小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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BBCのTODAYが50周年

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(TODAYのキャスター、サラ・モンタギューとジェームズ・ノクティー BBC提供)

 BBCラジオ4のTODAYという朝のニュース番組が、日曜日(28日)で放送開始から50年となる。http://www.bbc.co.uk/radio4/today/

 英国に住み時事問題を追っている人なら、誰もが知っている番組だ。特にメディアや政治家にとっては聞くのが必須。といっても、月曜から金曜は朝6時から9時放送で(土曜は7時から9時)、3時間ラジオの前に座っている人は多くない。8時過ぎには政治家をはじめとした著名人のインタビューがあり、「とりあえずは朝起きたらラジオのスイッチを入れ」、朝ごはんを食べながらあるいは出かける用意をしながら、バックグラウンドで聞く人が多いかと思う。

 もし聞き逃しても、ウエブサイトから過去1週間分の放送が後で聞けるようになっている。ただし、この番組でのコメントがその日のニュースの議題になることも多いので、「とりあえず聞く」ことが大切かもしれない。実際に聞くにせよ聞かないにせよ、その日の議論の前提になっていることは広く認知されているように思う。

  私自身は、ニュースの見方に一定のラインがあるのでいやだなあという思いもある。一定のラインというより、バイアス・偏見といってもいいかもしれない。

 このバイアスはTODAYだけでなく、BBCのニュース全体に共通する。つまり、最初のスタンスはニュートラルでなく、左なのだ。

 これ自体の何が悪いのか?と不思議に思われるかもしれないが、例えば、閣僚は「何かを隠している悪い奴」、大企業のトップは「不当に高い給料を得ている太った猫・悪い奴」となる。相手が口を開く前から既に相手は「悪い奴に決まっている」というスタンスで、インタビューが行われる。

 また、欧州連合にはシンパシーを持つようだ(これは国民感情とは逆)。

 キャスターは「英国南部・白人・男性・ミドルクラス」の流れを汲む。実際女性キャスターも活躍しているのだが、どうもやや軽い位置づけになっているように思えてならない。

 著名キャスターの一人がジョン・ハンフリーズ氏というのだが、彼は特によく大企業の巨大ボーナスを攻撃する。しかし、彼自身がものすごい高額の報酬を得ている。高給であってもそれ自体が問題ではない、と思うかもしれないのだが、「私たち庶民からすれば・・・」というスタンスでよくインタビューを行うのだけれども、どうも私はハンフリーズ氏が庶民とは思えず、欺瞞を感じてしまう。著名番組の名物キャスターがどうして庶民になるのか、と。

 ・・・という点はよくこちらの新聞でも指摘されている。とは言っても、TODAYが時事議論の中心的存在であることは、誰がなんと言っても(少なくとも現在のところは)真実だ。無視できない存在なのだ。

 TODAYの悩みはリスナーの高齢化だ。リスナーの平均年齢は55歳ぐらいのようだ。これはあくまでも「平均」であって、30代、40代のリスナーも大分いる、と聞いたけれども。

 TODAYが普段この番組を聞かない人の間でも大きな話題となったのは、2003年から2004年にかけてだ。何度か前にも書いているけれど、イラク戦争に関わる情報操作を巡って、ブレア政権と大喧嘩をしたからだ。

 イラクへの武力行使には国民の多くが乗り気ではなく、時のブレア首相は世論を味方につけようと、2度にわたり、イラクの脅威に関する報告書を出した。その中の1つで大量破壊兵器の脅威に関する文書があったが、何でも、「45分で」英国領を攻撃できる、と主張していた。ブレア氏は「45分」を議会でも繰り返し、翌日の新聞は「45分で攻撃が!」と書きたてた。

 2003年3月18日、ブレア氏は議会で開戦への支持を訴えた。野党保守党の議員が支持に回り、まもなくして武力行使が開始された。

 その年の5月末、当時TODAYの記者だったアンドリュー・ギリガン氏が、「政府文書の中で、イラクの大量破壊兵器の脅威が誇張されていた、英諜報界の中に疑問を持つ人もいた」などと番組内でリポートした。この時のリポートの受け手がジョン・ハンフリーズ氏だった。いわば政府が嘘をついたと示唆していた。(このレポートもサイトから聞ける。)

 後になると重要だったこの放送を、当時TODAYのエディター(編集上の最終責任者)ケビン・マーシュ氏は、「耳にしていたはずだが覚えていない」と後に語っている。

 長くなるので少し端折るけれど、このリポートの情報源だった博士は後、自殺した。政府は博士の死を巡る調査を開始させ、この調査が2004年年頭、「政府文書は事実を誇張していなかった」とする報告書を出した。これを受けて、当時のBBの経営委員長と会長が実質上の引責辞任をしたのである。ギリガン氏はBBCを退職した。

 付け加えると、その後の情報がいろいろ明るみに出たところによると、何としてもイラク侵攻をしようとした米政府にあわせて、ブレア氏は諜報情報を集めさせ、実質上は誇張していたことがほぼ証明された。諜報機関が時の政府の意向に合わせて、「親しすぎる関係」を持っていたのだった(2004年7月発表のバトラー報告など)。

 結局はBBCの報道は正しかった。といっても、ブレア氏が嘘を言っていたのではないか?脅威は誇張されていたのではないか?というのは、うすうすみんな感じていたと思う。それでも、BBCのこの事件がなかったら、真相の究明は遅くなっていたと思う。

 ・・それはそれとしても、注目度の高い番組TODAYの制作現場を見る機会があった。私は8時少し前から1時間ほどとその後の編集会議を見学したが、オブザーバー紙(21日付)の記者は朝4時から行き、泊りがけで取材している。また、キャスターの一人、サラ・モンタギュー氏自身が、制作過程を紹介している。http://www.bbc.co.uk/radio4/today/about/

 番組がどうやって作られるのかを次回から再現してみたい。
by polimediauk | 2007-10-26 21:17 | 放送業界