小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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「ジャーナリストへの12のアドバイス」

  Mikさんに教えていただいた「ANY」(朝日・日経・読売)連合の件でCNET JAPAのサイトに飛んだところ、佐々木俊尚さんと言う方のブログがあった。毎日新聞の「ネット君臨」の連載の件など、読みふけってしまった。日本のジャーナリズム、新聞業界の将来など改めて考えさせられた。

http://blog.japan.cnet.com/sasaki/

 また、ミャンマーで亡くなった日本人写真家の方の遺体の写真が日本の新聞で出たか・出ないかで、問題になっていたことも別のブログで知った。

http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/07c68322be3e8bda8f4179a423865b8e


 英国の例を考えると、前に、イラクの爆撃後の写真をいくつかの新聞が使っていて、道にあった子供の遺体(手足がない)を、修正し、消したという事件があったと思う。これはガーディアンの例だったと記憶している。つまり、言いたかったのは「日本特有の処理」ではないということ。今回の写真だが、英各紙は1面や中面でカラーで遺体入りで大きく使っていた。

 遺体が入った写真が衝撃的であればあるほど、ずばり亡くなったカメラマンが言いたかったことだったという意味では、日本でそのまま出なかったのは残念ではある。ただ、どうも新聞文化、何をどこまで出すのかに関するコモンセンスなどが、日英では違うのではとも思う。このため、私は「100%載せるべきだった」とも言えない、複雑な思いを持つ。

 しかし、私が今、強烈に感じるのは、紙の新聞は「ワン・オブ・ゼム」になってしまったな、ということだ。鮮烈なカラーの遺体が入った壮絶な写真を見たければ、読者は他に行くだろうな、と。私が日本にいたら、きっとネットに行っていただろうし。「ワン・オブ・ゼム」、いろいろある中の1つ・・・。そんな感じがする。これはどうにも否定できない事実だと思う。

 ガーディアンのロイ・グリーンスレードのブログから、米ジャーナリスト、ハワード・オーエンズという人のブログに行き着いた。

http://www.howardowens.com/2007/twelve-things-journalists-can-do-to-save-journalism/

 この中に、「ジャーナリズムを救うために、ジャーナリストができる12のこと」というタイトルのエントリーがあった。読んでみると、なかなかおもしろい。最後に、別のジャーナリスト、マーク・ブリッグスという人が書いた「ジャーナリズム2・0」という出版物(PDF)を読むように、という項目がある。早速ダウンロードして読み始めたばかりだが、これもおもしろい(ウエブサイトからダウンロードできる)。読む人はプロの「ジャーナリスト」である必要は、必ずしもない。このところ、市民記者とか市民ジャーナリズムとか、あまり言わないようになった気がする。今や誰でもジャーナル、つまり日記を書く人になった。つまりは、ネット時代に読んだり書いたり、遊んだりする人だったら、誰でも何らかの参考になるようだ。
 
 オーエンズ氏やブリッグス氏の書いたもので、一番印象に残ったのが、「興味深くあれ」という箇所だった。ネットが生まれる前も、きっと同じだったのではないかー大昔から。読み書きに限らず。

 オーエンズ氏はまず、ネット時代になって、ジャーナリズムのルールが変わってきた、と言う。それは「ユーザーが決める(どんなニュースが重要で、いつどうやってニュースを入手するのか)」、「締め切りは関係ない。メディアがあるニュースを入手した時点で、ユーザーも知りたいと思っている」、「参加したいと思っている。ストーリーを正したり、付け加えたりしたい」ようになった、という。

 そこで、ジャーナリズムを新たに創生するために、ジャーナリストができる12のこととは:

―ブロガーになれ。ブログをはじめよ、というのではなく、ブログの熱心な読み手になれ。自分の心にぴたっとくるブログをすべて読む。趣味や関心ごとに関連するブログも。仕事に関係するブログも。ブログをやれば、いかに物事が変わったかが分かる。
―プロデユーサーになれ。文章だけでなく、ビデオカメラ、マイクなどを買って、自分でコンテンツを作れ。仕事の一部としてやれるのだったらいいけれど、そうでなくても、プライベートな時間を使う。ユーチューブとか、フリッカーとかにアップしてみる。
―ウエブサイトを作れ。既存の「ブロガー」とか「ワードプレス」を利用するのではなく、一つ先を行け。HTMLを覚える。自分の名前をドメイン名にしよう。
―ウエブの知識に詳しくなれ。どうやって他の人がウエブサイトを作っているか知ろう。そうすれば何が限界で何ができるかが、分かる。
―RSSを使おう。
―オンラインショッピングをしよう。もっとデジタル的な生活様式になじむために。使いながら、どうしてこんなサイトあるのかを考えよう。
―携帯機器を買おう。IPODやハイテクの携帯電話を買う。どうやってコンテンツが配信されているのか学ぶ。どこに行くのでも持っていく。ラップトップを買って、WIFIの働き具合を試してみる。デスクトップのPCの前に座らないデジタル・ライフがどんなものかを学ぶ。
―デジタルコンテンツの熱心なユーザーになろう。ユーチューブでビデオを見る。ビデオをダウンロードし、ポッドキャストを試そう。世界で最高のニュースのサイトを訪れ、何をやっているか、見よう。テレビよりもコンピューターをもっと見よう。
―学習者になれ。テクノロジーや文化は早いスピードで変わっている。学び続けていなかったら、追いついていけない。
―同僚と自分が学んだことを話そう。
―最後に、マーク・ブリッグスの「ジャーナリズム2・0」を読もう。

 それと、最後に。上司に言われてから学習してはいけない。あなたの仕事は給料の支払い明細書をもらう場所にある。キャリア作りは自分がやることで決まる。上司はあなたのキャリアに責任はない。自分だけだ。誰かが変化を起こすのを待ってはいけない。自分のために、自分で変化を起こそう。(ここまでが引用)。

 12の点を読んで、参考になったと思う私は、「古い」ジャーナリストだと痛感もした。

 このブログのコメントの中に、読みに来た人が、今度は12のできることを挙げている。

1.公的利益のために働こう
2.読者を知る。読者とともに生き、声を聞き、読者から学ぼう。
3.ジャーナリストが決して十分な知識を持っているとは限らないことを肝に銘じ、読者に情報を与えること以上に学ぶこと。
4.正確さと公平さを決して失わない。
5 自分が偏向していることを自覚する。本当に客観的な人とは、(問題を)気にかけない人のことだ。ジャーナリストは気にかけないではいられない。
6 情報源を疑うことを忘れない。
7 情報公開法を熟知する。情報源とはプロフェッショナルなかつ尊敬しあう関係を持つ。
8 情報が正しく伝わるよう、明確な表現方法を学ぶ。
9 政治信条やイデオロギーに過剰反応をしない。
10 主張するのではなく、検証する。
11最新のテクノロジーをうまく使う。
12 ハーワード・オーエンズの「12の・・」を読む。しかし、情報の伝え方よりも中身が大事であることを忘れるな。

(和訳は大体の訳です。オリジナルは原文をご覧ください。)

by polimediauk | 2007-10-12 07:42 | ネット業界