小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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BBCのサイトに広告! 削減策発表

c0016826_5513168.jpg  昨日から今日にかけて、人員削減を含めたBBCの合理策が発表され、ほかにもITVが視聴者参加型番組での不正行為の調査書を発表するなど、様々なことが起きた。

 BBCのカット策は、全体をどう把握していいものやら、頭がグルグルする感じがする。意味するところはかなり深いような気がする。デジタル時代になって、テレビもコンピューターやケーブルサービスを通して見るようになって、後で番組を見たり、参加したり、ポッドキャスティングしたりとか、いろいろできるようになったところで、今こういうことをする必要があったのだろうな、という気もする。

 すでに報道されたところによれば、合理化計画によって、制作される番組が10%減る、1800人が人員削減対象になる。これは20億ポンド(約4700億円)の予算不足を補うための措置とされている。理由として、主にネット時代の将来を見越して・・・ということ。

 何故予算不足が生じたのか?だが、「予算不足」という言葉自体がやや誤解を招く。別の言葉で言うと、「BBCが(いわば勝手に)あれとこれをしようと、決めて予算案を作り、これを政府に提出したが、政府は希望通りの値上げでなく、思っていたより低い額をOKした」ということ。つまり、了承された予算では、BBCがやろうとしていたことが全部できないことになったのである。

 もしこれが普通の家庭の話だったら、「壮大な計画を変える・縮小する」プラス「倹約する」、「もっと稼ぐ」となるであろう。

 BBCは、「若干、計画を変える・が、基本線は変えない」。「倹約(コストカット、人員カット)」と「もっと稼ぐ」をすることに決めたようだ。

 やろうとしていたことを大幅に変えない、つまり、デジタル化路線の推進は時の流れだろうと思う。

 振り返ると、前の文化スポーツ大臣が、英国のデジタル化を勧めるにあたって、BBCがその主導役となることをBBCに約束させていた。2012年以降、英国ではアナログ放送が全て停止され、デジタルのみになる予定だ。

 BBCに勤めている人に聞くと、「デジタルサービスにばかりBBCはお金を使い、スタッフや番組の質の向上のためにお金を出さない」と言う。この分析の後半部分の正当さは判断が難しいが、「デジタルサービスに力(お金)を注いでいる」というのは確かだ。

 すると、英国全体のデジタル化推進のために、BBCが腹を切らされた、という見方もできる。

―誰にとっていいことか?

 これが果たしていいことなのか、悪いことなのか、どうも直ぐには判別できない。つまり、誰にとっていいことなのか、悪いことなのか。

 BBCで働く人にとってはもちろん大問題で、ストも予定されていると聞く。しかし、民放からすればBBCの縮小は大いに結構で歓迎だろう。国民というか、テレビ受信料を払う側からすれば、効率的にお金を使って欲しいわけだから、もし不必要な部分があるのであれば贅肉をそぎ落とす作業は歓迎かもしれない。

 しかし、番組製作本数が10%減る、ということは、つまりリピート作品が増えることを意味する。「リピートが増える」ことは果たしていいことか、悪いことか?「見逃していた番組をもう一度見れる」とも言えるが、やや貧相ではないか、お金が無くて時間が埋められない、なんて。

 BBCニュースの報道だけを見ていると、なんだか貧相なBBCになりそうで、寂しい感じがする。もっとデジタル化が進んだときの準備として、「スリムなBBC」に国民のほうが慣れるべきなのであって、今回の措置はショック療法として受けとめるべきなのだろうか。今のところ、悲観論ばかりが聞こえてくる。

 私自身が個人的に結構ショックが大きかったのは、BBCのニュースサイトに広告が入る、という動きだ。来月辺りから、英国以外からアクセスする人は画面上の広告と出くわすことになる。

 海外ニュースを統括する、リチャード・サンブロック氏のブログによると、新しいBBC憲章(BBCの活動内容を規定する文書、現在のものは今年から適用)によると、国内の受信者から得たテレビ受信料を国外の視聴者のために使ってはいけないことになった、と言う。彼によると、「海外からBBCのサイトをアクセスする人はたくさんいるし、広告費がサイト運営の明らかな収入源になると判断」した、という。すでに、BBCワールドを見ている人は番組内に広告が入っているので、目新しいことではない。

 これに対し、ユーザーからたくさんの意見も寄せられている。これを支持する人もいれば、支持しない人もいる。広告が入っても構わない(ニューヨークタイムズにしろ、たくさんの新聞社のウエブサイトに既に広告が入っているが、ジャーナリズムの質とは関係ない)という人、「いや、おかしい」という人など。

 受信料の値上げ率のことをここで確認してみると、それまで131・50ポンド(今1ポンド=250円ぐらいだが、計算やすさのため200円として、約26000円・年間)だったが、4月から135ポンド(2万7000円)に上がった。今年と来年は3%の上昇率で、それから3年は前年比2%ずつ上がる。それ以降はまだ決まっていない。

 以前は、インフレ率(物価指数など)にプラス数パーセントだったが、今回から、インフレ率と連動させるのをやめている。従って、インフレ率が2%ぐらいだとすると、例えばだが、実質上昇は前年比0%か、ことによってはマイナスになるのである。

 労働党政権(1997年発足)になってから、いつもはBBCが「これぐらい」とリクエストをだすと、殆どそのまま政府はOKを出していた。今回、希望額より低くなり、かつインフレ率との連動がなくなったのは初めて。

 BBCにとっては、ずい分厳しいことになった。

 BBCは編集権が政府から独立、ということになっているけれども、予算の上下に関しては、政府に首根っこをつかまれているわけである!

 BBCの受信料の交渉は毎10年ごとだ。今回の受信料設定は2016年末まで。その前の10年間の場合、インフレ率プラス1・5%の上昇率だった。

 今回の設定は2016年まで、と書いたが、額が設定されているのは途中までで、後半の年数に関しては「近くなったら、再交渉する」ことになっている。これは、デジタル化が進み、テレビ受信料制度を続けるかどうかを含めて議論をする必要がある、と見られているからだ。

 弱肉強食の時代になったのである。

by polimediauk | 2007-10-19 05:55 | 放送業界