている」という前提を基に記事が書かれているようだ。
目だったのが、高級紙を中心とした、ダイアナさんバッシングだった。「バッシング」というと言葉がやや強いが、ダイアナさんがインテリジェントではなかった、学業成績が十分に高くなかった、次々と愛人を持った点を指摘し、最終的には「こんな女性を慕う・尊敬する・高く評価する」のはまともではない、という結論につながってゆく。かつ、10年前、ダイアナさんの紙が伝わると、国民全体が悲しみの感情を表したことを、「今になって恥じる」という論調がよく出た。「あの時取り乱した私たちは、どこかが狂っていたに違いない」、「いや、あの時はああいう形で感情をあらわにすることが重要だった。今になって恥じるべきではない」という論調を、ガーディアン、タイムズなどで見た。ダイアナさんをほめる記事は少ない。「ダイアナさんをほめる=英知識人のタブー」のような感じさえあった。
ダイアナさんをほめる、あるいはダイアナさんの死を嘆き、その感情をあらわにすることが、何故タブーになるのだろう、誰がタブーだと見ているのだろうと考えていたら、タイムズのコラムニスト、マシュー・パリス氏が、9月1日付けて書いていたコラム( Off to the class war in a supermarket trolley )を読んで、なぞがとけたように思った。
パリス氏によると、これは英国の「クラス」の問題だ。つまり、一定の線から上のクラス(ミドルクラス+上)は、巨大スーパーマーケット、「ダイアナマニア」(ダイアナさんに熱狂すること)、ローコストの航空会社などを嫌う・格好よくないことと思う傾向があるという。
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/columnists/matthew_parris/article2364189.ece
私はローコストの航空会社をよく使い、スーパーにも特別な好き嫌いの感情はないが、「ダイアナマニア」には共感できない。それでも、このコラムで、何故高級紙に書くコラムニストたちがダイアナさんに否定的な記事を書くのかが分かるような記がした。氏によると、上の階級がダイアナマニアを嫌うのは、「大衆の存在」を思い出させるからだ。ダイアナさんは良家出身だったが、大衆に愛され、その死を悼まれた。エスタブリッシュメントは大衆の愛情や悲しみを嫌うという。(やや分かりにくいかもしれないが、最後の部分の大体の訳を載せてみる。)
「ダイアナさんの死は英国を変えなかった。(死は)現在のエスタブリッシュメントに、イングランドの大衆に直面した時の不安感を思い出させた。・・・・フランス革命が起きてからというもの、イングランドの社会の半分は、『ああいうことがここでも起きるのだろうか』と窓の外にいる大衆を神経質に見ながら、思っていた。私たち(注:エスタブリッシュメント)は本当には民主主義を信頼していない。英国民を本当には好きではないのだ。口に出してそうは言わないが。英国民・大衆が行く店を冷笑し、大衆が読む新聞に肩をすくめ、大衆が使う交通機関を認めず、大衆が楽しいと思うことは味気ないものと見て、大衆の悲しみから後ずさりする。」(注:私の少ない経験からも、実際、そうであるようです。)
「(大衆が好む)ばかげたテレビのソープ・オペラを好きなだけあざけった後で、(ラジオのソープ・オペラ)『アーチャーズ』を聞けばいい。低価の航空会社の飛行機が排出する温暖化ガスを嘆き、その後で4倍ものガスを排出するビジネス・クラスに乗ればいい。でも、こっちの方が質が高いから、価値があるから、環境的にいいから、美しいからそうする、などと言わないで欲しい。クラスの問題なのだ。今までもずっとそうだったし、現在もそうなのだから。」