小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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BAEシステムズの汚職捜査とコーナー・ハウス

 今日本で、空・防衛分野の専門商社「山田洋行」から複数回接待を受けていた守屋前防衛次官のスキャンダルが連日報道されているようだ。

 英国では、BAEシステムズがサウジアラビアに大規模賄賂を使って契約を取っていたとする疑惑で、重大不正局が捜査していたのだが、昨年12月、突如、捜査は中止された・・・と言う経緯があった。

 当時の法務長官やブレア前首相が言うには、理由は「国益のため」である。サウジとは「テロの戦争」で勝つために情報を交換し合っているし、サウジの中東に置ける位置、それに(言わないがビジネスや雇用の維持のため)などのもろもろが「国益」。

 首相(当時)に、「国益だから」とはっきり言われては、ある意味、反撃する言葉を失ってしまうと言うか、壁にぶち当たった感じだった。後でBBC「パノラマ」が、重大不正局のトップに取材した。「このまま捜査を続けたら、命も危ない」と言われたそうである。脅しである。その「命」はトップの命のこと、という意味で番組では言っていたようだ(サウジの過激主義者に命を狙われると言うことなのかどうか?)。つまり「殺されても知らないよ」――と。自分の政府にこう言われたら(脅されたら)、ビビるだろう。情けないかもしれないけど、「殺されてもいいから、正義のために捜査を続けてくれ」とは言えない。

 その後、「一体どうしたら?」と思っていたら、あるところで、コーナー・ハウスというところの人に会った。何とかして、捜査の停止は違法であったと証明し、「再度捜査を開始することを目指している」と言われた。言っていることはつじつまがあっているようだったけれども、捜査で「確かに賄賂だった」と証明されたとしても、そしてサウジがそれを認めて罰金か何かを払ったとして、その結果、BAEシステムズでなく、他の防衛会社からサウジが軍用機などを買うことになったとして、で、結局何を達成できるのだろう?とも思った。

  すると、その人は、「少なくとも、他の企業が、今度賄賂を使おうと思ったら、その前に、ちょっとは考えるだろう」と言った。これがこの人の最低限、本気で目指すことなのだ、と言った。サウジが今後一切賄賂をもらわなくなるとか、そういうことを狙っているのではなく(「理想的な世界ではどの国も賄賂を使わないのがいいけれども」)、と。

 今日、コーナーハウスが裁判を開始する件で勝利したというニュースが出ていた。もう1つのキャンペーン団体と共に、捜査中止がOECDの反汚職法の第5条(国家の安全保障に関わるという理由で汚職の調査を停止してはいけない)を違反したことを証明するために活動を続けており、高裁でこの件を扱うことが決まったようだ。来年1月末、2日間に渡る公判(どのような形になるかは今後6週間で決める)が開かれる。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7086997.stm

http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/
0,,2208451,00.html


 すごいことになった。あきらめない人はあきらめない。

 英国ではでかいレベルで汚職や人権侵害が起きている・・・。英政府は、いざ!という時、自国民でさえも守ってくれないようだ。英国人でサウジで働いていてテロリストとされて、拷問されて、英国に最後は戻ったけど、まだ「テロリスト」になったままの人の話をいろいろ聞いたせいか。外国の政府役人に拷問されたわけだが、英国内の法律では、最高裁まで言ったけれども、外国の政府役人を裁く法律は「ない」そうだ。法律のブラック・ホールだ。

 以下に、昨年末、捜査が停止された時のベリタ掲載記事をご参考として貼り付けたい。

2006年12月16日掲載
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200612161605416
サウジへの兵器売却汚職の捜査を英が中止 「国益を重視」とブレア首相

 サウジアラビアへの兵器売却を巡る汚職を調査中だった英国重大不正捜査局は12月14日、2004年から開始した捜査を突如打ち切る事を決定した。

 ゴールドスミス法務長官は、貴族院で打ち切り理由を説明し、捜査が起訴に至らない可能性が高く、捜査の継続はサウジアラビアと英国との関係に「重要な損害をもたらす」と述べた。ブレア英首相も打ち切りには同意しており、「法の支配の原則よりも国益を重視」した、という。野党は「サウジアラビアに脅迫された」と打ち切り決定を批判し、「これでは汚職打倒を他国に説くことは到底出来ない」と嘆く。打ち切りの背景を英各紙の報道から追った。 
 
▽汚職疑惑の発端 
 
 今回の汚職疑惑の対象になったのは、英国の大手兵器会社BAEシステムズのサウジアラビアに対する総額400億ポンド(約8兆円)の兵器売却契約で、80年代末から段階的に契約が進んできた。2004年5月、英ガーディアン紙が、BAEシステムズが巨額の賄賂を使って契約を取っていたと報道。同年11月、BAEは重大不正捜査局に捜査を受けていることを認めたが、不正行為は現在まで否定し続けている。 
 
