英中銀総裁、首???
イングランド銀行(英中央銀行)の首が危なくなってきた。なんだか、どきどきしながら事態の成り行きを追っている。http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7004001.stm
ここ数週間、マデリンちゃん事件とともに英国で大きな話題になってきたのが、英住宅金融大手ノーザン・ロックの資金繰り問題だ。元々は、米国の「信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の焦げ付きと信用収縮」(日経の説明)状態が英国にも飛び火しつつの状況があったようだ。金融市場の不安定さが増し、ノーザン・ロックは資金ひっぱく状態となってしまう。
ひっぱく状態であることを、イングランド銀行が気づいたのは、キング総裁によると、8月上旬から中旬頃。ノーザン・ロックはイングランド銀行に資金融資を申し出る。これが報道されると、口座を持っていた人はノーザン・ロックが経営不振に陥ったと見て、どんどん、お金を持ち出し始めた。預金全部を引き上げる人もたくさんいて、どのノーザン・ロックの支店の前にも長い行列を作り出した。
これはまずい!ということで、エコノミストや経済記者、政府筋は「ノーザン・ロックは経営破たんをしていない。お金を引き上げる必要はない」と力説。しかし、これに誰も耳を傾けず、支店の前の列は長くなるばかりだった・・・。
私もこれはまずいなあと思ってテレビの画面を見ていた。実際に経営破たん状態にあるかどうか、というのは、多くの人にとってはあまり関係がない。「危ない」という噂がたつだけで十分だし、不安を感じて預金者が口座を引き上げれば、前は危なくなくても、危なくなってしまうのである。
「2000ポンド」(約50万円)までは全額預金は保障されるのだから、「大丈夫」といくら言われても、3000ポンド持っている人はどうなるのか?
とうとう、政府は「全額保証する」と前代未聞のことを言わざるを得なくなってしまった(全額保証は、一見したところ、良いように聞こえるが、事実上の国営化にもなる。また、銀行経営陣は損得関係なくビジネスができることにもなる。最後は国が払ってくれるのだから。自由市場経済に反する動きとなるように思う。)そして、最初はしぶしぶだったイングランド銀行は、ノーザンロックに当初よりもはるかに大規模な資金供給をすることになった。
英国の金融はイングランド銀行、金融サービス庁FSA、,財務省が面倒を見ることになるが、ここら辺から、私はどきどきしてきた。大規模資金供給は、3者の話し合いがあったのだろう(それ自体はもちろん違法ではない)が、イングランド銀行は1997年から、政府から独立したのである。現在のブラウン首相(当事の財務相)が独立させた。一体、イングランド銀行の独立性はどこまで維持されたのだろう?
もし何らかの政府からの圧力があって、それに負けたのなら、「首」がかかった動きになるのではないか?イングランド銀行の政府からの独立性に、英政府も総裁も非常に誇りを持っていたはずなのだ。
20日付のファイナンシャル・タイムズは、キング総裁の将来に疑問符がついたことを社説などで書いてある。総裁の職の期限(5年)は来年6月頃で、これ以降更新するかどうかどうか。
FTも、政治家の一部も、預金者がノーザン・ロックの視点に長い列を作る前に「もっと何かできたのではないか」とキング総裁を批判的に見ている。誰か責める人を作りたいのかもしれない。
キング総裁は今日、下院の財務問題委員会に呼ばれて、ノーザンロック問題に関して、議員たちから厳しい質問が浴びせられた。「何故もっと早い時期に何かできなかったのか」と。一部を見ていて、どことなく、金融市場=情報の行き来で上下すると言う点が、どうもしっくりと来ていない議員もいるように見えた。おいそれと動くと、「イングランド銀行がここまでした」ということで、金融危機をあおる。何故もっと早い段階でノーザン・ロックを支援できなかったかと聞かれ、総裁は、「(鉄道車両の)緩衝器に衝突する前に列車を爆破させるわけにはいかない」と答えている。
支店前の預金者の列は、政治的にもマイナスで、「これで秋の総選挙の可能性が消えた」と書いた新聞もあった。大規模な資金供給の決定には「政府の圧力に屈したのではないか」と議員に聞かれ、総裁は、「個人の尊厳にかけても、ない」と答えている。
ノーザン・ロックの株価が下がったりし、そういう意味では犠牲はあったのだろうけれども、実際には銀行がつぶれたわけでもなく、大きな被害にあった人はほとんどいない。そうすると、今回の事件が危機だったとすると、金融や経済の危機よりも、イングランド銀行の独立性を巡る、政治危機のような気がしてならない。
大胆な推測:それにしても、20日付の新聞は一斉にキング総裁バッシング的な記事が出た。なんだか不自然だ。財務省やFSAの責任は???一説には、「首相のスピン」の結果といわれる。もちろん、ブラウン首相は「キング総裁を支持する」というコメントを出した。しかし、ブラウン氏は大嫌いなブレア元首相のことも、在任時代は常にほめていたのだった・・・。イングランド銀行に責任を押し付け、キング総裁に退いてもらう下地を作りたかったのかもしれない。総選挙に勝ちたいから、今回の危機を自分の失態とはしたくないのだ・・・。
****この件で久しぶりにFTの紙判を買った。何と1・30ポンド(約300円弱)となっていた。見出しのフォントが大きく、紙面にすかすかした空白があり、どうも読みにくい。あまり格好いいデザインとは思えないように見えた。また、これも久しぶりにデビッド・ピリング氏の記事を読んだ。今でも東京支局長だとしたら、もう5-6年で、ずいぶん長い赴任だ。内容は日本の政治予測だ。日本は2大政党にこれからなるのではなく、リニューアルした自民党(あるいは民主党など他の党)が牛耳る、と書いてある。一党体制はこれからも続くだろう、とあった。タイトルは「日本は首相なしでも何とかやっている」Japan gets by without a prime ministerだ。