 2005年12月、BAEは多目的戦闘機「ユーロファイター」72機をサウジ側に売却することになったと明らかにした。今年一杯、この交渉が続いてきたが、今月に入って、フランスの航空機製造会社がユーロファイターのライバルとされる戦闘機の購入契約についてサウジ側と交渉を開始していることが発覚。BAE側はユーロファイター購入交渉の進展がもたついていることを認め、12月14日、契約進展の妨害要因とも見られていた捜査の打ち切りが発表された。 
 
 サウジ側は汚職捜査が今後も続けば、ユーロファイター購入契約をキャンセルすることをBAE側にちらつかせていたとされ、サウジ側の圧力で捜査打ち切りとなった、というのが英国では一般的な見方となっている。 
 
▽「国益」の意味は 
 
 14日、捜査打ち切りを貴族院で説明したゴールドスミス法務長官は、捜査を続けても起訴に至らない可能性が高い点と、英国とサウジアラビアとの関係に「重大な損害が起きる」可能性があるため、「法の支配よりも国益を考えて」打ち切るべきと判断した、と述べた。 
 
 この「国益」の意味合いをさらに明確に述べたのがブレア英首相だった。15日、ブリュッセルで欧州連合の会議に出席中だったブレア氏は、「テロの打倒、中東関係など、サウジアラビアと英国は戦略的に非常に重要な関係」にあり、何ヶ月も何年も捜査が続けば、「両国間にいやな感情が起きる」として、打ち切りは「正しい決定だった」と述べた。 
 
 英政府側は、サウジ側との兵器契約が打ち切られた場合、数千人規模の雇用が消える、あるいは多額の売却金が得られないことになるという経済上の考慮は今回の捜査打ち切りの理由ではないとしているが、こうした説明を額面どおりに受け取らない見方が英国内では強い。フィナンシャル・タイムズのスティーブン・フィドラー記者は15日付の紙面で、サウジアラビアからの政治的圧力に加え、「ブレア氏は経済上の圧力に負けた」と書いた。 
 
 BAEシステムズは「捜査打ち切り決定の声明を歓迎する」とするコメントを出しており、BBCによると、他の兵器関連会社も打ち切りを好意的に受け取っている。捜査が続けば、他の国の業者に契約と取られるのが確実だったからだ。 
 
 野党自由民主党のノーマン・ラム議員は、打ち切りは「ひどい。恥だ」と述べ、「将来の武器契約をちらつかせるサウジアラビアからの圧力に屈するとは。優れた統治を行っているという英国の評判が傷ついた。これでは、開発途上国に行って、汚職のない統治を教えることなどできない。サウジアラビアに脅迫された」と批判している。(フィナンシャルタイムズ16日付) 
 
▽「英国らしい」 
 
 汚職をなくするための方法を考えるシンクタンク「トランスペアレンシー・インターナショナル」によると、経済協力開発機構の汚職撲滅に関する法律で、2002年から英国の法律制度に組み込まれた条項が汚職関連で起訴をするかどうかを決定する際に、他国との関係を考慮することを禁じている。しかし、今回はこの条項は適用されない結末となった。 
 
 この点も含めて、BBCのポール・レイノルズ記者の分析(15日付ウエブサイト)によると、今回の顛末は外交を最優先とする、「いかにも英国らしい問題解決方法だった」という。 
 
 レイノルズ記者によると、サウジアラビアと英国企業との間の兵器売却契約は「常に2国間の関係に依存」してきた。数日前から中東訪問を開始したブレア首相からすると、「今中東の伝統的な同盟国の感情を害する余裕はなく」、サウジアラビアが米国など他国から兵器を購入するという道を選ぶことも避けたいというのが本音だという。 
 
 サウジへの兵器売却の意義を問う声もある。 
 
 BAEシステムズ社が、サウジ側との兵器売却交渉が難航していることを認めた今月上旬、カタールやチュニジアに大使として赴任経験を持つスティーブン・デイ氏は、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューの中で、サウジアラビアへの武器販売を非難した。 
 
 「イランやイラクが互いに戦争状態にあった頃、両国の脅威から自国を防ぐためにサウジアラビアが武器を必要としていた、というのは分かる。しかし、今サウジに大量の武器を販売すれば、中東を不安定にするだけだ。汚職政治を行っている国を英国が助けた、とも受け取られてしまう」。(同紙5日付) 
 
 デイ氏は、英国がどうやったら中東和平に貢献できるかを真剣に考えるべきだ、という。「イラクの教訓は、軍事的な方法、兵器に頼ったやり方では問題を解決できない、ということだ。政治的解決がなければ和平はこない、ということなんだ」。 
 
 デイ氏の声はブレア氏の耳には届きそうにない。 

by polimediauk | 2007-11-10 07:25 | 英国事情